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なぜ営業とマーケティング組織の「壁」は生まれるのか? 鍵は【KPI設計】

こんにちは、酒居です。

今回は「営業とマーケティングの組織連携」の中でよく課題に挙がる、組織間の「壁」について書いていきます。

組織間連携は、各部門における「KPI(重要業績評価指標)」の設計に密接に関係していると考えています。今回は特にマーケティング部門の立場から、部門間の壁がいかに生じるのか、それをいかに解決していくのかについて話します。

BtoB企業の組織間に生じる「壁」

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マーケティング部門では「せっかく獲得したリードを営業が対応してくれない」「営業が担当している顧客への施策を断られる」など、営業部門に対する不満が生まれるケースがよくあります。逆に営業部門では「マーケティング部門は営業の現場を理解していない」「集めたリードが的外れなものが多くて商談化しない」という声を伺うこともあります。

このようなマーケと営業の組織間における軋轢は「マーケティングと営業の"壁"」とも呼ばれ、部門間連携で悩まれている方が多いように感じています。

また、最近ではインサイドセールス部門を創設し、マーケティング・インサイドセールス・営業(従来の営業組織、外勤営業・フィールドセールスをここでは簡易に営業と表記します)・カスタマーサクセスなどフェーズに応じた組織構造で編成されるケースがBtoB企業組織において主流になりつつあります。そのように事業のプロセスが役割ごとに強化されることは良いものの、一方でそれぞれの部門間での「壁」の議論も起こるケースも増えつつあります。

部門間の壁をどう解消し、組織の連携をいかに強めていくか、それは事業づくり、組織マネジメントにおいても大きな課題となっているのではないでしょうか。

よく言われる「壁」の要因

そもそも部門間において、なぜ「壁」は生まれるのでしょうか。よく言われることとして「縦割りの組織構造」があります。

縦割りの組織構造によって、それぞれの役割を明確化し効率的な分業体制を敷き、指揮命令系統を明確化することでマネジメントしやすい体制をつくれるというメリットもあります。一方で、下記のような課題を生じる可能性を孕んでいます。

1. 組織の分断が生むお互いの状況や意図の理解不足

いくら同じ社内といえども、普段の会話ができないことでお互いの状況や課題の共有ができなくなってしまいます。相手の状況の不透明性は結果的に不安につながり、不安は不信へ、不信は対立へと変わっていきます。
「あの部門は何も分かっていない」「自分たちの努力を別の部門は理解してくれない」。そのような対立の根底にはお互いの顔が見えないことからくる会話の欠如が大きな原因となりえます。

2.自部門の取組みに集中することによる他部門への関心の低下

各部門が自分たちの目標だけに集中し、本来見るべき企業全体の目標を見失い、同じ方向を見て進むことができないこともあります。例えば、マーケティング部門はリード目標達成してるけど、営業の売上目標は未達などでお互いの不満が募るなどがよくあるケースです。

壁の解消のために原因の解像度を高める

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しかし、上記2つの要因の洗い出しだけでは、まだまだ原因の追究として曖昧です。

この段階で解決策を出そうとすると、「もっと部門間のコミュニケーションを増やしていこう」「各自がそれぞれ経営者目線でもっと全体感をもって仕事をしよう」という抽象的な提言で終わってしまいがちです。

組織間の「壁」は事業を伸していくにあたり、大きな弊害となってしまい、ユーザーや顧客に対しても貢献の度合いが下がってしまいます。そのため、壁の原因となる要因をしっかりと理解し、対応していくことが大切になります。

マーケティング部門を担当される方とお話する中で、「インサイドセールスはリードの質ばかりに文句を言って自責で考えてくれない」や「営業部門は自分たちの獲得したリードを対応してくれない」といったお悩みをよく伺います。そのように感じる悩みはとても理解できます。自分たちが一生懸命取り組むことの貢献に理解や協力が足りないように感じることはつらいことだと思います。

しかし、本当にマーケティング部門の後工程であるインサイドセールスや営業部門にだけ問題があるのでしょうか。上記のような課題の解像度のままだと、どれだけ対話をする場をつくったとしても、「なんでリードを対応してくれないんだ」という姿勢でのコミュニケーションとなり、お互いに他責での言い合いにしかならず、対立構造が深まり本末転倒となってしまいます。

ではどうすればこの壁をぶち破ることができるでしょうか。

そのためには、部門間でなぜ「壁」が生じてしまうのか、そのそもそもの根本原因を突き止める必要があると考えています。そして、その原因こそ、各部門、特にマーケティング部門が設定するKPI設計の考え方が大きく影響していると考えています。

そこで、なぜKPIが壁が生じる原因となるのか、その根底について書いていきたいと思います。そのために、まずBtoB企業におけるビジネス構造について深掘って考えたいと思います。

営業プロセスを因数分解する

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BtoBビジネスにおいては自社の商品やサービスを販売するにあたり、集客から成約にいたる営業プロセス(営業工程)が存在します。(SaaSなど近年では成約後の使用中もカスタマーサクセス等を通して重要なプロセスになっていますが、今回のnoteではあえて集客から成約までのプロセスに絞って書いていきます)

商品やサービスの成約に至るこのプロセスはいくつかの変数(要因)によって成り立っています。そのため、成約プロセスを大きく因数分解して考えると下記のように分解が可能です。

成約 = 内的要因(自社要因) × 外的要因(顧客要因)

外的要因とは、先方の顧客企業における事由です。例えば、業績や社内人材に伴う導入タイミングや予算の状況、担当者の推進力があります。今回はそれを顧客要因としてまとめて整理します。これは自社では影響しきれない、いわゆるアンコントローラブルな要素だと言えます。(もちろんコミュニケーションの取り方次第では影響を与えることができないわけではないものの、ここでは簡易的にアンコントローラブルとして整理します)

一方、内的要因とは商品やサービスの提供企業側に紐づく事由です。その変数をさらに分解すると下記のように言えるでしょう。

内的要因 = リード集客力 × 商談獲得力 × 営業力(成約促進力)

つまり、商品やサービスの成約に至るプロセスとしては、下記4つの変数に因数分解することができます。

成約 = 内的要因(自社要因) × 外的要因(顧客要因)

成約 = リード集客力 × 商談獲得力 × 営業力 × 顧客要因

そして、それぞれの変数が影響する数値は、「リード数」「商談アポイント数」「成約数」となります。これはいわゆる「The  Model」の要素の一つでもあります。

1. リード集客力:まず見込みとなりえる顧客を適切かつ必要な母数を集客する →リード数

2.商談獲得力:集客した見込み顧客から必要な商談機会(アポイント)を創出する →商談アポイント数

3.営業力:商談から成約につなげる →成約数

各部門で用いられるKPI設計

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ここで、各部門の目標設定、いわゆるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を見ていきます。

各部門では上記で述べた成約プロセスの構成変数をそのまま自部門のKPIにすることが多いでしょう。つまり、下記のようなKPI設計を行うケースが多くなります。

【プロセスの構成変数をそのまま各部門のKPIにした場合】
・マーケティング部門のKPI ⇒ リード数
・インサイドセールス部門のKPI ⇒ 商談アポイント数
・営業部門のKPI ⇒ 成約数 (成約金額含む)

この目標設定は変数ごとにすみ分けができており、シンプルな分業化と目標設定ができるのでわかりやすく、KPI設計も容易です。

組織や部門の立ち上げ時には、このようなシンプルなKPIを追うことも有効だと思います。ぼくも以前FORCASにてインサイドセールスチームを立ち上げた際には「商談獲得数」をKPIに設定して、まずは量に振り切っての立ち上げを行いました。

変数をそのままKPIに設定する問題点

しかし、変数をそのまま各部門のKPIに設定することには、一つ構造的な問題があります。

それは「コントローラブル性のギャップが部門間で生じる」という問題です。

つまり、KPIをマーケティング部門はリード数、インサイドセールス部門は商談アポ数、営業部門は成約数(成約金額)とした場合、「コントローラブル性(自分の影響力の範囲内かどうか)」という観点で、部門間によって負担に大きく差が生じてしまいます。

それぞれの部門が担うKPIと、部門ごとのKPIに対するコントローラブル性の有無を考えてみます。すると下記のようになります。

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どういうことか解説しますね。

まずマーケティング部門が持つ「リード数」というKPIは、成約プロセスの最初の入り口(集客フェーズ)の変数であり、顧客の状況という外的要因はもちろん影響あれど、内的要因に関してはマーケティング部門でほぼ完全にコントローラブル(社内のその他影響を受けない)だといえます。
(※ ここでいうコントローラブルとはその変数を確実に達成できるということではなく、その領域を自部門の意思で制御できる、つまり他部門含む他者影響が入らないということを意味しています。)

例えば、集客リード目標を月1,000件と設定した場合、それを獲得するためにどのような施策を実施するか。リスティング広告で資料請求を増やす、オンラインセミナーを開催する、外部展示会に出展する、SEOによるオウンドメディア流入を伸ばすなど、その企画と決裁、実行はマーケティング部門内でほぼ完結します。
つまり、自分たちの能力とアクション次第で、その目標達成をコントロールすることが可能です。いわゆる「自分たちでほぼ完全にコントローラブル性のあるKPI」であると言えます。

インサイドセールスとマーケのKPIにおけるコントローラブル性の違い

一方、次の段階の変数(商談アポイント数)をKPIとし、その数値に責任を持つインサイドセールス部門はどうか。

商談アポイント数のための商談獲得力は、インサイドセールス部門としてコントローラブルな要素だと言えます。(例えば、電話やメール等でのアプローチを通して、自身でアポ商談獲得数にダイレクトに影響を与えることができる)

しかし、マーケティング部門との決定的な違いは、前工程(マーケティング部門)の活動結果の影響を引き継いでいることです。つまり、商談アポ獲得はその変数が単体で存在しているのではなく、前提となるマーケティング部門でのリード獲得(どれだけ商談見込みとなるリードを集められており、その対象とどのような関係性をつくれているか)によって大きく左右されます。

インサイドセールス部門は、商談獲得率に対してインサイドセールスのアプローチ領域(行動量や営業力)においてはコントローラブルであったとしても、マーケティング部門から単にリードの供給を一方的に受けるだけであった場合、リード獲得の変数に対しては「アンコントローラブル(自部門で制御できない)」な状態になってしまいます。つまり、自部門のKPIに対して完全にコントローラブル性があるとは言えず、一部アンコントローラブルな要素を含んでいます。

営業部門が担う負担が圧倒的に高い

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では、営業プロセスの最終段階を担う営業部門のコントローラブル性はどうか。

営業部門が受け持つKPIは成約数。つまり、成約プロセスの最終段階の数字です。(※営業部門は成約金額を目標にするケースもありますが、今回は簡易的に成約数に集約して書きます)

営業部門は顧客との商談を進め、顧客にどのように提案をするか、どのように先方の関係者を巻き込み、調整していくかという観点においては、自身でコントローラブル性があると言えます。

一方で、どのような企業の、どの部門の、どなたと商談の場を持てるか、という観点では、マーケティング部門のリード集客の量と質、及びインサイドセールスがどのような商談アポイントを獲得したかに起因します。そのため、マーケティングやインサイドセールスが担ってきた変数要素に対しては、アンコントローラブルです。

そして、KPIのアンコントローラブル性の観点では、マーケティング部門とインサイドセールス部門それぞれの要因を受けることで、インサイドセールス部門以上にアンコントローラブル性が高い状態になります。

さらに、顧客との直接的な会話を続けていくことから、外的要因である顧客状況の影響を一番ダイレクトに感じるのも営業部門です。つまり、内的要因でもアンコントローラブル性の負荷が高く、外的要因の影響も直接感じることが多い部門でしょう。

尚、多くの企業で最重視される売上高(もしくはARR)の最終責任を引き受けているのが、営業部門です。
つまり、マーケティング・インサイドセールス・営業と組織が縦割りに分業する中で、成約に関する責任を負っているのが、営業部門のみのケースが多い構造になります。

そのため、営業部門は会社全体の収益を左右する最終売上の責任を持つということで、他部門よりも多くの負荷を精神的にも抱えがちになります。

部門間の軋轢が生じる原因は「KPI設計」

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以上のように各変数をそのままKPIで設計した組織構造は、シンプルな分業組織とマネジメント体制を敷くことに大きなメリットがある一方で、コントローラブル性の違いからくるKPIの負荷が後工程の部門になるにしたがって増加する構造的課題を抱えることになります。

これは伝言ゲームが最初から後になるにつれてズレてきたり、正しく伝え続けるのが難関になっていくことに似ています。紐づく一連のプロセスは後工程になるに従って、前工程(前部門)の影響を受け、目標の達成難易度は高まります。

マーケティング部門とインサイドセールス部門、営業部門、それぞれで生じる部門間の「壁」。

この部門間の軋轢は、コミュニケーションの欠如や目標の不一致からくるものと最初に書きました。それらの問題が生じる根底の原因こそ、KPIに対するコントローラブル性の差から生じる不和です。つまり、「KPI設計」こそ部門間の壁を作り出す原因になります。

KPIのコントローラブル性の格差が「壁」をつくり出す構造

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部門ごとにコントローラブル性のギャップがあることを加味せずにKPI設計をすることで、部門間の壁が形成されます。その醸成の流れをまとめると、下記のようになるでしょう。

1. マーケティング部門が「リード数」など自部門で完結するKPIを設定する

2. マーケティング部門が自部門のKPIを達成した後工程まで興味関心を持たなくなる

3. リードの量に集中してしまい、リードの質や収益に対するコミットメントが低くなる

4. インサイドセールス部門や営業部門のKPIに対するアンコントローラブル性が増える(負担も増える)

5. 営業部門からのマーケティング部門に対する不満や不信感が高まる

6. 営業部門がマーケティング部門の施策やリードに対応しなくなる

7. 営業の対応不足からマーケティング部門の営業部門に対する不満や不信が高まる(「せっかくやってるのになぜ対応しないんだ」「営業はマーケを下に見ている」)

8. 部門間の対立が強まる(「壁」の醸成)

マーケティング部門と営業部門が担うKPIに対するアンコントローラブル性の差が、前工程(マーケティング部門)への不満と後工程(営業部門)への不理解を生じさせる原因となり、それが部門間の「壁」を生み出します。

「なぜ営業部門はリード対応してくれないんだ」、「営業部門は自分たちのことを理解してくれない」、そのような悩みを抱えられるマーケティング部門の方々は多いと思います。そしてそれは一定営業部門が従来の考え方から脱却できず、デジタルマーケティング等の理解が促進されていないことも原因にはなるでしょう。

しかし、それを他部門の責任とだけ考えていても、組織を変えることはなかなか難しいです。だからこそ、いかに自分たちが変えられる領域に着目するか、いわゆる自分たちの自責として「壁の破壊」を考えられるかが重要だと思います。

壁をぶち破る鍵は「アンコントローラブル性」

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それではいかにして、この部門間の「壁」を解消していけるのか。

結論から言えば、マーケティング部門のKPIに「あえてアンコントローラブル性を加える」ことが重要です。

つまり、部門間の壁を生じさせる原因となるのもKPI設計であれば、その壁を解消し、部門間連携を実現するのもKPIの設計が基盤となりえます。

ここでぼくたちユーザベースのケースをとりあげたいと思います。

ぼくたちの場合、FORCASでのマーケティングチーム立ち上げ当初や、SPEEDA・INITIALを含むB2B事業の統合マーケティング組織を立ち上げるタイミングで、マーケティング部門のKPIを「商談アポイント数」にしました。これは後続の部門、インサイドセールスと同様のKPIをあえて一緒に持つ形にしました。

この意図は「KPIにあえてアンコントローラブル性を加えること」にあります。つまり、自分たちだけでそのKPI達成を完結できず、あえて他部門の活動結果の影響を受ける状態にすることで、自ずと後続の営業プロセスに関心を持ち、営業部門と対話を生む仕掛けをつくりました。

KPIの変数を後工程のものにズラすことで、自ずとマーケティング部門はリード獲得だけでなく、そのリードが商談機会に結びついているか、成約に結びついているかを意識した動きになります。その結果として、自分たちの動き方にも変化が生まれます。

例えば、リード獲得を単なる「数字上の達成」として考えていると、展示会に出よう、話題のテーマでオンラインイベントを開こう、他社との共催を開いて集客協力を仰ごうなど、「量」としてのKPIを達成することに注力してしまいます。これは部門内のメンバーの視座が低いのではなく、目標設定の設計に問題があります。

そこで、マーケティング部門のKPIを「商談アポイント数」に変えるとどうなるか。メンバーの注目点は単なるリードの「量」だけではなく、「商談アポイントが獲得できるようなリードなのか」が重要となります。つまり、「量」だけでなくリードの「質」にも着目することが重要になります。

例えばWebサイトからの資料請求や、オンラインセミナーなど各施策を実行した後も、

・自分たちが開催したセミナーやWebサイトでの集客リードをインサイドセールスがどれだけ対応してくれているか(インサイドセールス対応件数・対応比率)
・各施策からの商談アポイント獲得の状況はどうか(獲得商談アポイント数や商談化率は想定通りか否か)
・上記をさらに効率的・効果的にするためには、どの部分を改善していく必要があるか

をインサイドセールスメンバーと話し合いながら、PDCAプロセスを回していってくれています。

大切なことは双方向の「対話」を生むこと

ここで大切にしているのは「KPIをきっかけにして、双方向の対話をつくる」ことです。

単にマーケティング部門のKPIを後工程の変数である「商談アポイント数」や「成約数」にすれば壁は解消するか、といえばそれだけでは根本的な解決は難しいでしょう。

組織は人であり、人間関係が大きく関わります。その人間関係が円滑にいくためには、お互いの景色を交換し合い、相互理解を深めることが最も重要なことだと思います。

そのためには、単に各部門でKPIの見直しをするだけでなく、KPIをきっかけにして、対話を生むことが大切です。逆に言えば、KPIの設定をすることは対話を生む仕掛けだとも言えます。

KPIを軸とした対話を生み出す環境づくり

対話は一方向のものでは成立せず、お互いが同一の対象に対して会話し合うことで成り立ちます。

逆に、「対話」が起きない場合は「対立」が生じます。お互いの状況がわからず、信頼関係も築けない。その結果、他部門へ対する不信と自部門の目標達成への不安感から「対立」の構造が生まれてしまいます。その構造を生み出さないためには、お互いの状況と意図を適時共有し合える環境をつくることが大切です。

そのためには、KPIを軸として、それを生かして対話を生み出す環境づくりが重要です。具体的にぼくたちがしている共有方法は例えばこのようなものがあります。

① Salesforce(CRM)上でのオープンかつリアルタイムなデータ共有

② Slack(社内コミュニケーションツール)での適時情報と課題の共有

③ マーケティングとインサイドセールス部門の連携会議(毎週)

④ マーケからCSに至る全メンバーでの進捗共有会議(毎週)

⑤ 各部門長やマネージャー間での1on1(毎週〜月1)

一時的に対話をすれば、お互いの理解は深まるのかといえばそうではないでしょう。日進月歩で変化していく昨今の状況においては、尚のこと高頻度での「対話の場」をつくることが重要だと思います。

そのためには「対話の場をつくろう」「お互いにもっとコミュニケーションしよう」というスローガンを掲げるだけでは実行は難しいと思います。なので、各部門長が合意の上で、メンバーを含めて対話をし合える場を定期的に設けることが必要です。

また、企業の規模感や状況によっては、毎週などの頻度での情報共有、対話の場を設けることが難しい場合もあると思います。そこで、お互いの状況がリアルタイムで共有できるデータ環境を構築すること(CRMやSFA等)は大切になるでしょう。

ぼくたちの組織では、Salesforceを活用しながら、共通のダッシュボードを作成し、共通のKPIの進捗、それに付随する施策の状況などを各メンバーがいつでも確認できる状況をつくっています。

対話の場(会議体)を整備すること、社内でのオンラインコミュニケーション方法を整備すること、そしてデータ環境を整えること、この点が恒常的な対話の場づくりには不可欠なツールとなります。

定量と定性データの両軸で会話する

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対話をしていく上で大切にしているポイントは、CRMやMAなどで確認できる「定量データ」と、営業メンバー個人の肌感覚からのフィードバックを踏まえた「定性データ」の両軸で会話することです。

定量的な数値データをベースにして分析することは重要です。ですが、これだけでは分からない要素は多分にありますし、一番の理由は定量データだけでは「対話」は生まれづらいことにあります。

データ環境を整備していれば、CRM上のデータをダッシュボードやレポートとして部門内や個人で独自に算出し、分析して対応を検討することも可能です。これはこれで重要なことですが、部門間の壁を取り払うためには、お互いがどういうことを考え、同じ目標に向かって何を進めていく必要があるのかの景色交換と認識統一をすることが不可欠です。

そうでなければ、どれだけ正当性がある分析をしたとしても、それぞれの認識がばらばらのままになってしまったり、どちらかの部門からの押し付け的な見解になってしまい、部門間のアライン(連携)は取れません。

KPIは組織の成長によって進化させる

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マーケティング部門のKPIにアンコントローラブル性を加える(後工程の変数を設定する)ことで、マーケティング部門の目線が変化し、組織間の対話が促進されます。

そして、このKPIの設定は部門間連携が強まれば、さらにKPI設計を進化させていくことで、より強い部門間連携をつくることが可能となります。

例えば、ぼくたちのマーケティング組織でも、組織が成長し、連携が強くなっていくに従って、KPIを見直しています。

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前述の通り、マーケティング部門において元々はインサイドセールスとともに「商談アポイント数」をKPIに設定していました。しかし、インサイドセールスとの対話が定着し、安定して商談アポイント数(及び商談化率)が達成できるようになったタイミングで、KPIをさらに後工程である「案件化数(初回商談後、成約見込みがあり案件化した件数)」に変化させました。ぼくたちはこの「案件化数」のことを「パイプライン数(PL数)」と呼んでいます。

パイプライン数は成約プロセスを構成する変数「営業力」によって変化するので、営業部門の活動がKPIの達成可否に影響します。その結果、インサイドセールスだけでなく、営業部門とも対話をする目的が生まれ、商談アポイントの「量」だけでなく、商談アポイントの「質」も含めて状況を理解していくことが可能となります。

部門連携の強さ度合いに応じて、KPIのアンコントローラブル性の領域を広げていくことで、事業全体で同じ目標に目線を揃えることが可能となり、全社的な連帯感をつくることができるようになります。

無理なKPI設定は逆効果

KPIにアンコントローラブル性を加えることで、部門間の対話を促し、組織間連携を強めることができると書きましたが、だからといって無理に後工程の変数をKPIとして設定すると逆効果になりえることもあります。

組織の成長フェーズ、部門間連携がどこまで円滑にできているかによって、KPIに加えるアンコントローラブル性は加減し、無理のない形で自分たちがコミットできるものを設定し、バランスを見ることが大切です。

組織の成長フェーズ、部門間連携の円滑度合いを図る目印としては、下記のものが考えられます。いくつか例として挙げます。

定量的な目印:
・商談化率、案件化率などの「変化率」
・KGI(売上、経常収益等の最終目標)から逆算した自部門の活動の実行進捗状況(施策本数や単純リード数等)

例えば、商談化率がまだ安定していない状況にもかかわらず、営業部門と早く会話できる形にしたいからといって、無理に「案件化数」を設定すると、インサイドセールス、営業部門それぞれとのコミュニケーションが必要になる上に、商談アポイント数も達成可否が読めない状況となり逆効果になりえます。

さらに後工程のプロセスに関わる変数をKPIにする場合は、その前工程となる変数の達成が読めるように、変化率を安定させる(ボラティリティを軽減させる)ことが必要となります。

定性的な目印:
・自部門のメンバーの数字やプロセスの理解がどこまで進んでいるか
・KPI達成に向けての自部門の活動に対しては100%動ける状況になっているか
・部門間で週にどれくらいの対話が行われているか

自部門内でKPIの達成見込みを議論するだけでなく、他部門のメンバーとどれだけ同じ指標について議論する時間がとれているかが、もう一つの目印になりえます。

前述したように組織間連携はつまるところ仲間同士の信頼関係をいかに強めることができるかにつきると思います。そのために、KPIを起点にして対話を生み出す仕掛けや会議体をいかに設計できるかが重要です。

ターゲティングの統一が組織連携を加速させる

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KPIを考えるにあたって「ターゲティング」の認識を統一することも、全体組織の連携を加速する土台になります。

そもそも「リードの質が低い」「商談の質が悪い」という不満や認識齟齬は、各部門が「成約確度が高い企業がどのような企業か」の対象設定が定まっていないことから生じます。自社にとってどのような企業や相手が、相性が良い(成約見込みが高い)企業となりえるか、そのターゲット認識がズレると各部門がそれぞれが想定するターゲットを独自で設定し、個々に動いてしまいます。その結果、自部門の想定ターゲットと異なるリードや商談は対象外と判断することになりえます。

そこで重要となるのは、「ターゲティングの統一」です。

全社的に自社にとって成約確度が高い企業をターゲットに設定する合意がつくれていれば、マーケから営業、カスタマーサクセスに至るまで、全部門において自分たちが対応すべき対象の解像度を高め、自分たちの活動の取捨選択が可能となります。

KPIを軸とした対話はもちろん重要ですが、その前提としてターゲットの認識を揃えることがKPI設計と組織間連携を加速することつながります。

まとめ:対話をあきらめない

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営業とマーケティング組織の「壁」がなぜ生まれるのか。それは各部門が設定したKPIにおけるコントローラブル性のギャップから生じている可能性が考えられます。

コントローラブル性のギャップは、そのまま最終目標に対する負荷の差となりえます。そのため、お互いに対する不満が連鎖的に生じ、結果的に「壁」が生じることになります。

壁が生じれば、ますます対話は起きず、対立構造が強まります。その結果、壁がますます厚くなるという負のスパイラルとなってしまいます。

その悪循環から脱却するには、マーケティング部門やインサイドセールス部門が「後工程の変数をKPIにする」ことでアンコントローラブル性を自部門のKPIに加えることが効果的です。

自分たちが影響を及ぼしきれない不確定要素があることで、自ずと自部門以降の活動にも注目が集まるようになり、部門間で対話が生じるモチベーションが生まれます。

もちろんこの対話は決して友好的、和やかなものだけではないかもしれません。時にはお互いの景色が異なることで議論になることもあるでしょう。しかし、それは必要なことだと思います。

大切なことは「健全なコンフリクト」を受け入れ、議論をしていく中でお互いが「対話をあきらない」ことです。対話を諦めず、相互理解ができることを諦めることなく、直接話し合うことで、本当の信頼関係を築くことができ、組織間の強固な関係をつくることが可能となります。

そのためには、同じ目標を持つことです。KPIはそのうちの定量化されたわかりやすい指標であり、設計次第で組織の強い一体感をつくり出せると実感しています。

あとがき

今回も長々と書いてしまいましたが、お付き合いくださってありがとうございます。

部門間の壁は他にもさまざまな要因が混在して生じます。なので、すべてをKPI設計だけに言えるわけではもちろんありません。しかし、方向性の統一や目標の共有、対話の創出などの根本の土台となるのが、組織毎のKPI設定であり、その設計方法が連携強化に大きく影響していると考えています。

日頃の活動の参考になれば嬉しいです。ありがとうございました。

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酒居 潤平 (Jumpei Sakai)
読んでくださってありがとうございます。まだまだ試行錯誤の連続ながら、自分たちの日々の取組みから得た気づきをシェアしていきたいと思っています。