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詩149/ 命数

僕は
赤子を背負って
野山を分け入り

人知れぬ茂みに
ひっそりたたずむ
古い井戸の元に向かう

紐を握り
滑車を走らせて
60を載せた釣瓶を落とす

どこまでも
どこまでも
60を載せた釣瓶は落ちていく

ようやく
水面に
着水する感覚があっても

60を載せた釣瓶は
それでもなお
水の中をどこまでも沈んでいく

やがてついに
井戸の底を打ったとき

60はその衝撃で
釣瓶からこぼれ落ちる

そうしたら今度は
間髪入れず
すぐに釣瓶を引き上げる

紐を引き続け
一番深いところから
ついに戻ってきた釣瓶の中には

波々とした原始の水と
61が入っている

原始の水は
赤子に飲ませたあと
手ぬぐいに含ませて
その身体を浄めるのに使い

増えて戻ってきた分の1は
0の湖に
杭として立てていく

毎日欠かさずに
それを
幾度となく繰り返し

赤子が
自分の足で歩き出す日

0の湖の向こう側まで
1の杭で出来た橋が架かり

赤子は僕の手を離れ
原子の水で毎日浄められた
けがれ無き体で

橋を渡り
顔も知らない母の元へ還っていく










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