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詩161/ 虚数

この世界には
存在するはずがないのに

僕の中に
くっきりと存在するものがある

それは
空想や信念とかの類ではなく

間違いなく
僕の中に存在するもの

最初はその存在を
信じて描いていただけのものが

必ず存在するという
想いを持ち続けていたら

それはいつのまにか僕の中で
存在するようになっていたのだ

昔学校で
虚数というものを習ったとき

二乗したら
負の数になるなんて

そんなもの在るわけがない
意味がわからないと言ったら

意味など無い
意味など考えてはいけない

在るものとして考えろ
と言われた

数学とは意味ではなく
鍵となる形と解法を学ぶものだと

僕は
その言葉に激しく反発した

在りえないことを
成立させるために

在りえないものを
そこに存在させるなど

そんなことは
在ってはならないと

でも
今にして気づいたのだ

僕を成立させるために
僕が僕でいるために

本当は
ないものが

本当は
在ってはならないものが

僕の中にも
確かに存在し

僕の人生の
鍵となっている

それが
存在するゆえに

負を産んで
傷つくこともあるけれど

それは
存在するが故の痛みであり

痛みは存在を
さらに際立たせているのだと

かたや
僕の外表面に

マイナスの静電気のように
息苦しく貼り付く世界には

強く鋭い風の吹く日が
永い間続いているが

それによって僕の皮膚が
傷ついているのかは

ずっと目を瞑っている
僕には分からない

ただ年中吊るしっぱなしの
軒先の風鈴は

夏の日の
湿った実数の風を受けても

冬の日の
乾いた虚数の風を受けても

全く同じ音を
僕の耳に涼やかに響かせて

揺れては止まるを
知る限り永遠に繰り返していて

僕の心にある
誰からも見えないものに向かって

届けるべきシグナルを
知る限り永遠に送り続けている








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