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詩160/ わかよたれそつねならむ
心臓の中で
古い血と
新しい血だけでなく
第三の血だとか自分で言う奴まで
右の部屋にも
左の部屋にも
入り込むようになって
秩序無くひしめき合って
安いファズのような
耳新しいだけの心雑音が
既存の鼓動を凌駕して
心臓だけで勝手に盛り上がって
そのせいで
届くべきものが届かなくて
体中の他の器官達は
苦く醒め切った顔をしている
そのころ
末端のそのまた末端の
末梢神経と毛細血管は
寒さに震えながら
細胞の入れ替わりの連絡を
紙切れ一枚の通知書で受けて
爪先の肉と骨達に
通り一遍の別れの挨拶をする
全ては
巡りの中で変わっていく
何が巡ってくるのかすら
今はわからなくても
定期的に生じる波紋も
乱れによって生じる波紋も
同じように湖面を這って近づいてやがて貴方の岸辺に到達する
貴方は
その波で濡れた靴のまま
永い家路につくだろう
その家路は復路ではない
さりとて往路でもない
ただいつまでもどこまでも続く
家路という名の旅路であり
流れすぎる風景も
朝夕の明暗も
肺の中の空気も
頭の中の記憶も
体と心それ自体も
絶えず入れ替わっていくのを
別れを惜しむ間もなく
見送りながら
辿り着くことの無い
帰るべき場所へ向かい歩んでゆく
そして
その濡れ靴の足跡もまた
まばゆい陽の光を受けて
激しく騒ぐ
水分子の疲弊とともに
すぐに乾いて消えていく