ジョブ型雇⽤の「誤解」について
昨今、議論の的となる「ジョブ型雇⽤」ですが、そのデメリットについて以下のよう語られることがあります。
ジョブ型雇⽤ではジョブディスクリプションで定められた「責任」が果たせなければ、すぐに「解雇」となってしまう。
私は過去30年の⼈事キャリアのうち、20年を4社の外資系企業で過ごしました。それらの企業は全ていわゆる「ジョブ型」でした。しかし、ジョブディスクリプションに記載された責任が果たせてないからといって、いきなり「解雇(会社側が⼀⽅的に労働契約を解除する)」ということはありませんでした。
もちろん、実際に「責任」が果たせていないケースはあります。採⽤・⼊社したが期待通りの実績が残せない。新しい職務・職位になったが求められる成果が果たせない。では、そのような時にどうするか。
まず上司はその部下に対し、期待と実際の働きぶりにギャップがあることについて、それを証明する事実を持って伝える。そして、その部下の強みと伸びしろを明らかにすると共に、どうしたらそのギャップが埋められるかを⼀緒に考える。また上司はそこでどんなサポートができるのかを提案する。そして次のチャレンジに向けての部下のコミットメント(誓約)を得る。
このプロセスを繰り返し、それでも求められる責任が果たせないと判断された時に初めて「外に新しい機会を求めた⽅がいいのではないか」というアドバイスを含む提案をし、会社からの何らかの⽀援(退職⾦の上積み・転職サポートなど)を⽰した上で、⼗分な話し合いによる双⽅の合意を持って労働契約を解除する。いわゆる「合意解約」です。もちろん、いきなりそうはせずに「降格」や「減給」という選択肢も持ちます。
以上、多くの我が国におけるジョブ型企業(主として外資系)において、責任が果たせなかった場合のプロセスのほとんどは上記のようなものであり、それは極めてフェアで誠実なものである(あるべき)と私は理解しています。上司は部下のエンゲージメントとパフォーマンス向上に責任を持ち、そのために部下に対して真摯に向き合う。
⽇本で「ジョブ型雇⽤」を進める場合の障害として「解雇規制が厳格である」ことを挙げる声がありますが、既に「合意解約」という⼿段が存在し、それを実⾏しているケースが事実として存在していることを考えれば、解雇規制云々はあまり関係が無いように思います。それよりもむしろ、「⽇本は解雇できない」ということを理由に「低業績」の社員に向き合わず、寄り添わず、放置したまま「問題社員」に仕⽴て上げてしまう組織⽂化があるとしたら、それこそが問題だと感じます。
部下のパフォーマンスマネジメントとエンゲージメント向上こそが、上司の最⼤の責任である。これを⾃覚し、部下に対して真摯に向き合う。これこそがジョブ型雇⽤を実現するために必要なマネジメントの姿勢であり、その本質ではないでしょうか。
執筆:株式会社 We Are The People
代表取締役社長 安田 雅彦