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「水と油」のさかいめ(界面)についていろいろと想像してみる


はじめに

 ヒトとヒトの関係性をたとえることば。たとえば「水魚のまじわり」とか。にた言葉に「管鮑のまじわり」。反対に「犬猿の仲」、「水と油の関係」などなど。

これらのうち最後の「水と油の関係」についてふと想像した。

きょうはそんな話。

あぶらものを食べながら

 けさのあさごはんは昼の弁当との兼用。やさいとベーコンの炒めものとじゃがいものポタージュにパン。口にしながらふと思った。

生きものは肉さかなとともに油脂を糧とする。口から食道、胃をへて十二指腸で胆汁をふりかけられ膵臓から分泌される酵素のリパーゼによって脂肪酸とモノグリセリド(むかしはグリセリンといった)に加水分解されて小腸の柔毛(じゅうもう、絨毛ともいう)のリンパ管から吸収される。

中学生たちに教えるときに、おなじ柔毛からアミノ酸や糖はリンパ管ではなく柔毛の毛細血管をつうじて吸収されるんだよと教える。ともに混同しやすい。

さて、この脂肪。水とはなかなかまじりにくい。胆汁は相手に関心すら示さないような両者をまぜあわせる役まわり。ちょうど仲人役。石鹸や洗剤と類似の界面活性剤のはたらき。界面のまわりを球のようにとりかこみ、小球の内部に油脂をとじこめる。こうして周囲をおおわれた油滴として、水中で一定のあいだ存在できる。

胆汁と酵素の役まわり

 胆汁はまさにそのとりかこむ役。そこにとりこまれるかたちで膵液中の酵素のリパーゼが門番のように待ちかまえる。なんとリパーゼという酵素はタンパク質でありながらこの水と油の界面でしごとをする。そうした不安定な場所でもちこたえるだけの特有のユニークな構造をもつ。

小球の界面に陣どり、せっせ、せっせと周囲(おもに外側)からは水分子をとりこみ、それを活用しつつ、脂肪を脂肪酸とモノグリセリドに加水分解する反応を触媒する。その結果生じた脂肪酸やモノグリセリドはミセルの状態をたもちつつ、またたくまに柔毛のリンパ管へと吸収される。

腸内細菌とのしれつな競争

 小腸の内壁はぐるりと腸内細菌叢。猛者の細菌たちが柔毛の手前ですきあらばうばいとろうと待ちかまえる。一連の酵素のはたらきで生じるアミノ酸や脂肪酸、糖などをかすめとろうとする。ゆだんもすきもない。

ぶんどり合戦でおこぼれを細菌たちによこどりされつつも、どうにかこうにか体内へとはこばれていく。このあたりをヒントにゲームの開発をしたらおもしろいかもしれない。リンパ管をつうじて吸収されるとただちにもとの脂肪(中性脂肪)にもどり、肝臓や血管へとはこばれ体内をめぐる。脂肪細胞などさまざまな箇所へと配置される。

ちょっとことばがむずかしいのでいいかえる。わたしたちのからだのなかに油脂を栄養としてとりこもうとすると、油のままではとりこみにくい。からだの大部分は水をなかだちにして生命活動をおこなっているといっていい。油はそのままではなじみにくい。じゃあどうするか。

水や油を仲介してとりかこむ

 そこでからだのなかではたらくのが胆汁。もとは古くなった赤血球野ヘモグロビン。このヘムの部分をもとにして肝臓でつくられ、胆のうに貯められる。油脂を口にし、胃から十二指腸にたっすると分泌され、その界面活性作用(水と油をなじませる)で両者は腸の蠕動運動でこまかなエマルジョンになり、ちょうどマヨネーズや牛乳のような状態にかわる。

いわゆる乳化。ごくこまかな油滴は天然の界面活性剤といえる胆汁がまわりをとりかこんでくれるおかげで、小球(ミセルという)として水中でほぼなじんでいる状態といっていい。

ここでリパーゼの登場。からだはじつに効率よくできている。こまかな小球になった脂肪は効率よくリパーゼのはたらきによって周囲の水を活用しつつエステル部分の加水分解反応がすみやかにすすんでいく。下の立体構造のモデル図は膵臓リパーゼ。

1n8s › Pancreatic triacylglycerol lipase; Protein Data Bank in Europe, Bringing Structure to Biology より引用。https://www.ebi.ac.uk/pdbe/entry/pdb/1n8s/protein/1

油脂を口にしてから数時間から1日ほどのあいだにすみやかに消化が進んで、ただちに体内で活用される。あるいは肝臓や内蔵の周囲にもとの脂肪としてためられ、いざというときに代謝されコスパのよいエネルギー源になる。

「水と油」についてふと思う

 はて、ここで界面ってなんだろうとあたまにうかぶ。「水と油の関係」というぐらい。界面活性剤なしで両者をかきまぜてなじませようとしても静置するといつのまにかもとの二層に分離してしまう。この層のさかいめってどうなっているのだろう。両者は不仲なはず。わずかでも接したくないはず。分子の押し合いへし合いの状態がつづいているのか。

もっとこまかく想像してみる。水分子は極性をもつ分子。δ+とδーの極性をひとつの分子内でもつ。わかりやすくいうと分子内の電子(負電荷をもつ)の分布のかたより。

δ+とδーのあいだで結びつき(水素結合)がうまれて周囲の水分子どうしでびっしりと結合する状態となり、近接する分子同士はこうして相互作用している。一方の油脂の分子。概観すると長大な非極性の分子、かろうじて分子の片方にエステルの部分があり、長大な脂肪鎖部分とくらべるとわずかだが電子のかたよりを生じる。

ここをなるべくそばの水分子のほうへむけようとしているのだろうか。押しあいへしあいの分子のなかでこうしたことは可能なんだろうか。界面活性剤の分子はその際にどんな挙動をとるのか。物理化学や界面化学、もっと数学や物理の素養があればなあ。

想像しはじめると興味深い。


記事内の図の引用元

Protein Data Bank in Europe, Bringing Structure to Biology,
1n8s › Pancreatic triacylglycerol lipase 
https://www.ebi.ac.uk/pdbe/entry/pdb/1n8s/protein/1


タイトル写真は自作のスポンジケーキ生地。このあと泡立てた生クリーム(まさに油脂のかたまり!)をたっぷりのせた。

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