読書メモ29
今月からまたAudibleを使い始めた。お試しで1ヶ月使ったときは車通勤時に使ってみて、自分に合わないと感じて辞めてしまったけど、今月からは家事をする時に聞くことにした。料理や洗濯、掃除など耳に集中してても危なくないし、聞き逃しても戻る操作が簡単。前回とは打って変わってかなり快適だ。
141.島はぼくらと
島の4人のまっすぐな青春
辻村深月さんの小説。冴島のたった4人の同級生達が高校最後の夏に何を思うか。いろんな選択ができる中で、島を出る人、島に残る人がいて、それぞれが何を思うか。
4人それぞれが中心の物語が織りなす、まっすぐな青春。
かがみの孤城を筆頭に他の作品でも、思春期の繊細な心の描写が丁寧で素敵。私がこれくらいの歳のときはここまで繊細ではなかった気もするけど、これくらい繊細に悩んでいたような気もするくらい伝わってくる。
やっぱり高校卒業後の進路って難しい。大学に行くにしても専門性があって、それが自分の将来に直結しちゃうような気がする中で決めないといけない。それでいて友達とは全く別の道に進む。17,18歳の人にとってはあまりにも大きな決断だ。
この物語では、島育ちの4人が主人公だから、より一層別々の道に進むことの不安だったりが強い。それでも強く強く進んでいく様はまさに青春でとても美しかった。
30歳を手前にして青春物語に良さを感じるようになった。自分がとうとう青春から外れたんだと思う。青春って予測不能な未来に対する希望と不安に立ち向かうことなのかなと思ってて、年齢とは関係ない気がする。今取り組んでる子育ては、希望と不安に満ち溢れてるんだけど、なんか青春とは違うような。
142.成瀬は天下をとりにいく
成瀬から目が離せない。ずっと見ていたい。栄養価満点の小説
滋賀県大津市在住の成瀬あかりが閉店カウントダウン中のデパートを紹介するテレビ中継に毎日映り込んだり、M-1グランプリに出たりする話。そういうことをする成瀬を見ている周りの人の話。
この本を通して自分も成瀬を見ている周りの人のになれるわけだけど、本当に飽きない。よくわからない変な目標にまっすぐ打ち込んで、目標達成したりあっさり諦めたりする姿は本当に清々しい。栄養満点の小説の圧倒的読後感。
出てくる固有名詞が現実のものだから、今、実際に成瀬が膳所で暮らしているのではないかと思わせてくれる。
それにしても、大津駅から京都駅まで9分って知ってた?思わず地図を開いて確認してしまった。あと、膳所って難読すぎない?
143.成瀬は信じた道をゆく
続 成瀬から目が離せない。ずっと見ていたい。
「成瀬は天下を取りにいく」の続編。期待通りの成瀬あかりの生き様を浴びれて最高だった。前の巻からの成瀬あかりの成長もみられて良い。
「たくさん種を蒔いて、一つでも咲けば良い」という考えのもと、いろんな目標を公言し、取り組み、時には潔く諦める。一見ホラ吹きのように見えるけど、一本芯が通ってるその姿勢がとてもカッコイイ。
この本の特設サイトには、有名作家ら著名人の一言感想が載っていて、この小説を表現する言葉が素敵だったので紹介します
これです!こういうことを言いたかったです!
成瀬あかりの真っ直ぐさ、誰しもが子供の頃に持っていたような部分があって、何かの拍子に置いてきちゃって。それを感じることができるんですよ!
この言葉、素敵すぎる。そのまま人生の指針にします。
144.この世の喜びよ
過去の経験も喜びの源
芥川賞受賞作の「この世の喜びよ」を筆頭に「マイホーム」「キャンプ」の3作が収録されている純文学作品集
自分が歩むかもしれない平凡な将来に少しの光を感じられるような作品だった。主人公のことを「あなた」と記す独特の文章からは、まさに自分がショッピングモール内の喪服店で働く、社会人と大学生の娘がいる何の変哲もない主婦であるかのような、不思議な催眠術めいた感覚があった。
「あなた」は思春期の女の子と話す中で娘の成長や自分の過去を思い出し、目の前の事象とリンクさせてそこに喜びを見出す。そういった感覚は、今の私にはあまり無い。むしろ、もっと年を取ったときの日常がなんの変哲も無かったときに何に喜びを見い出せば良いのか、不安でさえあった。そういう不安に対して何か示してくれるような作品であった。
まさに純文学というような作品で解釈が全然間違ってるような気もしなくもないけど、自分はそう感じた。
145.私とは何か「個人」から「分人」へ
あなたは誰といるときの自分が好きですか?
平野啓一郎さんが小説執筆を通して考察してきた「分人」という思想についての新書。「分人」とは、対人関係ごとに見せる様々な人格のことで、人間は複数の分人のネットワークでありそこに「本当の自分」のような中心はない、としている。
こういった考え方で整理すると、「ありのままの自分」で生きることが理想とされているような世の中でずっと楽に生きることができる。
この本は、親友がPodcastで紹介していたり、本書が課題図書の読書会の記事を読んだことで、興味を持った。あらかじめ「分人」について情報を仕入れていたことと、なんとなく自分でもそんなことを思っていたこともあり、こういう事が書いてあるんだろうなとぼんやりイメージしてから読んだけど、いい意味で裏切られた。
あまりにも広く深く考察され、整理された理論に圧倒された。分人ができるプロセスや、死ぬことや愛することなど様々な人間関係の形、自分との向き合い方など、本当に多角的に考察されていて、ぼんやり勝手に納得していた自分の中の分人思想がどんどん広がって、どんどん深まって、すごかった。
平野啓一郎さんは小説家であるから、様々な小説作品を通じて「分人主義」を検証しており、それ故の論の深さなのだろう。
自分の中で深めていくことができるほど納得感があって読みやすいまとめ方にしてくれているおかげで、読みながら自分なりに分人について考えたこともいくつかあった。
・日本語は敬語があるから言葉による分人の切り替えやすさみたいなものがありそう。以前読んだ「自分らしさと日本語」という本で近い考察がなされていたような記憶。
・各分人を表面化させてるときに、それを俯瞰で見ているような分人がいる気がするんだけど、あれはなんだろう。私は「この人といる自分が好き」と思うことがあるんだけど、好きと思っているのは、いま表面化させてる分人とは別の分人で、それは決して表に出ない。本書では直前の分人を引きずるような例とともに説明されてるけどまだ消化できていない。個人的な感覚ではその「好き」を思う分人が中枢であるような気がする。多分この中枢分人は人生通算の分人で、他の分人とは次元が違う感じ。
・ある分人が辛いとき、その原因の半分は相手にある。ある人物が犯罪を犯してしまっとき、その原因の半分は社会にある。ような節があったけど、半分どころか限りなく全部が相手や社会にあるような気がする。人間はいろんな分人の集合体で、その各分人ができていく過程で究極的には自分の意思みたいなものの介入が難しいような。自由意志が無いとか有るとかそういうんじゃなくて、自由意志があったとしても介入が難しいような。
・自分を肯定するための分人思想のあてはめ方みたいな章はとても自己啓発的ではあったけどこの思想の本質ではないと感じた(私の想像ですが、著者もそう思ってるのではないか。分人思想を何かに役立てたいというよりも哲学していきたいと思っているのではないか。他の本読んでないのに無責任にすみません)
読書メモなので、少し経ってからまた自分で見直したときに、ここに記したことに対してどう考えるか、楽しみ。
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