自由と日常
2024年5月1日、自由港書店は3周年の節目の日を迎えました。
2021年5月1日におそるおそる店を開いてから今日までずっと、「まず三年」「石の上にも三年」「なんとしても三年」と思って、店を営んできました。なので、「きっと、3周年を迎える瞬間は、涙するくらい感慨深いんだろうな」って、ずっと思ってました。だけれど。今日、この日を迎えて、あんまり感慨深くない自分に驚きです。
もう、書店主としての日々が、日常になったからなんだろうな、って思います。
店に出て、店を開けるのは、もう、普通のこと。店を開けばお客様がふらりといらしてくださって、わたしは、お客様が安心して本を選べるように、お客様のほうをじろじろ見ず、自分からは話しかけず、でも、お客様はわたしの気配がなんとなく感じられるくらいの適度な距離感を保ち、わたしはあえて、手元で伝票を作ったり書いたりする作業をしたりして、「紙に触れる音」を立てて、お客様が本を手にとってめくりやすいようなサウンド・スケープを創り出しているのでした。お客様にとっても、書店での時間が、気負わない、気軽な時間であってほしい。
店内には布が揺れていて。
静かにピアノが流れていて。
それはもはや、日常になりました。
今年のはじめ、店がある須磨に引っ越しました。
なので、ずっと、須磨にいます。
のんびりした須磨。
家があり、店がある、須磨。
日常です。
そんな3周年のタイミングにあわせて、店内に、新しい青い布を飾りました。北西方向の窓に、カーテンのように飾っています。
「ポジャギ(보자기|褓子器)」と呼ばれるものです。韓国の伝統的な手芸品(民芸品)で、小さなハギレをつなぎあわせた布のこと。衣服を仕立てるときに出たハギレや、古くなって着なくなった衣服の中の綺麗な部分を切り取ったものなどをつなぎあわせて、暮らしの中で大切に再利用されてきたものです。
小さな布をつなぎあわせていくのは大変なこと。心をこめて丹念に作り上げられたポジャギには、福が宿るといいます。小さなものを大切に、心をこめて扱うこと。「ポジャギ(보자기)」は、その大切さを、思い出させてくれます。自由港書店、4年目以降も、そのことを忘れずに、営業を続けていきたいと思います。
自由港書店のポジャギは、作家の清原遥さんの作品です。「(もともと別の展示のために制作された)大判布から一部裁断したハギレたちを繋ぎ合わせたもの」なのだそうです。今年3月に、隣町・塩屋の坂の上のギャラリー・yamneさんで開催された展示「Water」で、購入させていただいたものです。
青いステンドグラスのような布。光の入り方、風の入り方によって、さまざまな表情を見せてくれます。やわらかく風に揺れ、さまざまな青のグラデーションが生まれ、ところどころに気泡の跡もあって、まるで海の底から海面を見上げているような気分になります。いつまでも見ていられます。これからもずっと、自由港書店で揺れています。
自由港書店は「心に自由の風を」という言葉を掲げて、2021年5月1日にオープンしました。光と風の通る店を目指してきました。風に揺れる布たちは、帆船の帆のようにも見えます。自由港書店は、これからも、自由の港であり続けていきます。須磨海浜公園散歩がてら、いつでも、お気軽に、お立ち寄りくださいませ。