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こんにちは、noteコーディネーターの玉岡です。
本日紹介する書籍はこちら!

人の「器」とは何でしょうか?
よく「あの人は器が大きい」「器量が良い」といった表現が用いられます。
本書における「器の発達」は、「人間としての器 (人間性や度量) の成長と具体的な能力(スキル) の成長」と示されています(4P はじめに)。

「人は成人してからも知性や意識が発達し、生涯にわたって成長し続けられる」という「成人発達理論」を組織マネジメントに援用したロバート・キーガン博士による「なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践」は、2013年の国内刊行時に書店を、読者を賑わせました。グローバリゼーションの機運が高まり続けた当時、事業利益と同じかそれ以上に組織変革・人材育成が企業ミッションに据えられた時勢において、上掲書はHRや経営企画部の新しい指南書として市場に受け入れられたことを実感している読者も多いのではないでしょうか。

そして、本書「「人の器」を測るとはどういうことか」には、キーガン博士が提唱した成人発達理論を具体的に組織運営の現場で活かすための実践知がおさめられています。
目次構成はこちら。


序論
第一章:私たちはすでに成人以降の心の発達が何かを知っている
第二章:他者の話に耳を傾ける際に立てる仮説
第三章:クライアントの意識構造はどの発達段階にあるか?
第四章:「単なる」傾聴から仮説に基づいた傾聴への移行
第五章:発達リスクとポテンシャルの測定方法:
    移行段階の区別
第六章:発達的葛藤をどのように理解するか?
第七章:強力な会話の構造: 行間を読み取る聴き方
第八章:発達測定インタビューにおける仮説の検証方法
第九章:発達論に基づいたコーチング
第十章:欲求/圧力分析
第十一章:組織における発達的課題・問題


5つの発達段階

各章のダイジェストだけでも、このnote記事は長大になってしまうでしょう。そのため、成人発達理論の鍵となる概念である次の表1.1に示された、
各階梯をたどる形で本書の入口をご紹介したいと思います。

発達段階2の特徴

私たちは表1.1の階梯をのぼるごとに自己洞察は深まり、組織における地位に置換すると次の割合になると説明されます。

発達段階2は、自己洞察のレベルおよび組織内の地位が低い階梯です。
ここから「段階3」に至るための方法が第2章では詳述されます。
この段階に関する以下のサマリーは明瞭です。

発達段階2は別名、 「私」 段階とも呼ばれます。 自分のエゴを中心とした行動論理に基づいて現実世界を生きており、特に十代後半や成人初期に多く見られます。 しかし、近年では行き過ぎた商業主義によって、 多くの成人たちがこの段階に退行してしまっているのも事実です。

79P

発達段階3の特徴

発達段階2が「私」中心の世界であるのに対し、発達段階3は自身が所属する「集団」にフォーカスします。「私」を抑え、集団にアジャストしていく段階が発達段階3である、と説明されます。本書では、その状態を「プロフェッショナル」と明快に定義します。

直感や個人の性格などを内省の対象にする際に重要になることは、プロフェッショナルとしての仮面を身に付けるということです。 役者と同様に、個人的な感情、性格、好みなどを越えて、 プロフェッショナルとして振る舞えるようになることが大切です。 つまり、プロフェッショナルとしての仮面は、役割・任務に焦点を当て、そこで求められる精神的な要求に応えることに主眼が置かれます。

88P

続けて、この「プロフェッショナル」性は発達段階4にもつながっていきます。しかし、段階3の人々は自分を取り巻く外的なルール・要求に適合することはできるのですが、そのルールの上で自分の専門性を発揮する段階には到達していません。その状態を、本書では次のように要約します。

この段階の限界点: 自分の視点と、 物理的、 特に内面化された他者の視
点を区別することができない。 結果として、 所属する集団や組織とは独
立した「自己理論」 を持つことができない。 この段階の人々が感じる罪
悪感は、他者から認められないことおよび社会のルールや規範に背くこ
とである。 そして、 限界点は自分の規範に従えないことである。

99P

発達段階4の特徴

では、発達段階4はどのような世界を指すのでしょうか。
発達段階4にいる私は、次のような人物です。

(発達段階4の人々は) 自分が属する集団の価値観を客観的に見る 「眼」 を獲得しています。 つまり、 彼らは完全にとまではいかなくても、他者に依存することなく、他者の独自性を尊重しつつも自分自身の価値観を持つことができます。

110P

発達段階2の「私」とはレベルを異にし、段階4の「私」は組織・集団の構成員たる視点を持ちつつ、その組織を客観視し得る自分なりの視座をもっているのですね。何だかもうこの時点で超人みたいなステージですが、でも、発達段階4にも限界があります。それは、

・深く内省することなしに、 自分で生み出した価値観と強く同一化してい
る。
・発達段階4にいるプロフェッショナルは、 属する集団や組織の価値観を
越えた、独自の価値体系を有しているため、 それは、クライアントの意味構築プロセスと大きく乖離してしまう可能性がある。
・発達段階に至っていないクライアントに対しては、プロフェッショナ
ルとしての仮面を身に付け、 適切に支援を行うことができる (例えば、
他者の期待に埋め込まれて意味を構築している点などをクライアントに
指摘するなど)。 しかし、 発達段階4を超えたクライアント、 あるいは
発達段階4のクライアントを適切に支援することは困難である。 なぜな
ら、それぞれが互いの価値観から距離を取り、 深い自己探求を妨げる可
能性があるからである。

などなど、本書では発達段階4の限界を、段階3よりもボリュームを割いて説明しています。では、人が成長する最終段階である「発達段階5」は、どのようなステージなのでしょうか?

発達段階5の特徴

冒頭で提示した図を再掲しましょう。
段階5の「組織における役割」は一言、「リーダー」とあります。

発達段階5に至った「私」は、他者を導き得る存在となると本書は説きます。その特徴が次のように描かれます。

発達段階5:過去の成功や失敗、 自分の歴史などを超越し、もはや自分の特定の側面と同一化することはなく、 他者を導くことができる。
・変化を促す触媒の役割を果たすことができ、 多様な意見や価値観を受け
入れつつ、他者を動機付けることができる。 しかし、 自分と同じレベル
の認識を持って行動できる同僚はほとんど存在しないかもしれない。
・他者から「孤独」 に思われたり、誤解されたり、 存在価値を貶められる
可能性がある。
・他者を支配することに関心がないため、 「弱々しい」 人間と見なされる
可能性がある。
・特に、他者の誠実さを妨げてしまうような権力のある地位にいる場合、
他者の誠実なフィードバックを得ることができないかもしれない。
・自分でも明確にすることのできないビジョンに基づいて行動している可
能性があるため、 必要な支援が得られない可能性がある。

135P

いかがでしょう。
より高次のリーダーとしての姿が、まさにここに凝縮されているように思えます。

本書は全11章で構成され、ここまでのレビューはまだ第3章までの内容に過ぎません。全容をこのnote記事で触れ尽くすことは不可能であるため、最後に第6章末尾に掲げられている表6.7を掲載します。
この表は、各発達段階と世界との関わり方を示している、本書のもう一つの重要な図であるとも言えます。発達段階5の詳細も、この章で詳述されています。

本書は「成人発達理論」というコンセプトを組織で実証するためのPOCであるともいえるでしょう。内容も分量も重厚な一冊ではありますが、読者に対して、自己変革のためのツールとして評価測定手法を教授する、類を見ない稀有な一冊です。


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