
春に散る
鑑賞:2023年8月@TOHOシネマズ新宿
役作りが乗るか反るか。
沢木耕太郎原作。年老いて帰国する元ボクサー(佐藤浩市)と、世界タイトルを目指すボクサー(横浜流星)の話。みんな訳アリです。
お話の展開は愚直な感じです。トリッキーじゃないのは嬉しい。ボクシングの試合が、結構引き込まれるのも良かったです。登場人物が多くて、みんな背景がありますが、時間内に扱いきれないボリュームになっていて、そちらを割愛して試合の時間を増やしたという印象です。そういう意味では、橋本環奈さんや山口智子さん、片岡鶴之助さんや哀川翔さんは豪華なのに、踏み込んで見せてもらえなかったのが悔しい。
ボクサー役に挑戦する役者さんの役作り(というか肉体作り)に圧倒されるのですが、それに頼っているような嫌いもあって、少し消化不良になりました。特に、W主演の佐藤浩市さんと横浜流星さんのバックグラウンドは、もう2歩3歩踏み込んで欲しい。窪田正孝さん役の背景には、ほとんど触れられず。窪田さんファンはとても消化不良だったことでしょう。
いろいろ思うところはありますけれど、ボクシングが題材で、ボクシングの試合のウエイトが大きく、ちゃんと結果が出るお話なのが良かったです。
さて、ボクサーの役作りに励む役者さんには驚かされるのですが、そこに感情を任せてしまうことには抵抗感を持つ方もおられるでしょう。肉体作りは無言の熱量が汲み取れます。役者さんスゴイとしか思えないのです。その上で演技されていて、頭が下がります。しかしそれと作品の印象は分離したいんです。そう思うと、人間ドラマが少なかったな、と思ってしまいます。ドラマがあるのに描くところまでいけず時間オーバーもったいない。
とはいえ、ライトに、積極的に観客の感情を揺さぶりに来るわけでもないのは大変好印象でした。観客を馬鹿にしていないのがとても拾えました。セリフが噛み締めたものがあって、言い過ぎず、足りなさすぎず、いい塩梅でした。
最後に。画づくりが良く、ワンシーンごとにスチル写真で切り取れるぐらい撮影が見事と思いました。被写界深度を攻めすぎてないのに、心地いいフォーカスが全編を通して実現されていると思いました。
▲横浜流星さん出演作。