【要約】決断の本質―まず決め方を決めよ―
本書は、ハーバード・ビジネススクール教授のマイケル・A・ロベルト氏が書いた、組織における意思決定についての本です。質の高い意思決定とはどのようなものか、質の高い意思決定をするためにはどうすればいいか、複雑な状況下で難しい意思決定を迫られる、組織のリーダーたちに向けた一冊です。仕事や私生活における個人としての決断力について知りたい方は、本書のターゲットではありませんので悪しからず。
本書のメインメッセージは、タイトルにある「決断の本質とは何か」です。結論から書くと、決断の本質とは、その決断の「内容」ではなく、その決断に至る「プロセス」である、というのが本書の主張です。
なぜ「プロセス」が重要なのか
そもそも、意思決定が成功した状態とは、どのような状態なのでしょうか。組織の意思決定は、決めたら終わりではなく、それを実行して成果を上げなければ成功したとはいえません。もちろん意思決定の内容も重要ですが、決定した行動方針を推進する際の実効性もなくてはならないのです。
実効性を上げるために重要な要素は2つあります。それは、決定された行動方針に対する高度なコミットメントと、なぜそうするのかという根拠についての共通理解です。このどちらも欠かせません。高いコミットメントがあっても、目的や優先順位についての1人1人の認識が違えば、組織はバラバラな方向に進んでしまいます。共通理解があっても、決定を下したリーダーに対してメンバーが疑問を抱いており、高いコミットメントが得られなければ、実行の成果にマイナスが生じます。
高いコミットメントと共通理解を引き出すために、正しい意思決定プロセスが必要となるのです。
正しい意思決定プロセスとは
質の高い決断を導くための、正しい意思決定プロセスとは、どのようなものなのでしょうか。それには、建設的な意見の対立とコンセンサスの形成という、2つのステップが重要になります。
意見の対立には2種類あります。それは認知的対立と感情的対立です。
認知的対立とは、行動方針に関するそれぞれの選択肢のリスクや弱点を指摘したり、または重要な前提に疑問を投げかけるなど、実のある議論をしている状態のことです。認知的対立は意思決定の質を高めてくれます。
議論が白熱して感情が高ぶると、意見の相違が個人攻撃に転じたり、自分の意見に執着して反対意見に対して防衛的になってしまうことがあります。このような感情的対立は、決定された行動方針へのコミットメントを低下させ、共通理解の形成を阻害します。
対立した意見をまとめて、最終的に一つの行動方針を決めるためには、コンセンサスの形成が必要です。
そもそもコンセンサスとはどういう意味なのでしょうか。コンセンサスとは、全員一致という意味でも、多数意見という意味でも、複数意見の要点を取り入れた妥協案という意味でもなく、組織のメンバーがその決定に同意して協力する意思を持つという意味です。その決定に完全には満足していなくても、最終的な選択として受け入れられていればいいのです。
コンセンサスの形成がうまく行かない組織は、優柔不断の文化に陥っている可能性があります。1人が反対しただけで否決されてしまう「ノー」の文化。ミーティングでは反対意見を言わない代わりに裏側で反発する「イエス」の文化。客観的なデータを集めることばかりに時間をかけて決断を遅らせる「おそらく」の文化。リーダーはこうした障壁を乗り越えなければなりません。
リーダーのあるべき姿
建設的な意見の対立を促し、コンセンサスの形成を導くのはリーダーの役目です。
建設的な意見の対立を促すには、率直な意見を言える雰囲気になっているか気を配り、時には積極的に反対意見を求めることも必要です。その一方で、感情的対立を抑制することもしなければなりません。
また、本書の意味するコンセンサスに至るためには、意思決定プロセスの公正さが必要です。意思決定プロセスの公正感を高めるためには、まずはリーダーが他人の意見を本当に尊重している姿勢をはっきりと示さなければなりません。
リーダーが忘れてはならないのは、意思決定プロセスに関して人は批判的な心構えになるということです。こうした心構えのとき、人は他人の行動に敏感になります。形だけの代替案を提示したり、偏った情報収集をすれば、その行動にメンバーは幻滅し、コミットメントは低下します。
本書で述べられているリーダーシップを身につけるためには、相当な自制心が要求されます。自制心とは、恐れを感じずに他人の意見を受け入れる能力です。不確実性の高い現代のリーダーに必要なのは、圧倒的なカリスマ性ではなく、組織として最善の決断をするために、正しい意思決定プロセスを運営していく自制心なのです。
まとめ
• 決断の本質は決断のプロセスにある
• 建設的な意見の対立とコンセンサスの形成が必要
• 高いコミットメントと共通理解が行動方針の実効性を高める
この記事はあくまで要約なので、抽象的なことに留まっています。本書では具体的なアクションプランについても提案されているため、具体論まで知りたい方は、ぜひ本書を手にとって読んでいただければと思います。キューバ危機を乗り越えたケネディ大統領や、コロンビア号事故を起こしてしまったNASAなど、意思決定にまつわる様々なストーリーも紹介されており、読み物としても面白いのでおすすめです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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