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読書メモ28


136.羊と鋼の森


ピアノの音はフェルトが弦を叩く音、羊が鋼を駆ける音

文章が、言葉が、単行本の装丁が、全てが森のような美しさ。GWを使ってじっくり読んだのが良かった。周りの山々を近くに見ながら読んだのが良かった。育児の合間に読んだのが良かった。

ピアノの調律師の青年の成長を描いた物語。
真剣にピアノに取り組む人がいない実家のピアノは定期的に調律されているけど、この本を読むと少し可哀想に思えてくる。

ありがちな感想になってしまうけど、出てくるピアノの音の表現がとても素敵。作中の双子の演奏や体育館で調律されたピアノ、コンサートホールのピアノを実際に聴いたとしても、自分のような素人には、違いはわからないかもしれない。でも、言葉で表現してくれることで伝わってくる(気がする)
文章や言葉のすごいところは、読み手の想像力を刺激して伝えたい五感を感じてもらえること。
この本からは様々な言葉からピアノの音が聴こえてきて楽しかった。この本からだけじゃなく、自分の記憶の中の、子どもの頃イヤイヤ練習していたピアノの音、叔母のピアノの練習の音、妻が弾くピアノの音、いろんなピアノが聞こえてきて上質な読書体験だった。

たまたま読後すぐにiPadが発表されて、例の楽器をプレスするPVが発表された。ピアノが潰されていくのにいい気はしなかった。
ちょうどいい機会だし、iPhoneからAndroidに切り替えた。今までは便利さ優先してたけど、デザインはGooglepixelの方がノイズが少なくて好きだ。

137.かがみの孤城

思春期の心×ファンタジー

初めて読んだ辻村深月さんの作品、本屋大賞をとって話題になってたから買って読んだけど何年前だろう。その後色んな作品を読んだけど、久しぶりに読むと素晴らしい物語

偉そうなことを書くと、一切無駄がなくて最後綺麗にまとまってスッキリ読める。登場人物が多いのにそれぞれのキャラが大切にされていて読みやすい。
展開のワクワク感は辻村作品随一だし、他の作品も登場人物の繊細な心理描写が大好きだ。

辻村作品大好きすぎる。

東京出張が往復6時間かかるので1日で読めた。久しぶりに電車に乗った。電車って集中して読めて最高。

138.野村の流儀

さあ頑張るぞ、という気分の時に、勝負師の言葉が効く

野村克也。選手としても監督としてもあらゆる記録で一流の野球人。でも、王や長嶋のような天才的な野球人生というよりも、クビになっても泣きついてなんとか契約してもらったり、考えて考えて着実に成果をあげていったタイプ。そんな野村克也の仕事に対する考え方に触れられる本。

いつ買ったか覚えてないけどKindleアプリの奥底で発見した。奇しくも今の自分にぴったりの本だった。

自分はいろんな人と関わりながらチームで仕事をしている。最近はその「チーム」を今までよりも意識していて、個人の成果っていうよりもチームとしての成果に興味が出てきた。最近はチームと一員(選手)としてだけじゃなくて、推進する立場として(監督とまではいわないけど)関わることも増えてきた。

そういった時に野村克也の選手として、監督としての考え方に触れられて良かった。

当たり前だけど感謝の心は絶対に忘れちゃいけない。自分が楽しいと思うことを仕事にできているのは誰かの必要不可欠な仕事に支えてもらっていることを忘れないこと。
楽しいことだけやって生きていきたいと思う気持ちと同じだけ感謝すること。

139.翔太と猫のインサイトの夏休み

自分も何度も手を止めて、哲学ができる本。

主人公の少年と人間の言葉を喋る哲学の素養のある猫が哲学しているのをのぞき見る本。

今まで読んだことのある哲学関連書は有名な哲学者の考えを知ったり、著者の伝えたいことの紹介のような側面が強かったけど、この本は自分も一緒に考えやすいような仕掛けになっている。自分も何度も手を止めて、哲学ができる。

あくまでも少年が夢で見たこと、疑問に思ったことを猫と一緒に考えていくスタイルなので、専門用語もほとんど出てこない。テーマも子供の頃に考えたことあるような、「現実って実は夢だったりしない?」みたいなのとか「死んだら何もなくなる?」とか「ビッグバンで宇宙が出来たって聞くけどそれより前はなにもないってこと?どういう状態?」みたいな感じ。

正直、この本を読むのはめちゃめちゃ疲れる。
疲れない人は、しつこく考え抜くのを苦にしない天性の哲学者か逆に考えずに消費しただけの人だと思う。
でも、疲れたけど、本と一緒に自分自身の頭て考える贅沢な時間を過ごすことができた。

大人になると「意味」や「成長」を求められることが多いし、求めてしまうことが多い。そういうのに囚われすぎると娯楽や喜びからもすぐに何かを見出そうとしてしまう。

哲学は何かを見出そうとする行為ではないからこそ、大人がやるべきなのかもしれない(本書では15歳以上は本当の哲学はできないと書いてあったけど)

誰かがたまたま習い覚えた哲学技法をあらゆる問題にただ適用して、それで問題が解決したって思い込んじゃうシャバいビジネス書や自分の考えの浅さからくる抽象を哲学的と表現するくだらない思想本なんて捨てて、もっと自分自身がほんとうに感じた問題に即して、ひとつひとつていねいに考えていかないといけない。

自分も読書の感想を書き残して、少しでも糧にしようとしてきたけど、もっと正面から自分の喜怒哀楽の揺れを楽しもうと思った。

140.コンビニ人間

Kindleの表紙がこれ

村田沙耶香さんの芥川賞受賞作

受賞のタイミングでKindleを使い始めたこともあり、すぐKindle版を購入した覚えがある。購入して一回読んだきりだったけど、定期的にいろんな人から読んでよかったという話を聞くので改めて読んだ。

さっきAmazonで本のランキングを眺めていると未だにベスト10入りしていて驚いた。それくらい人気があって長く読まれている本。

初めて読んだとき、今までの自分では想像できないような視点で衝撃を受けたのを覚えているけど、そのときよりも今回はだいぶ素直に読めた。視点の新しさに驚くことは無かったけど、他の生きづらさテーマの作品に比べての物語的な質の高さを感じることができた。主人公が見ている世界の表現が特徴的なのと話の展開、それに合わせた人間の変化がやはり面白かった。

純文学は書かれた時代を一緒に勉強すると面白いと大学の教養の授業で習ったのを思い出して、考えてみると、この8年で少数派の生きづらさは全く変わってない気がする。

多様性という言葉を聞く機会は増えたけど、真の意味で多様性が認められたわけではなくて、多様性を認めできるように振る舞うことが多数派の中で流行っているだけ。依然として自分の理解の範囲の中でしか認めることはできず、理解の外のものは排除しようとする社会に変化はない。

蟹工船が劣悪な労働環境へ一石を投じたように、コンビニ人間に続く様々な作品の力で少しずつ変わっていくかもしれない。

そんな中、最新の芥川賞は生成AIを使ったり、テーマもそっちよりだということで、それはそれで読むのが楽しみ。

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