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バレたならお金を払って許される そんな食い逃げスリルが足りない

KPタッグトーナメントに向けて書いたショートショートの加筆版です。

男は何かで一番になったことがない。学校の徒競走も、会社での成績も全て一番できるわけではなく、一番できないわけでもなかった。しかし男は自分の上に自分以外の人間が立っていることが心の底から許せなかった。合法的かつ、オリンピックの金メダルのように、名誉と金と地位が得られる物であれば男も少なからず社会的な道義を感じてその道に進んでいたであろう。そうすれば自分の上には誰もいない男が今生で見ることのない、彼自身が羨望する景色を見られたはずである。
しかし男には合法的なものに何一つとして才能がなかった。代わりに男にあったのは、「食い逃げの才能」である。男はオリンピックの種目に食い逃げがあれば、間違いなく日本代表として参加し、日本国民から国家の誇りを託されながら、日の丸を掲げて出場していたであろう。
しかし現実はそうはいかない。男は犯罪者であった。しかし男はこの才能をドブに捨てようとも思わなかった。「どうせならこの才能で一位になるのだ」と揺るがぬ確固たる意思を持って食い逃げに臨んでいた。そこには一切の自己顕示欲も貧困もない。ただ一番になるために男は食い逃げをするのであった。
「食ったら忽然と姿を消す」
目の前のカツ丼を見ながら、男はまた食い逃げの決心をするのであった。







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