セックスレス、夫の浮気疑惑、抑うつ状態に陥り子供を残して家出…「これから自分はどうなるの。40歳未経験でもOKの仕事は、AVや風俗しかなかった」【中村淳彦『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』より】
安定した収入を得る夫と、愛する子供たち。何不自由ない「幸せな家庭」の裏では、夫婦関係のすれ違いからくる精神的な歪みが生じていた。衝動的に家をでた彼女に待ち受けていたのはーー。
中村淳彦著『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』より一部抜粋して公開します。
ヒステリーを起こして家を飛びだした
多村敦子さん(仮名)は、43歳。中央線沿線の家賃6万円のアパートに独り暮らしをしている。
職業は温泉コンパニオン。温泉コンパニオンは女性を抱える東京の業者が、群馬県や静岡県、福島県や山形県の温泉地の旅館に呼ばれて女性を派遣する。女性たちは裸を使いながら、呼ばれた宴会を盛り上げる。温泉コンパニオンは2種類があり、宴会だけ対応するノーマルコンパニオンと、アフターで代金をもらって宴会後にセックスを提供するピンクコンパニオンがある。40歳を過ぎる多村さんは、若い女の子が多いノーマルコンパニオンだけで生活費は稼げず、嫌な男性客でなければアフターにも応じている。セックスするアフター代金は3万円という。
取材場所にやってきた多村さんは、二重瞼がまぶしい美人だったが、神経質そうな雰囲気があった。裸一つで1人暮らしを支える生活に疲れているのか、全身から発せられるオーラはどんよりと暗い。
「温泉コンパニオンになったのは2年前、旦那が嫌になって家を飛びだしてから」
多村さんには、中学生の娘と小学生の息子がいる。お互いに弁護士を立てて調停離婚したが、多村さんは感情的になって家を飛びだしている。子供を置いて家を飛びだしたことは法的に圧倒的に不利となって、2人の子供の親権は元旦那にとられてしまった。
家をでるまでは家族4人でファミリー型の分譲マンションに住んでいたが、現在は1Kの木造アパートである。
「結婚したのは23歳のとき。旦那は勤めていた会社に出入りしていたIT関係の人で、なんとなく知り合って付き合うようになった。子供がしばらくできなかった。長女を妊娠したのは29歳のときで、結婚は早かったけど、子供ができたのが遅かった。夫婦関係がおかしくなったのは、子供ができてからですね。私は専業主婦だったけど、向こうは自営業者だから忙しくて、すれ違いが増えた。子供に関してはなにもかも意見が違って、ちょっとしたことで言い合いになって精神的におかしくなったんです。心療内科に行ったら抑うつ状態って診断されました」
旦那は個人事業主で年収800万円を超えていた。専業主婦として子育てして家を守ったが、苛々して夫婦喧嘩が絶えなくなり、多村さんは子供にもあたるようになったという。
待ち合わせ場所で会ったときに感じた神経質なオーラは、抑うつ状態の影響か。旦那との不仲で発症したようだが、まったく治癒はしていないようだ。
2年前のある日、旦那が朝方に帰ってきた。浮気?と猜疑心でいっぱいになり、ヒステリーを起こした。狂ったように絶叫して帰ってきた旦那に罵詈雑言を浴びせかけ、近所の人が110番をするほどの騒動を起こした。泣きながら止める子供を振り切って、その日のうちに家出をしている。
「生活しなくてはならないので、求人雑誌をみて温泉コンパニオンとAV女優に応募した。短大を卒業して就職して、23歳で寿退社してそれからずっと専業主婦だから、裸になるような仕事は初めてです。最初に仕事があったのはAVで何本か出演して、すぐに依頼は来なくなりましたけど。旦那とは5年間以上セックスレスだったから、AV撮影でしたセックスは5年ぶりだった。まわりに人がいる中だったので不安だったけど、AVは普通にキモチよかった。けど、後先考えないで飛びだして、専業主婦で手に職もないのに飛びだして、これから自分はどうなるのって不安だった。あと裸の仕事が子供にバレたらどうしようとか。仕事を探して40歳の未経験でもOKなのは飲食店のアルバイトとか、介護施設とかしかなかったです。家賃6万円がかかることを考えると、とてもその時給では生活できない。AVとか風俗とかしかなかったわけです」
現在はピンク温泉コンパニオンとして、見知らぬ酔客に抱かれる日々だ。
旦那に不満を抱えて抑うつ状態になるほど悩んだようだが、旦那は年収800万円と高年収で子供にとってはいいお父さんだったようだ。いくら耳を傾けてもすべてを捨てることに踏み切る理由はわからなかった。後先考えずに感情的に行動して、その結果、多村さんは親権まで奪われてすべてを失っている。
「子供のことを考えると、なんか、ツライ。それとこれから自分が不安、どうしていいかわからない」
ここは喫茶店である。話しながら、多村さんは泣きだしてしまった。涙が溢れだして、止まらないといった様子だ。情緒不安定だった。
「旦那は協議離婚が決まって、すぐ再婚した。今は私が住んでいたマンションに、私の子供たちと知らない女性が同居しているようです」
彼女の猜疑心通り、旦那は浮気をしていたようだ。旦那が浮気に走ったのは、おそらくヒステリーがあって精神的に脆い妻にうんざりしたという理由か。
独りで狭いアパートにいるとき、不意に子供たちの顔が浮かんで涙が止まらなくなることが頻繁にあるという。
なんて声をかけていいかわからない、哀れな姿だった。
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