上水春信

生きて、詩を描きます。(2024.11現在)

上水春信

生きて、詩を描きます。(2024.11現在)

最近の記事

詩163/ 貴方はたばこを吸うのですか

貴方は たばこを吸うのですか そうですか そうですか 私ですか いや 私は吸いません 嫌いとか 体に気を遣ってるとか 真面目とかじゃなくて 自分で吸うことに たまたま興味が無かっただけで 逆に 割と子供の頃から たばこを吸う人たちに 囲まれて育ったので 煙には全然抵抗はなくて むしろ僕は 人のたばこの煙を眺めるのが 好きなんです 煙が現れて 部屋を燻しながら 消えていくまでの 様々な道筋を見るのがね たばこの先から立ち昇る煙は 細い帯になって 魂のようにとぐろを巻

    • 詩162/ 蒸気

      僕らが居るのは こんな表面温度が0度や50度の 生ぬるい世界だから 僕らは其々に与えられた 凝固点や融点や沸点に従って 固体や液体や気体に 忙しく変化しなくてはならなくて混じり合って一つになれないのだ恒星のように 常に何千何万度の世界になれば 否応なく僕らは皆 其々異なる沸点など遥か超えて 蒸気になってしまうことができる そこには 体の概念も 心の概念も 死の概念もない 憎しみもない 悲しみもない 出会いも別れもない ただ全てが 気体として混ざり合う世界 もちろんそこには 液

      • 詩161/ 虚数

        この世界には 存在するはずがないのに 僕の中に くっきりと存在するものがある それは 空想や信念とかの類ではなく 間違いなく 僕の中に存在するもの 最初はその存在を 信じて描いていただけのものが 必ず存在するという 想いを持ち続けていたら それはいつのまにか僕の中で 存在するようになっていたのだ 昔学校で 虚数というものを習ったとき 二乗したら 負の数になるなんて そんなもの在るわけがない 意味がわからないと言ったら 意味など無い 意味など考えてはいけない

        • 詩160/ わかよたれそつねならむ

          心臓の中で 古い血と 新しい血だけでなく 第三の血だとか自分で言う奴まで 右の部屋にも 左の部屋にも 入り込むようになって 秩序無くひしめき合って 安いファズのような 耳新しいだけの心雑音が 既存の鼓動を凌駕して 心臓だけで勝手に盛り上がって そのせいで 届くべきものが届かなくて 体中の他の器官達は 苦く醒め切った顔をしている そのころ 末端のそのまた末端の 末梢神経と毛細血管は 寒さに震えながら 細胞の入れ替わりの連絡を 紙切れ一枚の通知書で受けて 爪先の肉と骨達に 通り一

          しばらく投稿できておらず、 失礼しております。 生きております。 再開まで少しだけ、 お時間ください…… 上水春信

          しばらく投稿できておらず、 失礼しております。 生きております。 再開まで少しだけ、 お時間ください…… 上水春信

          詩159/ フレームイン フレームアウト

          世界は 美しくもなく 醜くもない 優しくもなく 厳しくもない ただ 土くれと 水と 空のある空間に 蜜を吸う虫 他者を食う虫 命を繋ぐため歌う虫 なきがらを土へ還す虫が ただ それぞれの居場所に 居るだけのこと それ以上でも それ以下でもない 貴方が 悲しみの中で 失ったと思っているものは 貴方の世界の フレームから離れただけで 皆 それぞれ 自分の世界の 自分のいるべき場所にいる そして 貴方のフレームの中で 空いた場所にはまた 風に乗って 川の流れに乗って 何かが流れ着い

          詩159/ フレームイン フレームアウト

          詩158/ 幸せの詩

          こどものときは 幸せは 雛鳥のように おとなにもらうもの おとなになると 幸せは 成鳥のように 自分でつかむもの おとなは 生きるために狩りをして 幸せを 手に入れないといけない 世界には 生まれ出たときから 卵から孵ったら 分裂が終わったら あとは自分で 何とかしなきゃいけない そんな生き物すらも沢山いる 命が長かろうが短かろうが 生きるために 今日もあらゆる場所で 命は蠢いている 俺も その蠢く命の一つである 明日喰われて 終わるかもしれない一生だ 未来永

          詩158/ 幸せの詩

          詩157/ 江戸川の鉄橋

          仕事帰りの電車が 江戸川に架かる 鉄橋の上で停まった 緊急停車なんて 東京近郊では 特段珍しくはない 慣れきった出来事に 穏やかに冷めた すし詰めの車内 僕は 普段は停まらない場所からの 車窓の風景を ぼんやり眺めていた 土手道を走る 車のテールランプの帯 浅瀬にたなびく 葦の葉の群 隣に架かる橋の 橋桁にこびり付いた藻 風に漣だつ 夕闇の川面 電車が なぜ停まったのか 車掌が何度も 理由をアナウンスする 貴方が 謝ることではないのに 謝りながら 何度

          詩157/ 江戸川の鉄橋

          詩156/ 世界地図

          最初は真っ白で 希望に満ちていた 世界地図には いつしか 手垢がつき 泥がつき 油がつき 灰がつき 火薬がつき 血がつき 混ざり合わない くすんだ色で 埋め尽くされている ならばいっそのこと 地図を 墨で染めて すべての色を掻き消して 紙ごと真っ黒にしてしまおう 国境線も見えないように 肌の色も見えないように 紙幣の金額も見えないように 苦しみや憎しみに満ちた顔が 誰からも一切見えないように 世界を漆黒の夜に統一しよう それから ただの黒い紙になったその地図

          詩156/ 世界地図

          詩155/ 光の彫刻

          今 世界で一番性能の良い 電子顕微鏡で覗けば ウイルス達の 個々の容姿の違いは 分かるだろうか その 個性の違いが 分かるだろうか 物憂げな表情や 人間に何かを 訴えようとする口の動き それが分かるほど 精密に 彼らのことが見えるだろうか 違うことが 許せなかった人生 違うことが 誇らしかった人生 違うことが 悲しかった人生 違うことを 受け入れた人生 すべての人の人生を 宇宙の果てから 顕微鏡を覗くように 眺めて見てみれば たぶん 僕らが知っている ウ

          詩155/ 光の彫刻

          詩154/ AMラジオ.ノスタルジー

          昔 ラジオは 丸いダイヤルのつまみを回して 周波数を合わせるものでした 私は 田舎に住んでいましたから 大手のラジオ局の放送ですら ノイズ混じりに流れてくるので 流行りの歌や 軽快なお喋りを つまみを動かして 細かく微調整しながら 耳を澄ませて どうにかして 聞き取ろうとしたものでした 放送局ごとの 周波数の谷間では ただただノイズが 吹き荒れているだけでしたが つまみを回しながら 合わせたい局に辿り着くまでに 特に深夜なんかには ノイズの嵐のずっと遠くで 本来聞

          詩154/ AMラジオ.ノスタルジー

          詩153/ ことばについて

          言葉は 音であり 声であり 文字であるが 音だから 声だから 文字だから 言葉なのではない 言葉であるために 与えられる 何かがある しかしそれは 質量のある何かでは無く ましてや 電気でも プラズマでも おばけでも無く きっと 実体のある幻が 蝉のように 約束された短い間だけ 地表に現れ出て 羽ばたいては 宙を舞う透明な魂を 捕まえて包み込み 輪郭を可視化することで 言葉を 言葉足らしめているのだ という 言葉足らずの説明を 日記に残して 俺は今日も 直

          詩153/ ことばについて

          詩152/ あたまについて

          頭には 片隅なんてない なぜなら頭は丸いからだ 片隅なんて探してたら そのうち鼻の穴から 鼻くそと一緒に転げ落ちてしまう だから 忘れてはいけない 小さくとも 大切な何かがあるなら 頭の片隅に置くなどと言わず 全てを頭のど真ん中に置いておけ重心に近いところにある方が どれだけ遠心力がかかっても 振り落とされにくいものだ それでも落ちて 去っていくような記憶であれば そもそも貴方には 必要無かったのだ

          詩152/ あたまについて

          詩151/ 食べ残しのコーン

          皿に残っていた 食べ残しのコーンが一粒 台所のシンクに 洗剤混じりの水と一緒に 流れ落ちていった さっきのさっきまで 清潔で 美味しく 喜ばれる食べ物だったのに 人間の都合で 食べ残されたというだけで 一瞬でゴミになり 網に集められていく なんて 俺達人間は エゴに満ちた 自分勝手な生き物なのだろう と 重い気持ちになっていたら コーンは 顔色一つ変えずに こう言った 何 僕のこと見てんの ゴミってなんだい ああ そうか 君たちは 自分たちが要らなくなっ

          詩151/ 食べ残しのコーン

          詩150/ 希望

          希望は未来への目標ではない 希望は未来への路程ではない 希望は現在の燃料である それは どんな燃料でもいい 燃料なんて呼べる代物でなくても可燃性のものをとにかく 何でもかんでもかき集めて 燃やして暖を取りながら 世界の片隅で 寒さをしのいで 生きていればいいのだ その熱で いつの日か体が温もれば 貴方は自然に そのとき歩きたいと思う方角へ 自分で歩き出すだろう

          詩150/ 希望

          詩149/ 命数

          僕は 赤子を背負って 野山を分け入り 人知れぬ茂みに ひっそりたたずむ 古い井戸の元に向かう 紐を握り 滑車を走らせて 60を載せた釣瓶を落とす どこまでも どこまでも 60を載せた釣瓶は落ちていく ようやく 水面に 着水する感覚があっても 60を載せた釣瓶は それでもなお 水の中をどこまでも沈んでいく やがてついに 井戸の底を打ったとき 60はその衝撃で 釣瓶からこぼれ落ちる そうしたら今度は 間髪入れず すぐに釣瓶を引き上げる 紐を引き続け 一番深いとこ

          詩149/ 命数