「精神病を抱えていると風俗でしか働けない。借金を返さなければならないし…」地獄の釜・池袋で出会った人妻風俗嬢(前編)【中村淳彦『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』より】
「24歳で突然頭がおかしくなった」。そう語るのは、34歳の人妻デリヘル嬢。離婚した元夫に金を持ち逃げされて、「地獄の釜が開いた」というがーー。
中村淳彦著『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』より一部抜粋して公開します。
旦那に裏切られて頭がおかしくなった
喫茶店で待っていたのは、堀之内綾乃さん(仮名・34)。池袋西口の人妻デリヘルで働いているという。自宅は東上線沿いの埼玉県の住宅街、旦那と二人暮らし。消防点検の作業員をする旦那公認で、池袋の人妻デリヘルに勤めている。
綾乃さんは第一印象から陰気な雰囲気をまとい、目が濁っていた。会った瞬間から嫌な予感がした。
「ずっと精神病を患っていたので風俗嬢になった。癲癇持ち。障害者手帳も持っているし、精神病を抱えていると風俗でしか働けない。借金を返さなければならない事情もあって、それで風俗をやった。でもね、借金はなんとか返せて、病気も良くなって、もううちの旦那の収入だけで生活できるから。だから最近は出勤するのを減らしている。私が風俗でいくらか稼げたときは、貯金が貯まるのでうちの親にお金を渡している」
表情は、喜怒哀楽の「怒」が突出している。目が血走り、濁り、健康体ではないことはすぐにわかった。
「この10年間、精神病がひどくて、ずっと倒れてばかりだった。痙攣してパニックになって、泡をふいて倒れる。それが10年前から始まった。地獄だった。そう、地獄。理由は精神的なショックとか、いろいろ。24歳まで普通の人間だったのに、頭もカラダもおかしくなった。地獄の釜が開いたのは、前の旦那のせいです」
バツイチである。23歳のとき結婚して、24歳で離婚。埼玉県出身で高校卒業後、保育士と介護福祉士の専門学校に通って地元の特養老人ホームに就職。彼女は保育士と介護福祉士の国家資格を持っている。
「24歳で突然頭がおかしくなった。そういうことは現実にあるの。私だけじゃなくて、たくさんある。私の場合は前の旦那のせい。裏切られた。お金を全部使われて、結婚詐欺だった。私の稼いだもの持っていって、全部やられた。許せない。許せない。嘘をついていた。全部、お金に関すること。仕事をしているって言うのにしていなくて、私が貯金していたお金を全部持っていった。それでお金がなくなって、私の名前で借金までしていなくなった。ある日突然、離婚届がテーブルに置かれていた。それでおかしくなった」
元旦那は23歳の結婚から半年、高校生時代からコツコツ貯金した300万円と、綾乃さん名義の200万円の借金を作って、突然目の前から消えてしまったという。
「学生時代は居酒屋でアルバイトして、特養に勤めてからも自宅から通ったから稼いだお金はほとんど貯金。基本的にお金は使わないです。お金がないと嫌なの、不安で不安で、仕方なくなる。高校生の頃からもらったお金は、貯金するって決めているから。前の旦那は、そのお金を全部奪っていった」
貯金という言葉が多い。不安な心を預金額で埋める、というのはよく聞く話だ。
「前の旦那と知り合ったのはパチンコ屋です」
無駄使いをしたことがないという言葉の直後、なぜかパチンコ屋の話が出てくる。この一連の池袋取材で気づいたが、おかしな地場に集う人々は感覚が普通ではない。会話をしていても、こちらが認識したニュアンスとズレることが頻繁にある。
「特養に就職してストレスが溜まるようになった。たぶん、要介護高齢者の悪い邪気みたいなのをもらった。社会人になってから、ストレスと苛々がとまらなくなって、23歳のときにストレス発散でパチンコに行くようになった。そこで前の旦那と知り合った。たぶん、パチンコ屋が地獄の釜だったのだと思う……そう地獄の釜。『海物語』を打っていて、全然出なくて、負けて持っているお金を全部使っちゃった。貯金を下ろそうか悩んでいるとき、隣で打っていた前の旦那が話しかけてきた。それで5千円をくれて確変がフィーバーした。それでたくさん出て、良かったねって話して、なんとなくラブホテルに行ったの。何回か会ってから結婚しようって言われて、結婚してお金を全部盗られた」
毎日、ゆうちょ銀行の通帳を眺めるのが好きだった。高校生時代から少しずつ金額は増え、特養に勤めて半年で300万円になった。結婚して元旦那によってほぼ全額が引きだされて、数百円の端数だけの通帳の数字を眺めたとき、綾乃さんの精神は破綻した。(後編に続く)
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