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苦しい感情はかき消すものではなく、受け入れて初めて楽になる|イシシッピさんインタビュー #7

昨年12月に開催した「じだいのはざま展vol.5」。
その会期中に行ったアーティストインタビューを掲載します。
初回はイシシッピさんのインタビューです。
主催と対談形式で、作品解説をしていただきながら原点について深掘りしました。

前回のインタビューはこちら👇

イシシッピ
2001年生まれ
2022年 大阪デザイナー専門学校 特殊メイク学科特殊造形コース 卒業
言葉に出来ない事象を造形作品で表現しています。

Instagram
https://www.instagram.com/stone_mizu/

ネガティブな感情を作品に昇華する

───イシシッピさんは大阪デザイナー専門学校(現・大阪デザイナー・アカデミー)の特殊メイク学科特殊造形コースをご卒業。関西のギャラリーを中心に造形作品を発表されています。

イシシッピさん(以下敬称略):言葉に出来ない感情を造形作品で表現しています。よろしくお願いします。

───さっそく今回の展示作品についておうかがいしたいと思います。こちらの花びん5点は新作だとか。

イシシッピ:はい。ガラスのように見えるんですが、実はペットボトルを溶かして作成しているので軽いんです。今回のテーマ「ぼくらの揺(ゆらぎ)」に合わせて、ペットボトルを感情の揺らぎと重ねて自由自在に揺らがせてみました。

───タイトルは左から「望む」「育む」「無」「歪む」「蝕む」「妬む」。
「む」で終わる言葉でまとめられています。

イシシッピ:一見ポジティブに見える言葉でも、私にとってはネガティブベースだったりします。ネガティブな感情って皆さん忘れたいと思いがちです。私は忘れるというよりも、そういった醜い感情も自分の感情のひとつなので、受け入れられるようになりたいなと思っています。なので、あえて綺麗な花を生けるための花びんにしてみました。

───タイトルのなかで「蝕む」や「妬む」はストレートにネガティブな感情だと思うんですが、「望む」は希望が感じられる言葉なのかなと思いました。なぜこのラインナップに「望む」という作品が入っているんでしょうか?

左から「望む」「育む」

イシシッピ:実はタイトルは、この形ができてから、色を塗る前の段階でつけたんですよ。この花びんの形を見たときに望んでるように見えたので「望む」と名付けました。

───形が望んでるようだったとは面白いですね。隣の「育む」についてはいかがでしょうか?

イシシッピ:成長するときって逆境のときだったりすると思います。アスファルトの隙間から生えた雑草のように、綺麗なものとくすんだものの対比が楽しめたらいいなと思いました。

───なるほど。底から這い上がるような力強さを感じてきました。

現在の平和は当たり前ではない

───続いて「うたわれていた音楽」について教えてください。

「うたわれていた音楽」

イシシッピ:最近私の好きなアーティストさんが亡くなってしまうことが多くて・・・心に穴が開いた感覚になりました。“歌っている”から“歌われていた”に変わって。もう生で聴くことはできない。でもCDや音源を聴いているとまだ心のなかにいるんだなという気持ちになりました。CDという媒体もだんだん衰退しているので、あえてCDケースを使ってつくりました。

───イシシッピさんはどういうジャンルの音楽を聴くんですか?

イシシッピ:いろいろ聴くんですけど(笑)特に日本のロックバンドが好きです。

───バンド、いいですね!CDケースとレジンでどのように制作をしたんでしょうか。

イシシッピ:CDケースをガスコンロの前に持ってきて軍手をつけて炙って変形させています。これは花びんの制作方法も同じです。近くで見ていただいたら分かるんですが、ところどころ水滴のようになっているのがレジンです。その後、プラモデルの塗装に使うようなラッカー塗料を使って着色しています。

───ガスコンロで変形させているんですね。最後の作品は「Re:平和」です。

イシシッピ:こちらは高校2年生のときにつくった作品で、それに最近ガラスを増やしたりして手を加えました。見た目は全然平和じゃないですよね。要は“平和は当たり前じゃない”ということを表現したものです。

「Re:平和」

イシシッピ:制作した当時、世界情勢ってメディアを自分から見に行かないと取得できないなと感じていました。このお茶碗は日本を表しています。お茶碗の中にいると外が見えないんですけど、見て見ぬふりを続けているといつか自分たちの国にも被害が及んできて、気づいたときには周りはもうごちゃごちゃになってしまう。最後、自分がいる平和だったところが壊されてしまう。

───お茶碗のなかは安全だけれど脆く、周りの状況を知っておくことの大切さを示唆しているんですね。

イシシッピ:実はこのお茶碗は私自身が愛用していたもので、たまたまこの割れ方をしました。日本って結構閉鎖的だなぁという社会的な作品です。

───今の状況が明日はどうなるかわからないというのは今回のテーマの「ぼくらの揺」に通じるところがありますね。

「人と違う」人に寄り添う作品をつくりたい

───多彩な表現をされているイシシッピさん。造形を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

イシシッピ:私は小さいころから「変わっている」と言われることが多くて、人と違うことがしんどいと感じることもありました。でもそんな「人と違う」人たちに寄り添う作品をつくりたいと思い、抽象的な作品をつくりはじめました。初めてそう思ったのは中学生のときです。

───「皆んなと違う違和感」を作品に昇華し、さらに見た人にも違っていいんだよというメッセージを送っているんですね。

イシシッピ:そのままでいいんだよって思います。今結構、流されやすい時代なんでなおさら。

───イシシッピさんの作品は、テーマはネガティブかもしれないけれど、美しい造形になっていてネガティブな感情が癒されるなと感じます。では最後にこれからイシシッピさんが挑戦したいことはありますか?

イシシッピ:いろんな素材に触れていきたいです。ペットボトルも自分にとっては新しい挑戦でしたし、今まで扱ったことのない素材に挑戦したいです。あと絵の具を自分で調合して使ってみたいですね。

───扱える素材が増えたら表現の幅も広がりそうですね。ありがとうございました。

インタビュアー:川口 由真

イシシッピさんのInstagramはこちら👇

次のインタビューはこちら👇

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