『すばらしき世界』
昨年の中頃から、『ゆれる』や『ディア・ドクター』の西川美和監督・脚本の最新作として「2021年に見たい映画」として挙げていた『すばらしき世界』。その期待は遥かに高かったが、見事に期待に応え、西川美和監督の最高傑作としてはもちろん、日本映画史において令和の名画として語れる超傑作である!
言ってしまえば役所広司が演じる元ヤクザのまっすぐ過ぎる男の現代の「生きづらさ」を余す所なく描いている。そのストレスが高血圧という形で現れたり、いつイライラが爆発しかねない性格から見てるこっちがハラハラする。
これに、元ヤクザ/元刑務所受刑者のハローワークが展開され、その苦労ぶりに現代の生きづらさが見られるが、それが職探しだけではなく、普段の生活にも及んでいる。
その根本には人々の「元ヤクザ」、「元殺人犯」に対する色眼鏡というのがあり、これが取材をしているテレビ・ディレクターの津乃田や吉澤、六角精児が演じるスーパーの店長や北村有起哉が演じる区役所の職員に見られる。いや、もっと言えば、映画を見ている我々も彼らと同じであり、こうした現代の空気感を現している。そういう意味では綾野剛主演の『ヤクザと家族』の2019年のパートに非常に似た雰囲気の作品ではあるが、『ヤクザと家族』が徹底してヤクザが主人公であったのに対して『すばらしき世界』は元ヤクザなので、いわゆる現代のヤクザに対する生活での締め付けはない。あくまでも市井の人を描いた作品なので、ヒューマンドラマ色が強く、こうした作品が苦手な人には取っ付きにくさはある。
また、本作は「現代の生きづらさ」を描いてはいるが、決してそればかりではない。橋爪功と梶芽衣子が演じる身元引受人夫妻を始め、最初は三上を奇異の眼で見ていた周りの人も徐々に打ち解けてきて、結果、善人だらけの映画に見えなくもない。が、この映画のタイトルは『すばらしき世界』でもあるので、要は三上みたいにまっすぐ過ぎるほどまっすぐで真面目なら、世の中は実は「すばらしき世界」だよ、という西川美和監督のメッセージが見え隠れする。時折映る夜空の星しかり、英題の「Under the opensky」しかり、また三上が抱える病気などから、フランク・キャプラ監督・脚本の『素晴らしき哉、人生!』のオマージュ作品であるとも見えなくない。
役所広司をはじめ、最近邦画でよく見かける仲野太賀の名演、さらには六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子、橋爪功、康すおん、山田真歩といった豪華な脇役・チョイ役など、語りだしたら限がない。イマイチだった『夢売るふたり』、そこそこの手応えだった『永い言い訳』からすると久しぶりの西川美和監督の大当たり!正真正銘、令和の名画である!!
評価:★★★★★
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