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【読書感想】二月二十六日のサクリファイス

昭和初期に日本を震撼させた二・二六事件。

首相や大蔵大臣など政府首脳が襲撃された上に、永田町や霞が関は反乱軍によって制圧され、日本の統治機構は一時機能停止状態に陥りました。

事件後、首謀者は裁判にかけられ、処刑されましたが、この事件に黒幕がいたのではないか、という疑念は残っています。

そんな昭和最大のミステリーに大胆に切り込んだのが、本書「二月二十六日のサクリファイス」です。

読者は、事件の首謀者をつきとめる任を帯びた若き憲兵林逸平と共に、二・二六事件の謎に挑むことになりますが、事件との深いかかわりが疑われている陸軍大尉の山口一太郎は、留置所に身柄を拘束されていながら、部屋に製図台を持ち込ませて兵器の設計を続けるなどして、自分が容疑者だという緊迫感がなく、とらえどころがありません。

行き詰まりを感じた逸平は、山口に関係するさまざまな人物に事情を聴きますが、本当に山口が主導的な役割を果たしたのか、謎は深まるばかりです。

そして次第に逸平は自らの身の上に照らし合わせて二・二六事件の首謀者に共感を抱き始めます。

山口大尉を初め、戒厳司令部参謀として林の捜査を支援する石橋莞爾など主な登場人物がほとんど実在の人物であるところが、この小説にリアリティを持たせます。

もし、二・二六事件が首謀者の思惑通り成功していたら日本の歴史は大きく変わっていたかも知れない、と思います。どちらがよかったのか、簡単には言えませんが。



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