100円ショップは小売店のディズニーランド~100均から見出す新たな資本主義とは~【8月書評】
9月下旬になり夕暮れ時の風は着実に秋めいている。
さて8月は大学生至極の夏休みであり多くの本を読むことが出来た。
その中でも特に良かった本を紹介しようと思う。
【100均資本主義 脱成長社会「幸せな暮らし」のつかみ方】著・郭洋春
この本は立教大学経済学部の郭先生が100円ショップの営業戦略から未曾有のコロナ禍を経験し、日本人の購買意欲の変化、また商品そのものへの価値観の転換が新たな生活を導いた時代変化、マクロな視点では21世紀の資本主義が転換期を迎えていると書いている。
"100均"と"資本主義"。一見全く結びつきそうもないこのワードから全く新しい経済の視点を我々に教えてくれる。今回の記事ではその一片を紹介していこうと思う。
第1章ではなぜ、100円ショップは儲かるのか、そこには無駄を徹底的に削ぎ落した究極の利潤追求モデルがあるというのだ。今日本では30年ぶりの未曾有の物価高を迎えている。原油価格の高騰、ウクライナ危機と円安が日本経済に未曾有の危機をもたらしている。身近なところで言えば電気代は前年から3割値上げ、スーパーやコンビニでの食料品、日用品、毎シーズンの"値上げラッシュ"は家計に大きなダメージを与え続けている。都内では自動販売機のコーラが180円、マクドナルドのハンバーガーが1個200円に迫るなどいよいよただ事ではなくなってきている。ではこの値上げ大国日本の中で多くの人々を取り込んでいるのが日本に数多存在する格安ショップである。格安ショップのおかげで人々は物価高により生活水準を著しく落とすことなく生活できているのは紛れもない事実である。業務スーパー、ドン・キホーテ、GU、ワークマンなど。そして100円ショップ通称"100均"である。
100均は需要低下のコロナ禍においても人々が次々に来店した。業界1位のダイソーは22年に銀座にど真ん中に旗艦店を出店するなど留まるところを知らない。なぜ100均は伸びるのか。そこには1個100円という価格設定だから実現できるビジネスモデルがあった…
第2章ではコロナ禍による生活革命によって100均は追い風を受けたというのだ。外出自粛による"おうち時間"の拡大が人々に新たな価値観を生み出した。家具やインテリアを買いに行くのではなく家で作ってみようとする"DIY"。普段自炊しない人も家にいることでふと挑戦してみたくなるそんな男子の急増、"料理男子"など。そのおうち時間を充実させるアイテムに100均各社はいち早く目を付け数多の商品を開発し大ヒットしている。
第3章では21世紀における新たな資本主義の変遷を解説している。
日本経済の低迷から現代の日本人は「過剰貯蓄・過少需要」の傾向がみられる。市場の方向性がDemand<Supply(供給過多)に完全にシフトし国全体として金の流動性が滞ってきている。その結果、企業は技術投資を行えず、賃金が増えない。よって需要を生み出せない。負のスパイラルである。
その中で人々は物欲に従って消費を行う"モノ消費"から楽しい時間や有意義な経験にお金は使う"コト消費"が主流になりつつある。既成の「インフレ=善、デフレ=悪」という20世紀の価値観を全く転換し新たな21世紀の生活様式、それに伴う経済の仕組み、資本主義が求められているのである。かつては、物欲から家電などの完成品を買って自分の生活の中に物を当てはめていくようなスタイルであった。しかし21世紀の資本主義とは自分の理想の生活をまず想像し、そこからパーツを購入し自分なりの空間をデザインする。100均の商品からDIYはまさにその典型例である。1人1人の生き方から需要を見出し社会全体として多くの納得解が共存する社会を生み出す必要があると著者は言っている。
第4章と第5章ではこの100均資本主義の未来と社会構造の変化について著者が述べている。消費だけでなく働き方、人間関係、環境問題、DX社会など現代社会が抱えている問題にも100均資本主義は新たな切り口を見出す。
この本は我々の日常との関連した主題も多く、様々な経済学的視点から著者が丁寧に解説されており非常に読みやすい。また100均だけでなく格安ショップの経営戦略なども解説されており非常に興味深い。ぜひ読んでみてほしい。
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