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【コラム】ジョブ型雇用の誤解と、本当のジョブ型とは何か
ビジネス環境が大きく変化する中で、ジョブ型への転換が問われています。
しかし残念ながら、人的資源管理を十分に理解していない情報が、移行機運に乗る形で論じられているケースが散見されています。
そこで今回は、株式会社組織デザイン研究所の梅原 達彦さまにご協力いただき、ジョブ型雇用の誤解と、本当のジョブ型とは何かについて教えていただきました。
■ジョブ型雇用の誤解
コロナ禍において、テレワークを導入する企業が増えました。
この流れの中で、「テレワークがうまくいかない理由はメンバーシップ型のせいであり、成果を重視するジョブ型を導入すべき」という声があがったことから、マスコミでもジョブ型の重要性を謳うようになりました。
確かに、テレワークにおいてはコロナ以前よりも目に見えないシーンが多々あるために業務状況が掴めず、評価がしづらいというのは理解できます。
しかし、これは制度の問題ではなくコミュニケーションの問題ともいえます。
かつ、メンバーシップ型であったとしても成果を見ずに評価はできません。「ジョブ型」「メンバーシップ型」といった雇用システムは、分類分けするための学術的概念でしかありません。仕事を通じて学び、コミュニケーションを通じて評価し、フィードバックによって育成することは一緒なのです。
つまり、テレワークか否かは、「メンバーシップ型は評価しづらい、ジョブ型が最高だ!」といった良し悪しの価値判断とは独立したものなのです。
また、「ジョブを明確化にするため、ジョブディスクリプションの作成に膨大な時間と手間を有する」といった記載も目にしますが、これも誤解です。
産業革命以来、欧米近代社会の企業組織は一貫してジョブ型でした。重工業が発展した1920年代の米国では、ブルーワーカーへの不利な条件提示や不当な解雇が横行したことから、「自身のできる業務を職務記述書として明文化し、それをもって労働契約を結ぶ」という雇用慣行が成立しました。これらは、20世紀初頭にフレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法との親和性が高く、ホワイトカラーも含めて広く採用される雇用慣行となったものです。
しかし、変化の激しい昨今においては、ジョブディスクリプションはその意味をなさなくなりつつあり、個別タスクを明確に固めることはリスクもあるため、上位概念を記載する傾向が強い。
■本当のジョブ型とは企業戦略実現のための組織づくり
ジョブ型雇用とは、「会社が提供する・個人が担うジョブ(仕事)について会社と個人が同意し、個人はその遂行を、会社はそれに見合った報酬を提供する」という、ジョブを基点にした雇用契約です。しかし、これはあくまで“ジョブ型雇用”であり、本当のジョブ型とは企業戦略実現のための組織づくりの観点から議論がなされるべきです。
ミッション・ビジョン・バリューを念頭に置き、どのような経営戦略を描くのか、より上位の戦略を実現するための方策という観点から語られてしかるべきものです。中長期事業計画で明示された数値目標・各種KPIを達成するためには、どのような組織を作る必要があるかを先に考え、必要となる仕事をあぶり出し、いつ、どこに、どのレベルの人が何人必要かを計画すること、つまり組織の観点からジョブ型の仕組みへの転換を進めていく必要があるのです。
上記を紐解くと、必ずしもジョブ型でなければならない、という話ではなく、経営そのものに対する考え方が問われているのだということがわかります。「メンバーシップ型だからうまくいかない」「今後はジョブ型の時代だ」といった人事制度の“型”の話ではないのです。それぞれの特徴を正確に理解した上で、ミッション・ビジョン・バリューを実現すべく “どのような組織でありたいか”から、経営戦略と人事戦略を描き、“自分たちらしさ”を追い求めていくことが大切です。
株式会社組織デザイン研究所
梅原 達彦