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2024年の国内スタートアップ環境展望

例年、年の瀬が近づくとスタートアップ関連するその年のふり返りと翌年の展望について各所で尋ねられます。
その年のふり返りはともかく、いつも答えに窮するのが翌年に注目すべきセクターや、スタートアップを取り巻く環境に生じる変化に関する質問です。

答えに窮するのは正直なところ「よくわからないから」というのが最大の理由ではあります。ただ注目セクターの予測を問われて感じるのは、10年の時間軸でファンドを運営し、長期的に成長可能性があるスタートアップにリスクマネーを提供しようとする立場からすると、1年単位でのトレンドを当てることに意義を見出しにくいということです。
1年単位で盛り上がったところで、ファンドライフが尽きる頃に霧消しているようなセクターでは投資対象たり得ません。加えて超過リターンを狙ううえで、人気の集中する注目セクターがふさわしいとは限りません。

また2022年以降の2年間は、スタートアップがマクロ環境に翻弄される存在であるという当たり前の事実を痛切に再認識させられた期間でもありました。
米国の政策金利引き上げに端を発し、他国ではすでに22年から資金調達額の激減が観測されていましたが、日本においても23年上半期の調達額が前年同期を大きく割り込んだことは象徴的な出来事でした。
こうした過去2年の経験を経た今、スタートアップを取り巻く環境の変化を予測することは、マクロ環境の予測に他ならないことを、スタートアップ関係者は痛感していることでしょう。マクロを予測することはストラテジストでもない人間の手には負えません。そんな芸当ができればVCではなくヘッジファンドをやっていることでしょう。

あくまで予測は不可能であることをお断りしたうえで、国内スタートアップに対して大きな影響を与え得る2024年のマクロ要因を2点挙げようと思います。

  • 日本銀行の利上げ
    22年の米国株式市場の大幅下落と、それに伴うベンチャー投資額の減少がFRBの利上げによって生じたのと同様、仮に日銀が利上げに踏み切った場合、国内スタートアップの環境に大きな影響が及ぶことでしょう。
    容易に想像できるのが、盛り上がりつつあるベンチャーデットの減退ですが、それにとどまらず、ポストIPOスタートアップ(およびそれに伴う未上場スタートアップ)の評価再調整、VCに対するLPの出資抑制とそれに伴うスタートアップ資金調達額の減少に繋がる可能性があります。

  • 政治リスク・地政学リスク
    24年には米国大統領選挙や台湾総統選といった政治イベントが控えています。この結果次第では、台湾海峡を中心とした東アジア地域の緊張感が急激に高まる事態になりかねません。
    仮に緊張関係が表面化した場合、官製需要等を背景に、日本でも防衛やサイバーセキュリティ領域への本格的な資金流入が進む可能性があります。
    加えて米大統領選の結果次第では、グローバルで高まりつつあるクライメートテックの機運が大きく後退する可能性もあります。

以上、1年という短期の時間軸で想定されるリスク要因を挙げました。特に台湾総統選挙は今週末に控えていることもあり、大変気になるトピックです。
対して、私たちが直面する中長期における懸念事項は、日本においては人口減少・超高齢社会と天然災害であり、また地球規模では気候変動だと捉えています。
この考え自体は10年前と変わりませんし、おそらく5年後も変わっていないでしょう。

短期のマクロ環境を予測するのは困難ですし、また個々のスタートアップが対応するのは困難ですが、以上に挙げた中長期における懸念事項は不可避であると同時に、スタートアップが取り組む意義のあるテーマでもあります。
「短期は悲観。長期は楽観」を信条に、短期のリスク要因や変化に注意を払いつつ、中長期の時間軸で事業創出を目指すスタートアップへのリスクマネー提供に今後も注力していこうと考えています。

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