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ヴィレッジ
鑑賞:2023年5月@TOHOシネマズ新宿
嫌な現実を見せつけられます。ドキュメントタッチで見たかったです。
ブラウン管がギリギリ存在する時代の、日本の田舎。産廃処理施設があって、集落の経済発展のために渋々受け入れたと思われます。この施設のために、過去になにか事件があった。村は少ない人間関係で成立していて、事情を皆が何年も引きずっています(とはいえ、けっこう住民おられますけれど)。
主人公は、この施設で働いています。親の都合で肩身の狭い暮らし。居場所も無いに等しかった。そこに現れる、都会から戻ってきた同級生。この同級生によって、主人公は地域社会に取り込まれ、気づけば村を背負う立場に。
ほぼ無言だった主人公・横浜流星が、戻ってきた同級生・黒木華によって立場を得て、にこやかに話すようになる。そこに至るまでに、どう考えても不幸が訪れる伏線が何本も走ります。見たくないなあ、見たくないなあ。
社会性を感じますし、魅せる表現も、芸術性も高いと感じます。役者さんはバッチリです。ストーリーは、うん、そうなりますよね、という。驚き・リアリティは刺さりにくく、爪痕を残す何かが欲しい。
さて、ロケ地は知ってる場所が多く、このような描かれ方に複雑な心境となりました。チラっと写る国道162号の標識。かやぶきの町が、こんな舞台になってしまいました。バスはヤサカ観光ですよ!
印象的なシーンは「顔」。
横浜流星さんに陽が差して、えも言えぬ表情になります。そこから環境も性格も変化が起こります。いいシーンでした。後半、横浜流星さんが面(能を舞うときにつける仮面)をかぶるところも大事なターニングポイントでしょう。そして面を差し出した黒木華さんも、わかりやすい表情を控えて、見ようによって印象が変わる顔でスクリーンを占めます。
いつかやられると思っていた古田新太さん。やられましたね。ここは古田新太さんの存在感が有難いです。良い人なのか?悪い人なのか?ひとは一面だけじゃないよね、という村長の役。そういえば、脇を固める豪華な役者さんたち、ぜんぜんセリフないんです。もったいない。
村で怨恨のうえ屋敷ごと燃やすのは、それやりたかったんやろな…と。違うスタイルを示して欲しかった。エンドロール後のシーンは、そうそう、そこを描きたいでしょうな、と思いました。
悪い作品ではないですし、描いているものも現実社会を炙るのですが、劇場で見ないと、最後まで集中して見られないかもしれません。
厳しいコメントになりますが、玄人には評価が高くても、観客を楽しませるように作っているかは、なんとも言えない感じでした。
▲藤井道人監督が注目された作品のひとつ。賛否ありますけれど、映画ってそういう位置が許される貴重なメディアだと思います。