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『会って、話すこと。』について ②気になる文字のこと
田中泰延さんの著書『読みたいことを、書けばいい。』(以下『読み書け』)と『会って、話すこと。』(以下『会って話す』)は、2冊あわせて読むべきだ。両書の繋がりを示す仕掛けが随所にある。それを見つけるのが楽しい。
似たところを探すのも楽しいが、違いを確認することも大事だ。もしかしたら、表紙が違うだけで中身は同じ本かもしれない。
前回とは違う角度で、2冊の本を比較してみる。
言霊。
用いられている文字には、潜在的に著作時の精神世界があらわれている可能性がある。そこで、キーワードになりそうな文字を数えてみた。蛍光ペン片手に。「読」「書」「会」「話」は一見して数える気にならないくらい多いので、数える気にならなくてやめた。多すぎて数える気にならないというのは人間に備わった危機回避能力だと思う。
気になった文字(単語)とその出現回数は次のとおり。
『読み書け』 『会って話す』
愛: 33 ー 20
金: 33 ー 19
おかね: 3 ー 0
楽: 25 ー 22
変: 20 ー 12
嘘: 12 ー 0
うそ: 4 ー 0
嫌: 7 ー 55
幸: 8 ー 12
辛: 3 ー 37
苦: 7 ー 23
正直: 3 ー 5
誠実: 1 ー 2
※手作業カウントなので間違いはご容赦を
かなり違う。同じ本ではないことが証明された。それぞれ傾向をみてみよう。
『読み書け』は「愛」が33回と多く、愛を語った本と言っても過言ではない。そして愛と同じだけ「金」(33)の文字。ひらがなの「おかね」(3)を合算すると36回も登場する。青年失業家(当時)としての悲哀がにじみ出ているように思えて切ない。もう一冊買おう。
自分が読んで「楽」(25)しいことを書く、そのことで人生が「変」(20)わる、といった主題も文字数の多さが示している。そして本書が書かれた動機でもある「嘘」「うそ」(計16)も比較的多い。なお、「嘘」は執筆のきっかけとなった編集者(今野さん)の言葉として、「うそ」は著者の文章に現れる。
一方、『会って話す』では「嫌」(55)が飛び抜けて多い。ほとんどが「機嫌」「不機嫌」の熟語で登場しており、本書の重要な論議であることがうかがえる。「嫌」の字は『嫌われる勇気』に通じる問題意識を裏付けているようにも錯覚されて、おもしろい。
「苦」(23)が多いのは、おそらく世相を反映した実感が込められている。そんななかでも「楽」(22)の出現回数が「苦」と同程度なのは救いだ。著者の生きる姿勢がにじみ出ているように思えて、温かい気持ちになる。そういえば、さっきダウンを羽織ったのだった。
「金」(20)の文字数が大きく減少したのは、著者の肩書きが変わったことと無関係ではない気がする。もう一冊買わなくても、良いのかもしれない。
本書の中心課題である「幸」は、『読み書け』よりやや多い12回にとどまり、事前の想像よりも少なかった。なお、「幸」と似た漢字に「辛」(ツラい、カラい)がある。念のためこちらも数えてみたところ37カ所もあった。これはいったいどういうことか。「辛」を「幸」とうっかり読み間違える効果を狙っているのか。
「嘘」(『読み書け』P27~29)に対応した答えである「正直」は、両書とも登場回数が少ない。「正直」な姿勢である「誠実」はさらに少なく、それぞれ1~2回しか出現ない。
しかし、最も伝えたい重要な言葉は、何度も用いないものだ。文字数が少ないところ、または書かれていない言葉にこそ本質があると理解すべきだろう。
だが、もっと重要なことがある。それは何を言わないか、である。(『会って話す』P219)
『会って話す』には「嘘」「うそ」が一度も出てこなかった。会って話すことに「嘘」はいらない、そんな強い思いが込められている気がして、胸が熱くなる。極暖にフリースにダウン、ちょっと着込みすぎたか。
気になった文字がもうひとつある。「父」だ。
『読み書け』 『会って話す』
父: 2 ー 2 (他に今野さんの「父」が5回)
両書とも2回と少ない(今野さんの「父」を除く)。『読み書け』では履歴書への記載と本に触れるきっかけとして、『会って話す』では「あたりまえのこと」を教えてくれた存在として父親に触れている。これら「父」の文字があらわれる箇所は、いずれも個人的に最も胸が熱くなるところだ。ああ、こんなところにさりげなく「父に捧ぐ」というメッセージが込められているなんて。泣いているんじゃない、汗だ、ダウンは脱ごう。
ここまできて気付いたことがある。もしかして電子書籍からコピペして文字カウントすれば早かったのか。Web上でテキストマイニングしてくれるサービスもあるらしい。後で知った。いや、結果的に何度も読み込めたので後悔はない。後悔はない。後悔はない。