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死はある日突然やってくる…「更年期だと思い込んで不調を放置していたら死にかけちゃったので、本を書いた」|花房観音『シニカケ日記』

あなたは元気なんかではなく、ただ、「今は死んでないだけ」かもしれないーー。帯を飾るコピーに思わず息を呑む。病とは、死とは、生きるとは。『シニカケ日記』発売を記念して、著者・花房観音さんによる特別エッセイを公開いたします。

「私がまさかそんな病気だなんて……」

 2022年5月、街中で息ができなくなり、倒れて救急車を呼ばれた。
 病院で医者に告げられたのは、「心不全」で、「心臓の一部がほとんど動いていなかった」と、あとで聞いた。
 繁華街だったから、周りにいた人が救急車を呼んでくれて、早急に処置を受けて助かったが、家の中でひとりでいるときだったり、人気のない場所なら、危なかった。
 救急車を自分で呼べばいいじゃんと思う人もいるうだろが、何故か「119」という番号が浮かばなかったのだ。

 突然死というのは、こういうことかと、身をもって知った。

 なんらかの兆候はあったでしょと、問われると、大いにありました! と答える。
 でも、それが心臓につながる症状だとは思ってもみなかった。
 動機、息切れ、むくみ……当時51歳の私は、すべて更年期障害だと片付けていた。更年期障害の症状は多様で、心当たりあることだらけだった。
 だから仕方ないな、この年齢だもんなと、漢方薬や市販の薬やトクホでごまかしていた。

 入院して、高血圧と二型糖尿病だと告げられた。
 血圧に関しては、十年ちょい前に指摘されたことがあるが、当時はまだ40代だったし、危機感もなく放置していた。二型糖尿病は、様々な合併症を引き起こすことぐらいは知っていたので、結構ショックを受けた。
 死にはしなかったけれど、これから生きていくの大変じゃないかと、病院のベッドの上で絶望していた。

 高血圧や二型糖尿病は、「生活習慣病」とされる。昔は「成人病」と呼ばれていた。
 他にも癌や脳卒中などが、これにあたる。病気の発症や進行に、食生活や運動習慣、飲酒、喫煙などの生活習慣が深くかかわっているうことから、この名称がつけられた。
「私がまさかそんな病気だなんて……」と、最初は衝撃を受けたし、受け入れがたかったが、のちのち調べてみると、今、生活習慣病を抱えている人の数はとても多いし、年齢も50代だから珍しいことでもない。そして病気なのに自覚症状がないから、そのままにしている人がたくさんいる。私のように更年期障害のせいにしている人も、少なくないだろう。

 特に高血圧は「サイレントキラー」を呼ばれ、自覚症状がないままに進行し、心不全、心筋梗塞、脳出血、脳梗塞などで、ある日、突然倒れて、命を失ったり、後遺症が残りもする。
 自分が病気になってから、有名人の突然死のニュースなどを注意して眺めていると、確かに脳や心疾患で亡くなる人は多い。
 50代で、突然死するのも、大きな病気になるのも、珍しいことではないのだ。

花房さんが入院中に見つめ続けた病院の天井

「死にかけた」から「生きよう」と思える

 なんとか退院はしたものの、生活習慣病のデパートみたいな状態で、生きていくのには、なかなかの努力が必要になる。
 でも死にたくないから、やるしかなかった。倒れたことにより、「まだ死にたくない」と生きることに執着しはじめた。

 とりあえず、医者の言う通りに、薬を飲み、食事内容を改善し、運動をした。
 退院時には「まだ動きが鈍い」と言われた心臓は、半年後には「正常に動いている」と言われ、血糖値を下げる薬も飲まなくてよくなり、降圧剤も減った。
 食事は気をつけてはいるけれど、あまりストイックにしては続かないし、何より食べる楽しみを失われるのが嫌なので、ゆるゆるの改善ではあるが、体調はいい。
 運動は、筋トレと有酸素運動を、ひたすらやっている。そして何より、規則正しい生活を心がける。睡眠時間は絶対に確保する。煙草はもともと吸わないし、酒は月に一度か二度、誰かと一緒に食事をするときだけで、飲み過ぎない。
 ストレスを溜めないことは、最重要だ。今は朝晩必ず血圧を測っているのだが、怒っていたりすると、わかりやすく血圧が上がる。
 高血圧が、命を縮めるのは、誰よりも痛感している。
 だからとにかく、平常心を保つことを最優先している。

 それでも結局、人間は若返ることもないので、身体は衰えていくだけだ。
 いつ何があるのか、わからない。
 今回は突然死をまぬがれたけれど、たまたま運がよかっただけで、これから先、いきなり死んでしまうかもしれない。

 死は常に目の前にある、すぐそこに。

 心不全は癌より生存率が低く、5年後の生存率は50%だという。
 私は今、52歳。
 56歳まで、生きられる確率半分だ。

 そうやって常に「死」を意識しなければいけないのは、ときどき不安で、苦しくもなるけれど、生きようと積極的に考えるようになったので、「死にかけた」経験も悪くないと、今は思っている。

 もろもろ詳しくは、心不全の入院体験を書いたエッセイ「シニカケ日記」(幻冬舎)発売中ですので、読んでください。
 50歳を過ぎたら、誰だって、いつ死んでも不思議じゃない。
 まだ死にたくない人に、読んで欲しい本です。

花房観音さんの最新刊『シニカケ』(幻冬舎)
好評発売中!

<著者プロフィール>
花房観音(はなぶさ・かんのん)
1971年兵庫県生まれ、京都府在住。2010年『花祀り』で第一回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。官能小説やホラー小説、エッセイほか執筆活動の傍ら京都観光のバスガイドを務めている。