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【映画雑記】『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を久しぶりに観たよ。

近頃はYou Tubeを眺めてるとエロとグロ以外はなんでもあるなあと思います。ここんとこ自分がよく観ているのは「心霊スポット潜入」モノ。最初は心霊スポットでソロキャンプする方の動画を観ていたのですが、いま一番のお気に入りは人気チャンネル『ゾゾゾ』。「怖いものに興味がないパーソナリティーの落合さんがイヤイヤ心霊スポットに連れていかれる」というお約束のフォーマットが妙な説得力を持っていて大変おもしろうございます。とはいえ『ゾゾゾ』も全て見尽くしてしまい。他のおすすめチャンネルなんかも観たりするのですが、その多くは見えない聞こえないものを無理矢理に怪異として演出していて、中にはあからさまに何かを仕込んでいたり心霊がテーマのはずが「結局人が怖い」オチを採用する本末転倒なものまで目についたりしてジャンル内のチャンネル数の多さ故の手詰まり感もなかなかです。こっちはギンティ小林さんの『新耳袋 殴り込み!』で(怪しげな演出もあったものの)怪異なんてものはそう簡単に捉えられないと教えられているので見せ物として成立させるために拵えた安易なエンディングに対してはどうしても中指が立ってしまいますね。


↑ 『ゾゾゾ』でお気に入りは「信州観光ホテル」。
サブチャンネルのオマケドキュメンタリー含めてみるとなかなか怖いです。


前置きが長くなってしまいましたが、特に『ゾゾゾ』を観ていると強烈に思い出すものが2つあります。ひとつは大泉洋の『水曜どうでしょう』。テーマに対して明らかに乗り気じゃないメインパーソナリティーと前のめりに画面外から指示を出すディレクターという「ガワ」だけでなく、その二者のすれ違いが生み出す笑いと緊張感の生まれ方もよく似ています。もうひとつは本稿のお題である『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』です。


『ブレア・ウィッチ・プロジェクト(以下BWPと略す)』は1999年に公開され、世界中のホラーファンに衝撃を与えた極めてエポックメイキングな作品。

本稿を書くにあたって久しぶりすぎる鑑賞に臨みました。最後に観てから20年近く経ってるかもしれない。その間に、フォロワーたちがPOVを駆使して様々な作品群を生み出したことも知っている。その震源地といえる『BWP』、なにぶん古びて見えるかななんて思いましたがいやぁ…いま見ても秀逸なファウンド・フッテージモノで充分怖かった。とくにいまの感覚で観てると心霊You Tuberの皆さんが足を向けて寝られない作品だという妙な感心まで…。また、レンタルDVDなどを中心に盛り上がった日本における心霊ドキュメンタリーの進化を促す追い風にもなっただろうな、なんて思いました。『BWP』はそのスタイルから公開当時からよく『食人族』と比較されてました。『食人族』はこれまた有名すぎるフェイクドキュメンタリーの傑作で、フィルムの発見者によるメタ的な視点で映画が進行します。一方で『BWP』は「家族の承認を得て見つかった映像を特別に編集し公開」というスタイルであるため、冒頭の「三人が行方不明になり、一年後にフィルムだけ見つかった」という字幕以外は一切の説明がありません。魔女伝説の取材の痕跡が地元民へのインタビューから伺える程度で、それでも大雑把な説明にとどまり、詳細には説明されない。ひたすら荒削りに繋がれたシーンの連続が、映画が進むにつれてしだいに撮影者の内面に没入していく結果を生み出しています。三人がボンクラ過ぎてイライラするし、呆れる場面もありますが、最後に残るのはただひたすら「怖い」という感情のみなのはお見事です。

イライラその1。ヘザー。
自分の失敗を認めない態度が大惨事を引き起こす。

とはいえ、実はそんなに投げっぱなしというわけではなく、実は解説編であるフェイクドキュメンタリー『ブレア・ウィッチの呪い』があります。配信タイトルの中になく、今回は観られなかったのは少し残念だった(映像ソフトには特典として収録されてます)。

イライラその2。マイク。
地図が読めない。
イライラその3。ジョシュ。
見た目を裏切る女々しさ。

これは『食人族』でいう発見者の視点パート。本国アメリカでは劇場での初公開直前にアメリカ国内でテレビ放送されたものでした。日本でもその内容を抜粋したものが放送された記憶がある(調べてみたら放送したのはテレビ東京だった、凄く納得)。歴史を18世紀に遡り、アメリカ国内にも残る「魔女狩り」の記憶を呼び起こす魔女伝説が語られるが、それらは全て映画の設定のために考えられた嘘。つまるところ『BWP』の最も新しかった点は解説編を思い切って映画本編から切り離したところにあると言えるでしょう。結果、観客は鑑賞後に困惑と恐怖に突き落とされ、ハマったファンは情報を求めて『ブレア・ウィッチの呪い』にたどり着き、加えて当時広がり始めたインターネットを利用した情報の拡散という条件が揃ってそこで初めて作品の総体が見渡せる。そこに参加することの「ドライヴ感」はあの当時、確かにありました。なので当時、映画本編だけを観た人が「つまらない」と文句をいう人も多かったのですが、面白くするかどうかは見た人次第というのも昨今のYouTubeに通ずるものがありこれまた感心した次第であります。

『ブレア・ウィッチの呪い』海外版ジャケ。
このタブロイド感がたまらん。

とはいえ、改めて観ると、森の中で迷子になりひたすらギスギスする人間関係。わがままに付き合わせることに躊躇のない人間が、大変なことになったと遂に自覚したと思った途端なんの救いもなく終わるあたりがなかなかよいのです。見せ方が公開当時より多様化したいまでは、これはこれでしっかりホラー映画として成立しています。解説編なしでも立派に作品として語り継がれる価値がありますし、もっと時間が経てば解説編なしでも語られる映画になるかもしれません

当時を経験した映画ファンに再度、改めて観てほしい映画ですね。

※蛇足
『BWP』のラストにJホラーの影響が、という考察を意外と目にする。

たぶんこのカットのこと。

1998年に日本で『リング』公開、『BWP』はその翌年の映画。まだJホラーの数自体がまだ少ない中で影響を見て取るのは厳しいかと…。むしろ、『リング』脚本の高橋洋氏が「Jホラーは『回転』や『たたり』といった50~60年代の米英の幽霊映画の表現の復興だった」と断言していたことのほうが重要かもしれない。影響というよりは、日米の映画人たちが恐怖表現を模索するうちに1950~60年代の幽霊映画の描写にたどりつき、同時期に再評価して取り入れた、ということなんでないかな。

Tシャツも流行ったね。


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