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AIとプロシージャルとゲーム制作。AIは今後どうなるか?

Houdiniの波

 巷を賑わす「AI」という言葉。ゲーム業界もご多分に漏れず、AIの波が押し寄せてきている。

 それはお喋りしてくれるロボットのようなもの、では、もちろんない。他分野にわたるプロシージャル処理だ。今のトレンドはHoudiniだろう。ソースを学習をさせて、微調整して、大量のアウトプットを産む仕組み。

 プロシージャル処理を無視して制作する大手デベロッパは皆無だろう。オープンワールドを代表するような「大量のデータでドライブする」プロジェクトのカンファレンスは、必ず「どうプロシージャルを駆使しアセットを作ったか」という話題を出す。

 プロシージャル処理、もっと大きなレイヤで言えばAIの存在を、ゲーム業界は今後おそらく永遠に無視できない。その傾向はここ数年だけで強くなるばかりだ。

 PS4タイトル「Marvel's Spider-Man」ではHoudiniの担当者は一人だった、という講演を聞いて、はや3年。いま聞くと信じられない話だ。当時はメインストリームでなかったHoudiniは、今やゲーム制作を担う強力なツールになりつつある。

 少し別の話だが、Houdiniを使いこなせるなら、今(2021年12月現在)ならかなり待遇のよいゲーム制作会社に入れることを保証する。国内なら低く見積もって年収1000万、海外なら2000万は固い。配置、モデリング、アニメなどをHoudiniで処理できます、と幾つかデモを見せるだけで、テクニカルアーティストとして待遇されるだろう。少なくとも国内デベロッパならよりどりみどり。どこもHoudiniが使いこなせる人材を欲してる。

オールドタイプはどうなる

 手作業でゴリゴリ作るオールドタイプたちに行き場がなくなるか?と言われれば、そうではない。Houdiniの生みだした大量のアセットを「手直し」するスタッフとしての仕事が待っている。ただしそういう作業は外注先や孫請けの仕事になるので、ファースト&セカンドパーティに居るオールドタイプたちは、あまり仕事が無くなるかも知れない。

制作スタイルの変わり方

 そういう意味で、ゲーム会社の未来は比較的明るい。山のようなアセットを大量生産、消費するだけで終わっていたゲーム制作が、真の意味でクリエイティブに時間をかけられるようになる。

 トリプルAと呼ばれるようなタイトルは、「物量」を持って地位をキープしていた。物量はマンパワーのあるスタジオが使える原始的な暴力のようなもので、小さなスタジオはコマゴマしたタイトルを作るしかなかった。

 しかし。プロシージャル処理、ひいてはAIの存在は、ゲーム制作に大きなブレイクスルーをもたらす可能性が非常に高い。30人程度でオープンワールドを作れる可能性も、十分にある。

 データをぶち込めば無限の世界が作れる。この言葉はクリエイターたちには甘く甘くとろけるように響く。「大量のアセット」と「AI」は非常に相性が良い… というより、もはやセットだ。

 ただし。プロシージャル処理は想像以上に泥臭いものだ。特にテクニックに疎いデザイナなどはプロシージャルを「魔法のような存在」と思いがちで、少ない作業でゲームを完成に導いてくれる… と考えがちだが、それは少し違う。

 Houdiniはあくまでプログラムでしかない。突っ込まれたデータを要件に従って出力するだけだ。まずは完成形をしっかりとモデリングし、細部まで作り込んで、それらを解析した状態でHoudiniに食わす必要がある。つまり「アート的にレベルが高く」「プロシージャルでも作ることができる」の双方を満たすデータが作れないと、完成形が作れない。適当なデータを放り込んで、Houdiniが良いデータを出してくれはしない。

 だから結局、今も昔もこれからも、ただしくデザインを学んできたデザイナーは必ず必要だ。そういう人間は少ない。そしてプロシージャル処理というものを理解できるデザイナは、さらに少ない。今、国内のゲーム業界にそういう人は10人もいないんじゃないか。マジで。

次のブレイクスルー

 AIはこれまで大きなブレイクスルーが何度かあった。直近で言えばビックデータ。そこからのディープラーニング。

 ディープラーニングの偉大だったところは、「それほどテクニックを習熟していないエンジニアでも使うことができる」ところだった。素人に毛が生えたようなエンジニアでもデータが揃いさえすれば、ディープラーニングによる画像編集などはそれほど難しいことではない。

 ただ、さあ人間のようなロボを作ろう!とするには、現時点で判るだけでも少なくとも2つ以上、大きな壁がある。

 一つ目は「AIが自分で学習できるようになること」。自分に必要なデータが何なのかを察し、自ら収集できるようになること。言い換えれば、ビックデータを自らの意志で集められるようになること。

 もう一つは、「振れ幅を持たせて学習すること」。指定されたデータ以外すらも自分の意志で集めフィードバックすること。これは人間でいう所の「イマジネーション」や「閃き」に近い。要求されたデータ以外の情報も吸収しアウトプットにつなげる。特定分野の研究において、他分野の学問の情報を持ってくる…などがこれに相当する。

 この2つは明確な壁で、これに対するブレイクスルーが無い限りは必ず成長は頭打ちする。ビックデータが一般的になる前のAIのような状態で、進化が止まるだろう。しかし、ディープラーニングだけでも数年で食いつくせないほど奥が深いし、最近はどのカンファレンスもディープラーニングで持ち切りなので、進化が止まった印象は恐らく受けないだろう。

おわりに

 (すでに始まってはいるが)これからプランナーやデザイナーは「『プロシージャルで何ができるか』を理解しているか」によって区分けされていく。それによって作れるゲームの規模が大きく変わるからだ。

 3D、シェーダーに続く、大きなハードル「プロシージャル」。オールドタイプは淘汰されていくし、私もついていくのは正直中々にしんどい。しかし、ド級に深いものが作れることには強い魅力がある。

 新しいハードルが生まれ続ける限り、ゲーム業界の未来は明るい、ともいえる。

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