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英語を使っておつまみを頼んだ。日本で。



東京都新宿区の居酒屋。

友達と会うために、予約していた居酒屋に入ると
奥まで広い、大きなフロアで働いている
多数の店員さんが全員、
「日本人ではなさそう」だった。


唯一、親近感を覚えたのは、
オープンキッチンの中にいる大将的な男性2名。

そしてその2人はキッチンの中で
せわしなく料理のオーダーをさばいていて
ホールには出てこない。


私たちはようやく人数が揃い、
ついに飲み物や食べ物を注文し始める。


テーブルの奥の方にあるベルを
友達に押してもらい、店員さんを呼ぶと、

笑顔の素敵な女性の店員さんが来てくれた。
とっても好感のもてる佇まいで、
心がホッとほぐれる。



そして、
「ビール2杯と、レモンサワーと、
あと、枝豆1つと、」と注文を頼んでいると

片手をパーに開いて
「STOP」と言っているようなアクションをとった。


「あ、ちょっとさらさら注文しすぎたか、、、」と
みんなで反省し、少し間を置いた。


彼女はその間、一生懸命ハンディを操作し、
そして、改めてこちらに耳を傾ける仕草で
準備OKの意思を表現してくれた。


よし。今度はゆっくりめに注文を伝えよう。
みんなで意を決して注文を伝えると、


「Beer one? two? OK. EDAMAME one? OK.」

とまさかの英語での注文確認が始まった。



びっくりした。


そして思わず我々も、
受験勉強で培った、
でも忘れかけの英語を駆使し、

「It‘s all. Thank you.」と締めくくった。


注文が完了すると、
テーブルを離れていく女性店員の背中を
みんなが自然と目で追っかけていた。


そしてふと、

「あれ、ここって海外でしたっけ?(笑)」
と誰かが呟き、笑いが起きる。


そして、
その場にいた全員が、
『ここは間違いなく、
日本の首都:東京の新宿区だ』と
自分の頭の中を整理したのだった。


ーーー


私は夫の転勤についてきて
今は「電車が1時間に1本来るか来ないか」の
穏やかな静かな地域に住んでいる。
駅には駅員さんもいない。


そんな私が今、東京に繰り出してみると、
「ここは本当に日本なのか?」
というような雰囲気に
打ちのめされてしまう。


少し来ない間に、日本の首都:東京は
こんなにも変化を遂げたのか、と
カルチャーショックを受ける。


もう、私が来る場所ではないのでは、とも。


たまたま私たちが入った居酒屋が特殊だったのかもしれないが、
いずれにせよ私が心にどん。と
重い衝撃を受けたのは、
紛れもない事実だった。


ーーー


その後も、追加注文がある場合には
先ほどのように、英語で注文した。
数回、注文とは違う商品が届いたりして、
注文を訂正しながら、
「大丈夫ですよ〜」とその場を収めながら

懐かしい友達との会話を楽しんだ。


そして追加していたドリンクが来る。
今回は男性店員さんが届けてくれた。


他のテーブルのドリンクを持っているので
お盆の上は数杯のグラスが並べられている。


「レモンサワー」「ハイボール」と伝えられて
私たちはそれぞれ手を挙げた。

そしてテーブルにグラスを置いてくれる瞬間。


「「ガッシャーーーーーン!!」」


グラスが倒れ、新品のドリンクは
全て床にぶちまけられた。

店内のほとんどの人が、
「割れたね」とわかるくらい
音は店内に響き渡り、
私たちのテーブルの下は水浸しになった。


そしてその勢いで、
椅子にかけていた友達のコートは、少し濡れた。


商品はなくなり、床は水浸し、
そんな中、男性は驚いた様子で、
でも何もせず、
その場合をゆっくり離れていってしまった。

私たちには目を合わせない。
咄嗟に謝ることもしない。(もはや何語でもいい)


私は、
「冗談じゃねえ」と思った。
正直ちょっと、ピキった。



遠い国から日本に出稼ぎに来たのか、
留学なのかはわからないが
日本の働き手不足を解消し、
働いてくれるのはありがたい。



だが、しかし、こちらにはこちらの、
「ここは母国だ。」というプライドが少しはある。 


きっとここで働くまで、いや、
働いている今も、
たくさん苦労しているのかもしれない。
私も両親は中国人なので、
その辛さも少しはわかっているつもりだ。


しかし、流石に今のあなたの行動には
「心が感じられない。リスペクトも感じられない。」


ただただ、辛い瞬間だった。



「我々の母国、
日本はこれからどうなっていってしまうんだ。」

という不安も、立派に湧き上がってくる。


私たちのテーブルは、
驚きと、大きな違和感で時が止まってしまった。


ーーー


私たちが呆然としてる間に、
きっとお店の中で情報共有がなされたようで、

騒ぎを察した
忙しそうなオープンキッチンの大将が
一目散に、大量の拭くものを持って
こちらのテーブルにやってきた。


「お客様、大変申し訳ございませんでした。」と
屈んで、目を合わせて謝ってくれた。


そして、騒ぎを起こした男も、
とぼとぼと大将の後を追うようにタオルを持ってやってきた。


男は大将に向かって「すいません」と謝る。


その男の表情が少しへらへらしているのが
余計に、私のイライラを助長させた。


すると、大将はすかさず


「俺に謝るんじゃない!!
お客様に謝って!!!!」


 床を一生懸命に掃除しながらも、
体を向き直して
男に向かって、ぴしりと叱ったのだ。



よかった。


緊張していた私の心臓に、
少しゆとりが生まれたのがわかった。


男は私たちに謝り、
その後私たちは席を移動し、
サービスのドリンクを飲み、
好きなだけ居座って、退店した。


帰り道、ふと
「大将がぴしっと叱ってくれて、
なんか救われたよね。」と
友達との会話が始まる。


東京都、新宿区にある
一店舗の居酒屋の中だけの話なのに、
なぜか私たちは、
日本のこの先の未来に
不安を覚えてしまう瞬間があった。


だけど、あの居酒屋には、あの大将がいた。


よかった。


そし私たちは、その「よかった。」という話を
大事に大事に、駅の方に歩いていくのだった。


私たちにとって、あの居酒屋の大将は、

“誇り高き日本代表“

として深く胸に刻み込まれている。


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