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【政策⑨】なぜ、最低賃金の引き上げが賃上げにおいて重要なのか?

 前回、日本の賃金が下がり続けている原因を考えてみました。今回はその続きです。

与党も認める、賃上げの重要性

 以前から、与党も賃上げの重要性は認識しており、下図で分かるようにアベノミクス期間中、賃上げに取り組んできました。(②の期間中、名目賃金(額面の賃金)が上がっているのは賃上げの影響です。)

筆者作成
青で示す名目賃金指数は、2012年のアベノミクス開始移行緩やかに上昇傾向です。

 2013年以降は毎秋、翌年の春闘に向け、政府が経団連に賃上げを要請しているため、「官製春闘」とも呼ばれています。これにより毎年3%程度の賃上げを目指しました。そしてとくに今年は、昨年のインフレ率が日銀の目標とする2%をついに、初めて、通年で上回り、2.5%となっているため、労働者の代表の連合は5%の賃上げを求めています。そして岸田首相も、インフレ率を上回る賃上げを各企業に求めています。

 しかし今まで、官製春闘は主に大企業である経団連加入企業がメインのため、国内の労働者の大半を占める中小企業で働く人達にまではなかなか恩恵が届きませんでしたし、今年も消費者物価指数を上回る賃上げは難しのではないかと予想されています。

賃上げを具体的に進める強力な方法、最低賃金の引き上げ

 そこで重要になってくるのが最低賃金です。最低賃金は毎年、厚労省の中央最低賃金審議会で決まります。日本の労働者の約70%は、中小企業で働いていますが、最低賃金で働いているのは、中小零細企業の労働者が多いので、最低賃金の引き上げは、そこで働く人たちの生活水準を上げるのに役立つのです。

 最低賃金は、下図のように毎年徐々に上がってきてはいますが、2022年時点で、全国加重平均の最低賃金は961円です。仮に1日8時間、週5日働いても1か月で約15万3千円です。これではとてもゆとりのある生活は送れません。

最低賃金額の推移(全国加重平均)青棒
最低賃金の引き上げ幅の推移 折れ線グラフ
筆者作成

 もし最低賃金が時給1500円となれば1か月で24万円となります。昨今のインフレを考慮すると、せめてこのくらいか、もう少し多い額でも決して高望みとは言えないのではないでしょうか。

 とくに近年では、春闘より最低賃金の重みが増しています。2022年5月1日付けの東京新聞「非正規賃上げ、春闘が「最低賃金」後追い 受け身の労使では格差是正に懸念」でも、2010年代後半以降、「近年、最賃(※筆者注:最低賃金)と翌年春闘の上昇額がほとんどの年でほぼ連動していた。」とされています。

 このように今や、最低賃金は国全体の賃金を押し上げる原動力になっているのです。

 しかし残念ながら、ほとんどの経営者は自発的に労働者の賃金を上げません。当たり前ですが人件費が増えてしまうからです。

 昔と比べ労働組合の力が弱く、どうしても経営側に有利な環境の中、持続的な賃上げを行うためには、国が主体となって行っていく必要があります。

 デービッド・アトキンソン氏も著書「国運の分岐点」や「日本人の勝算」で、最低賃金の引き上げの重要性を訴えています。とくに日本の生産性の低さを日本の中小企業の多さに求め、その解決策として最低賃金の引き上げを唱えています。

 また急速な最低賃金引き上げにより、韓国で失業者が増加したというニュースも、根拠をもって否定されています。

OECD加盟諸国の平均賃金の比較。日本は下位から12番目となっています。

 上図のように、日本の平均賃金はOECD加盟諸国間で見ても低位となってきています。国際的な水準の賃金が支払えないような経営者が延命するような国家は、いずれ貧しくなるのは当たり前です。まして最低賃金すら引き上げたら経営の成り立たなくなる企業は、この世に存続する意味合いが乏しいと、言わざるを得ないのではないでしょうか。

 このような話をすると、性急な最低賃金の引き上げは経済に悪影響をもたらすといった批判が起こると思います。そこで、最低賃金を引き上げることによりみなさんが想像される懸念について、次回以降考察していこうと思います。

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