カビゴンの女

2020年7月21日 10:04

「ゲームはたのしいもの、お前はくるしいもの」

と、からかうのが好きな夫は言う。

怒られるだろう、
からかってやろう、
そういうつもりでふざけて言っている。

大げさでなく、人生の半分くらいを
使ってきたであろう、夫のゲーマーぶりは
出会った頃にはすでにそうだったので
「つまんねーな」と思う日はあっても
それ以上はあまり何も思わない。

ゲームはたのしいもの。
疑いようもないだろう。

わたしは、
夫が、わたしをくるしみと捉えたことに
夫の想像したイメージとは裏腹に
なんだかうれしくなった。

なぜならわたしにとっても
夫の存在はくるしみだからだ。

そして、わたしは
くるしみが
自分の彼に対する大きな愛情の裏返しであることも
よーく知っている。

無関心かと思っていた。
だとしたらそばにいる意味がないな、と考えていた。

そうでもないらしい。

わたしたちは、共通のくるしみを
相手に抱いている。

それなら、たぶん
それを執着だと知って
もっと解放されていく道があるんだろうね。

まだまだ一緒に過ごす意味が
急に出てきた気がした。

「ウチもくるしいなあ。ウチら、本気なんやな」

というと、夫は「ふーん」と言っていた。

本気だ。
本気の夫婦だ。

本気の夫婦には、戦いが待っているが
同時に未来もあるんだろう。

無味乾燥であるならば、
別にあなたでなくても良いのだ。

そういえば昔、
「お前は弱い。優しすぎる」
と、わたしに言った夫が
最近になって
「お前は強い。カビゴンぐらいなんにも動じない女や」
と言ったことには大いに笑った。

わたしは当然進化し、
進化したわたしを一切の曇りなく見つめる
彼のそんな素直な瞳がそこにあると
わたしは思った。

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