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詩48/ コンドルの胃酸

動物園の
コンドルの檻の
説明書きを読む

コンドルは
死骸を食べる鳥

コンドルの胃酸は
どれほど病原菌が繁殖した
腐敗した屍肉でも
無害にして消化し
病原菌の存在を
環境から無くしてしまう
猛烈な強酸なのだと

だから
コンドルのように
死骸を食べる生物が
ちゃんと後片付けをしてくれることで
病原菌の拡散を
防いでくれているらしい

ふと
心配になった

コンドルは
俺の死骸を食べられるだろうか

コンドルの胃酸でも
消化できないくらいに
俺は汚れていないだろうか

生物としての
役割が終わったら
食べて片付けてもらえるくらいの
価値はあるのだろうか

どうしても気になるので
俺は
コンドルに聞いてみた

彼女は
表情を変えずに答えた

そうね
よくわかんないけど
少なくとも
あなたは
あんまり美味しそうじゃないね

かくいう私も
小さい頃から
ここに居るから
もう本当の屍肉の味も忘れたわ

そもそも
私達に食べられるなんて
それは
あなた達人間にとって
いい終わりではないんでしょう

私も
いっぱい人間を見てきたから
何となく分かるのよ

そんなことを考えていないで

あなたは
あなたにふさわしい場所で
ふさわしい終わりを
探したほうがいいよ

檻から死ぬまで出られない
私が言うのも
可笑しいけどね

でもいいの
自由以外の全ては与えてもらえる
悪くない一生だわ
作られた食事も美味しくてね
もう
胃酸もだいぶ薄まったわ

それが
俺の望んだ答えだったのか
望まなくとも真実なのか
的外れな言葉だったのか
そもそも
彼女に聞くべきではなかったのか

何も消化できないまま
俺は動物園の門を出た

この想いは
彼女が野生だったなら
強い酸で噛み砕いてくれただろうか

地下鉄の駅へ向かう帰り道
夕闇の広い空には
コンドルより
小さくて弱い鳥たちが
群れをなして羽ばたき
せわしなく家路を急いでいた





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