東京都新宿区ド〇キホーテ1番街
「今日帰り食材買ってきて」
「なに?」
「豚肉とジャガイモ」
「あー、わかったー」
昼休み、母からのメッセージ。
放課後校舎を後にし、近くのド〇キへと向かった。輝く蛍光灯が眩しい大きな門とそこに山積みになった商品の間を抜けてその街へと足を踏み入れた。
都市部の人口増加とともに人々は近さと安さと品揃えを求め続けた。その結果、東京都新宿区の一角、街一つ量販店と化した。街では今日もカテゴリーごとのビルが立ち並び、軽快な音楽が流れ続けている。
商店街が大型スーパーの影響で廃れていき、大型スーパーが超大型量販店の影響で廃れていった。激安の殿堂、食料品、工具、おもちゃ、家電、雑貨、書籍、この街では全てが揃う。
コンクリートジャングルの中の新たなジャングル。
歩道を歩きながら上の案内標識を見た。
→ 生鮮食品 30m
「案外遠いな。」
右に曲がってオリジナルブランドが入っているテナントを横目に生鮮食品のビルへと向かった。ネイル、ジム、靴、整体、自転車、全てにいる青色のペンギン。
たどり着いた生鮮食品のビルの自動ドアが開くと冷たい空気が足元を包んだ。一階はあたり一面に肉が並べられていた。入ってすぐの昇りエスカレーターに乗り、一つ上の根菜の階へ向かった。
土の匂いがするその階は全国各地から取り寄せられた色とりどりの根菜が並べられていた。一つの野菜に対しておかしいくらいの品種が揃っている。何食分か使えるように少し大きい袋に入った一番安いじゃがいもを手に取った。芽が少なく形の綺麗なそのじゃがいもを腕に抱え降りのエレベーターへ向かった。
一階の大量の肉の中からやっぱり一番安くて少し多い豚肉を手に取った。
「チキンカレーがいいな。」
一瞬勝手に鶏肉を買っていこうか迷ったが、余った肉の使い勝手を考えると豚肉に分があった。鶏肉を諦めてじゃがいもと豚肉を抱え同じ階のレジへと向かった。
これだけ広い街なのにレジは混んでいた。ポイントカードを財布から取りだしながら順番を待った。自動化が進んだレジでは常連と思しき老人が一切の迷いなく支払いを済ませていた。
レジの台に商品を置き、店員にポイントカードを手渡した。
「こちらお返しします。お支払いは奥の3番レジでお願いします。」
かごを3番レジへ運んだ店員はもう次の商品に手を伸ばしていた。
画面を操作し支払い方法を選んだ。食費用のクレジットカードを渡されているのでカードで払った。出てきたレシートにバスのクーポンがついていた。
「あ、らっきー。」
鞄に袋で包んだじゃがいもと豚肉を詰め、ビルを後にした。ビルを出て左に曲がり、少し行ったところにあるバス停で新宿駅行きのバスを待った。待っている間にレシートのQRコードを携帯で読み込み交通系ICにチャージした。目線を携帯から正面へ戻すと前の男のジャケットにポップなタグが付いていた。声をかけようか迷っているとバスが見えた。
バスに乗り込むと自分と同じ制服の学生がちらほらと乗っていた。青いペンギンでラッピングされたバスの車内には新商品の広告が貼られていた。バスは蛍光灯で照らされた眩しい門をくぐり街を後にした。
「食材買いました」
母にメッセージを送った。
駅についてぞろぞろと降りる客とともに降りた。
駅前では青いウィンドブレーカーの人達がチラシのついたティッシュを配っていた。着ぐるみの青いペンギンと目が合った。手を振ってきたペンギンを無視して改札へと向かった。
「次はプラネットド〇キホーテだな。」
そう呟いて改札を抜けた。