経済に関するメモ(19) 【保険法(生命保険)】
本メモは経済の基礎的な内容に関するメモです。
3. 生命保険 35項目
3-1. 生命保険
❶生命保険契約の要素
・生命保険契約の意義
…被保険者の死亡に関して(死亡保険契約)と一定時点の生存に関して(生存保険契約)
→リスク移転とともに貯蓄要素が包含された取引、定額(生死による損害は測れない)
→要素は契約者・被保険者・受取人・保険事故・保険金額・保険期間・保険料
・被保険者
…契約者と同一(事故の生命の保険)、同一でない(他人の生命の保険)か
→後者では同意がないと無効、生命が勝手に保険に付されないようにするため
→被保険者が一人(単生保険)、複数(連生保険)、不特定多数(団体保険)
・受取人
…契約者と同一(自己のための保険契約)、同一でない(他人のための保険契約)
→数人、法人も受取人となりうる
・保険事故
…死亡(失踪宣告を含む)または生存(出生は含まれない)
→傷害または疾病による死亡のみを保険事故とするのは傷害疾病定額保険契約
・保険金額
…実務では当事者間の合意によって保険者が支払う一定の額
→基準が定まっていればよく確定額で定まっている必要はない(変額保険も含まれる)
・保険料
…事故発生の可能性に応じた対価で年齢、契約種類、保険期間に応じて定まる
→支払い方法は年払、半年払、月払
❷生命保険契約の種類と該当しない死亡給付
(ⅰ)対象属性による分類
・個人保険
…個々の保険の対象ごとに締結
・団体保険
…複数の対象を包括して締結、団体全体の危険に着目して危険選択
(ⅱ)保険期間による分類
・定期保険
…保険期間を一定期間に定める
・終身保険
…保険期間が一生涯にわたる
(ⅲ)支払い方法による分類
・一時金型
…保険事故発生時に一括で支払われる
・年金型
…一定期間あるいは終身にわたって年金が支払われる
→年金を支払う期間で終身年金、有期年金、確定年金
(ⅳ)保険金額による分類
・定額保険
…保険期間を通じて一定
・変額保険
…特別勘定資産の運用実績に応じて変動
・ユニバーサル保険
…保険金額を随時変更、最低保証に利息を足す
・生命保険契約に該当しない死亡給付
…保険法では傷害死亡または疾病死亡に関してのみ傷害疾病保険契約に該当
→傷害疾病保険契約との相違は老衰や自殺免責後の自殺による死亡が保険保護となるか
→実務では海外旅行中の疾病による死亡に関する保険を除き疾病保険は生命保険に該当
❸保険者が生存または死亡に関し一定の現物給付を約する場合
現物給付は生命保険契約に含めるか?
→インフレリスクを伴い監督規制も十分に整備されていないため含めない
→該当しないというだけで無名保険として締結できるのではないか
→合理的な数理的基礎もなく定額現物給付を行うのみでは公序良俗違反ではないか
→現物給付を第三者に委託し保険者は第三者に対して保険金を費用として支払う
生命保険の成立
3-2. 第37条(告知義務)
❶保険危険事実と道徳的危険事実
…告知事項となるのは保険危険事実のみ
→他社の拒絶は間接的に示す徴表事実だが他社契約の存在自体は徴標事実ではない
→他保険契約の有無を告知事項としない
❷重要性の判断基準
…保険者に共通する客観的基準かは明確でないが種類、条件、当事者の事情を考慮せよ
→少なくとも質問表により危険選択において何が考慮されるかは商品や引受基準の多様化
を踏まえると各保険者が危険選択に用いた基準によるべき(主観的基準説)
❸質問表の効力
…保険法では重要な事実であっても質問された事項以外に告知義務は及ばない
→重要な事実でない事項の告知を求めることは許容されるか?
→許されない、そもそも告知事項にならず違反が成立しない
→重要事項以外の事項について告知を求めるべきではない
❹代理人による告知の可否
…告知義務者に契約者を含めているため親族(代理人)によってできないということはない
→違反かどうかは代理人の故意・重過失に焦点
→悪意の契約者が代理人に指図した場合は代理人の故意・重過失を主張できない
→代理人に不適切な行為があった場合は契約者の重過失と認められる
❺告知の時期
…改正前商法では保険契約成立時
→保険法では募集人等が面接で告知書の記入を求めた際、医師が口頭で質問した際
→告知後に新たに生じた重要事実については告知義務の対象とならない
→質問時に不告知・不実告知でも保険者が承諾するまでに訂正・補充ができる
→承諾してしまえば解除権の行使は認められない
→契約成立後に訂正・補充がなされた場合は解除権の行使が可能
❻診査医、生命保険募集人、生命保険面接士の告知受領権
…診査医には告知受領権があり、募集人には契約締結権も告知受領権もない
→募集人の告知受領権は肯定してもいいのでは(負担の公平の考慮、無診査保険)
→診査医と同様の機能を果たせないため肯定できない
→面接士も医師資格を有せず機能を果たせないため肯定できない
❼遺伝子情報と告知義務
…ヒトゲノム完全解読により遺伝子診断や検査による疾病の発見や予測が進む
→将来発生する疾病を確実に予測できるとすればこれを見越した逆選択のリスクは高まる
→遺伝子診断の結果を告知対象とできるか、差別につながる可能性は?
→責任開始期前の疾病との因果関係に関する証拠としては採用されるが、重要な事項に含めるかは議論が必要
3-3. 第38条(被保険者の同意)
❶被保険者同意を要件とする理由
…殺害などの犯罪誘発の可能性、 賭博目的の可能性、人格の侵害の可能性による弊害の防止
→犯罪誘発に関しては被保険者の解除権や保険者の免責なども設けることで排除される
→ 賭博目的に関しては保険会社の危険選択の中で排除される(不健康な貧民・著名人)
→人格の侵害に関しては同意を得ることにより排除される
❷被保険者同意の性質、方法
(ⅰ)同意の内容
…契約者・受取人・保険金額・保険期間について、署名押印
(ⅱ)同意の相手方
…保険者または契約者
(ⅲ)同意の方式
…保険法では書面を要求していない
→書面がないことを理由に保険者が責任を免れることを防ぐため、
保険業法では書面またはこれに準じた方式を定める
(ⅳ)同意の時期
…事後の同意で足りるとするのが多数
(ⅴ)同意の撤回
…保険法では撤回が認められないことを前提として解除権を与えた
❸未成年者の被保険者同意
…実務では法定代理人の同意を得ることとする
→民法では財産に関する法律行為以外は代理権を有しないとする
→被保険者の同意については準法律行為として法定代理人の同意も可能とする
→人格権の行使と捉えれば未成年者の判断力があれば本人の同意を要すると考えられる
3-4. 第39条(遡及保険)
❶承諾前死亡の扱い
…責任遡求事項が認められ承諾前に遡って保険者の責任が開始するとされている
→承諾前に契約者がなすべきことをなしたが死亡して保険者が知った場合は?
→保険者は承諾しない自由もあり保険金を支払うことにならないのか?
・否定説
…死亡の事実を知らなければ危険選択による拒絶はできる
→為すべきことをなしていれば期待があり否定説は契約者保護にかけるのでは?
・肯定説
…保険適格性を満たしていれば承諾義務を認める
→判断時は保険料支払いと告知が完了した時
道徳的危険も含まれ、判断資料は告知書だけでなくモラルリスクに関する資料も
3-5. 第40条(生命保険契約の締結時の書面交付)
❶生命保険契約の申込受領権限、承諾権限及び保険会社の責任
…諾成契約は申込と承諾があれば成立
→書面の交付は生命保険契約の成立要件でなく交付してないから支払いしないはできない
→実務では申込があれば診査をさせて資料を集め基準を満たせば保険証券の交付をもって承諾の意思表示とする(到達することで効力を生ずる)、 募集人に申込受領権限はない
→生命保険契約では継続中に保険給付を追加する特約を締結した場合、満期後に自動更新されて当事者間で争いになる→合意と効力を考える
・クーリングオフ
…申込日又は書面交付を受けた日(遅い日)から8日以内
→保険事故発生を知らずに撤回・解除してしまわないか?
→保険金支払い事由が生じていれば知っている場合を除き撤回等の効力は生じない
❷契約成立とその内容を証する書面記載事項
…保険金請求において契約内容の証明は重要な機能を果たす
→生命保険契約の要素と保険金の支払い方法、危険増加に関しての内容を記載
→証拠証券であり法廷記載事項を欠いても証拠力に影響はない、誤記載は訂正を求める
→実務では保険証券のほかに印鑑証明書などで本人確認、譲渡には被保険者の同意が必要
❸本条の内容と異なる合意の効力
…保険証券に引換証券性が認められるか?
→約款は保険証券と引換でなければ保険金を支払わないという意味を持つのではなく、提出できなければ別の方法で権利を証明してくださいという意味を持つ
→紛失の場合は二重請求を防ぐために署名・押印を求める
→電子データはどうか?
→遺族が電子データでは気づかないのでは?
→書面
❹法律行為一般規定の適用により生命保険契約が無効となる場合
…契約者に保険要素の錯誤がある場合は無効とする
公序良俗違反がある場合(不正取得目的)は無効とする
→現在は様々な間接事実から認定するテクニックがかなり進歩している
・リース会社と生命保険契約
(ⅰ)リース料債務を負担する者が契約者・被保険者となり生命保険契約を締結、保険金請求権についてリース会社を質権者として質権を設定
→保険者は保険契約が契約者の錯誤により無効だと主張
→保険契約はリース契約の存在を前提として成立しないため無効等になっても影響なし
→リース契約の成否は保険契約の要素でない
→保険契約の意思表示が錯誤により無効であるという保険者の主張は通用しない(有効)
(ⅱ)契約者・被保険者が多重リース債務を負担
→保険者は保険契約が公序良俗違反により無効だと主張
→多重リース債務を負担していて保険料の負担が過負担だっただけであり保険事故を誘発する可能性が高いと断定できない
→保険契約者の公序良俗違反により無効であるという保険者の主張は通用しない(有効)
3-6. 第41条(強行規定)
❶37 条の片面的強行規定性
…損害保険契約の7条と同様だが異なる点は人保険には適用除外に関する規定がない
→生存や死亡に関するリスクを担保する保険は事業活動と関連性があってもリスク自体に特殊性はないためむしろ片面的強行規定を適用する必要性が高い
(ⅰ)書面による告知を求める約款は契約者に不利な特約となるか?
→保険募集主体を認めることから出てくる問題であり片面的強行規定の影響の問題でない
(ⅱ)不実告知に関する特約はどうか?
→危険に影響はあるが被保険者の属性を示す事実(保険要素)であり告知義務の範囲外
生命保険の効力
3-7. 第42条(第三者のためにする生命保険契約)
❶保険金受取人の指定と公序良俗違反
…契約者と受取人の対価関係、締結後の変化を考慮するのかという点で判断
→不倫相手を受取人にした場合は?
→判例では目的が不倫関係の継続維持、不倫相手の生活を保全するためでないとし無効
→不倫相手が保険外交員である場合、目的が成績を上げるためである可能性もあり、不倫関係の継続維持が目的であるとは断定できず、保険料では妻の生活が脅かされない
→公序良俗違反と認めるには足りない
→結局不倫関係は婚姻秩序を害するものとして公序良俗違反とし無効
❷抽象的な指定の解釈
…受取人を妻と表記しても離婚、妻という表示と氏名が併用されている場合は?
→抽象的な指定に関して受取人の地位を争う相互間では契約者の真意を優先すべき
→相続の場合は法定相続分での取得を指定しているのが真意と考えるのがいいのか?
❸死亡保険給付請求権と遺留分相殺並びに特別受益の持戻しとの関係
…被保険者の夫が受取人を妻から父親に変更して死亡した場合、妻が遺留分相殺を要求
→(ⅰ)死亡保険給付請求権は受取人が自己の固有の権利として取得するものである
(ⅱ)契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではないため、被保険者の財産に属していたものと見ることはできない
→受取人変更は遺贈や贈与にあたるものではなく遺留分の相殺は認められる
3-8. 第43条(保険金受取人の変更)
❶保険金受取人の変更の効力要件
…変更通知が保険者に到達したことを条件に発信した時に遡って効力が生じる、契約者意思の尊重と二重払いの危険から保険者を守る
→受取人変更通知が到達前に被保険者が死亡した場合であっても変更は認められる
❷保険金受取人の変更通知の発信
…発信されたと認められる状態とは?
→契約者の支配領域内から外へ向けて発せられたと評価できる状態
→営業職員に渡した場合は発信したと言える、
近親者に手続きしてくれと頼んだだけでは発信したとは言えない
→郵送依頼を受けた者が郵送しない間に被保険者が死亡した場合は?
→否定、依頼を受けたものは契約者の使者の立場にある
肯定、発信の意思は明確であり契約者の意思を尊重
❸保険金受取人の変更通知の到達
…到達したと認められる状態とは?
→保険者の支配領域内に置かれたと評価できる状態
→営業職員に交付した段階で到達したと認められるか?
→営業職員は意思表示を受領する権限はないが契約者は伝達を期待
→期待は保護するに値するため到達は認められる
→伝達遅延に伴うリスクは保険者側が負うべき
❹約款による本条と異なるルールの採用の可否
…1項は任意規定、2・3項は性質上強行規定
(ⅰ)受取人変更は保険証書に裏書を受けてからでなければ保険者に対抗できない規定
→法律関係の明確化と保険者の事務処理の便宜を図るため有効
(ⅱ)受取人変更について保険者の同意を必要とする規定
→保険者に対する意思表示が守られていれば方法を加重することは強行規定に反せず、モラルリスクの防止しようとするのは合理性が認められるため有効
(ⅲ)受取人変更の対象を一定範囲の者に限定する規定
→商品性の観点から合理性が認められることを条件に有効とする見解が示されつつある
❺保険金受取人を定める表示の解釈
…配偶者などの抽象的表示も有効
→具体的に明らかにする解釈はどのように行うか?
→保険者による客観的解釈…意思表示の相手方にとって有する意味を探求する
→妻、山田花子と表示し離婚した場合、 受取人で無くなる表示がなければ山田花子は受取人
❻保険契約者による保険金受取人の変更
…保険法では契約者が事故発生前に死亡すれば相続人が変更権を行使できる
→実務では約款によって認められるのが通例であったので影響はない
❼保険金受取人の変更と会社法上の利益相反取引
…株式会社が契約者兼受取人である場合は利益相反取引規制が適用されるか?
→全体的に肯定する判例が優勢
→被告が新保険金受取人の場合は取締役会の承認を欠くことを理由に変更は無効とする
❽保険金受取人の変更と債権者代位権
…契約者の債権者は代位権をもとに変更権を行使できるか?
→変更権は契約者の一身専属権であり債権者による行使は認められない
→債権者が変更の撤回権を代位権により行使し契約を転化し請求権を差し押さえれるか?
→肯定、撤回だけであれば契約者の意思に対する介入度は低い
否定、請求権は事故発生により具体化する権利であり帰属主体は契約者が決定
❾保険金受取人の変更と詐害行為取消権・否認権
…契約者兼受取人の法人が無資力となって受取人を第三者へ変更、倒産間近で事故発生か
→詐害行為取消権・否認権の可能性を肯定するものが多数
❿保険契約者による保険金請求権への質権設定
…受取人の承諾を得ることなく請求権へ質権設定することは認められるか?
→判例では請求権に一定の処分権を認め受取人の承諾がなくとも質権設定できるとした
3-9. 第44条(遺言による保険金受取人の変更)
❶遺言による保険金受取人の変更制度の創設の背景
(ⅰ)受取人の変更は遺贈に準じる財産処分行為として遺言に該当
(ⅱ)受取人の変更は相手方のない単独行為で遺言の場を借りた意思表示
→(ⅱ)では変更の効力発生時期は遺言者の死亡時、遺言が無効でも変更は有効となる
→保険法では遺言による変更を有効とする
→効力発生時期は遺言者死亡時だが遺言が無効であれば変更も無効であるとした
❷保険金請求権取得の固有権性との関係
…固有権性に影響が生じるのでは?
→遺言による変更を認めてもその変更を財産処分とはしていないため影響なしとする
❸遺言の解釈をめぐる問題
…遺言者の意思表示が明確でない場合にどのような基準で解釈すべきか?
→受取人候補間では遺言者の真意を探求する主観的解釈、保険者に対しては客観的解釈
→受取人をAとし遺言には全財産をBに遺贈する旨
→受取人は固有権として請求権を取得し請求権は遺産から離脱
→請求権をBに遺贈すると解釈できない
❹対抗要件としての保険者への通知
…相続人の1人が行えば足りる、遺言執行者が行うことも認められる
→受取人が相続人でない者へ変更される場合は?
→遺言執行者の仙人を家庭裁判所へ申し立て遺言執行者から通知できる
→実務では効力発生確認のため戸籍謄本や遺言の原本を必要とする
→遺言が無効、撤回となり保険金を払ってしまった保険者の保護は?
→準占有者に対する弁済適用のため保険者がどの程度確認をしていたか?
→形式要件の充足まで、撤回などの他の法律行為の有無の調査義務は負わないとする
❺他人の生命保険における遺言による保険金受取人の変更
…契約者と被保険者が異なる場合契約者が遺言で受取人を変更、被保険者が先に死亡
→遺言による受取人変更の効力は生じない
→モラルリスクや賭博保険防止の観点から変更には被保険者の同意が必要
→同意は被保険者が死亡するまでに得られていれば足りる
❻団体定期保険における被保険者の遺言による保険金受取人の変更
…任意加入団体は契約者である団体は名義上の契約者にすぎず被保険者の自己のため
→被保険者が契約者である団体を通さずに受取人を変更できるか?
→判例では変更の効力は生じないとした、無理がある
→自己のための保険とし保険者との関係において変更権は認められるとの見解も
3-10. 第45条(保険金受取人の変更についての被保険者の同意)
❶遺言による保険金受取人変更との関係
…遺言者の死亡時に効力発生
→被保険者の同意は事後でも良い
→同意を得る前に通知した場合同意がなければ対向要件を満たせないため再度通知が必要
3-11. 第46条(保険金受取人の死亡)
❶その相続人全員の解釈
…受取人が事故発生前に死亡した場合
→相続人全員が受取人になる、全員は固有の請求権を取得
→その相続人も死亡した場合はその順次の相続人も受取人となる
❷保険金受取人の相続人が複数いた場合の権利取得割合
→民法の規律によることが契約者の意思に反するとまで言い難い
相続分によって取得割合を定めることで契約者の意思の尊重を徹底できない
→特則は設けずに個々の契約の定めに委ねる
→実務では平等の割合とする約款が多い
→受取人を相続人とする場合は指定が配分の割合まで含んでいるため相続分の割合になる
❸保険金受取人と保険契約者兼被保険者の同時死亡
…同時に死亡した場合は受取は誰に帰属するか?
→改正前商法の判例が維持されると考えられる
→受取人の死亡時点で契約者兼被保険者は生存していない
→契約者兼被保険者とその相続人は受取人とならない、受取人の相続人に帰属する
3-12. 第47条(保険給付請求権の譲渡等についての被保険者の同意)
❶合併、会社分割、事業譲渡の際の同意の要否
…法人が受取人のとき
→請求権が合併・分割により包括承継される場合は効力あり
請求権が事業譲渡で移転される場合は文言上は無効となるが現実的ではなく効力あり
3-13. 第48条(危険の減少)
❶危険が著しく減少したときの意義
…保険料率区分が下位区分に変更される場合
保険料率表で対応できないまま割増保険料率を定めて超過危険を引き受けていて、超過危険事情が消滅して保険料率表で対応できるようになった場合
→生命保険では職業・居住地等の環境的危険の変更のみ、健康状態は関係ない
→健康状態は織り込み済み、超過危険の場合は数字査定に正確に織り込まれていたか?
❷危険減少の織り込み済みの問題と保険契約者の権利行使
・保険料織り込み済み
…契約時に危険減少を見越して保険料設定
→危険減少で保険料率区分の変更はなく減額請求権は認められない
→契約者は専門知識がないにも関わらず証明しなければならない
→保険法では契約者は単に危険変動の主張と請求をすれば足りる
保険者は認めないならば織り込み済みを証明する必要
❸保険料減額請求権の性質と減額の時期
…契約者は将来に向かって減少後の危険に対応する保険料まで減額請求できる
→形成権であり行使時点で保険料は減額される、約款により減少時まで遡って減額も可能
→生保の約款にはそもそも危険減少の規定はなく本条の規定に従う
❹団体定期保険における著しい事情の変更等、実質的な危険減少の規律の解釈
…生保では危険減少が個人契約に適用されることはほとんどないが団体定期保険では問題
→保険料の高い高齢者が退職し保険料の安い若者が入社した場合は?
→本条の片面強行規定が及び得る
3-14. 第49条(強行規定)
❶42 条の片面強行規定性
…第三者のためにする生命保険における請求権の発生要件について、受取人の受益の意思表示を必要とする特約は無効
→請求権の発生時期について指定時より後の時点とする特約も無効
❷48条の片面強行規定性
…危険が著しく減少したときに保険料の減額請求を認めない特約や、減額請求の範囲を保険法の規定よりも制限する特約は無効
3-15. 生命保険の保険料払込
❶保険料の支払い義務の主体
…契約者、破産時は破産管財人が解約返戻金や未経過保険料の返還を求めるべく契約解除
→名義人と出捐者が異なる場合に契約者となるのはどちらか?
→保険契約申込書の記載に従うか、保険料の実質的な出捐関係に従うか、問題による
❷保険料の受領権者
…第1回保険料は生命保険募集人、継続保険料は集金扱いの場合では集金担当者
❸保険料の額
…危険(被保険者の健康状態や年齢)によって決定、当事者の合意が必要
→割引、割戻、特別損益の提供は禁止
→違反しても原則として契約は無効にならない、公平を著しく害するならば契約も無効
❹保険料の支払い方法・態様
…分割払いが可能、別の方法へ変更も可能、まとめて払うことも可能、小切手やクレジットカード、口座入金も可能
❺保険料の支払時期
…保険料支払義務の履行期の問題でありルールはないため合意の問題
→初回保険料では責任開始がその支払がなされた時と定めるだけ
契約成立前に支払われ、成立により初回保険料に充当されるため履行期の問題はどうか
→継続保険料では契約応答美の属する月の初日から末日までに払い込む、払込期日の概念
→集金に行くと通知した日に集金に行かなかった場合は遅滞とはならない
集金に行っても支払者不在の場合は末日までに支払わなければ遅滞となる
→猶予期間中に事故発生した時は保険金支払債権との相殺
❻保険料不払による解除・失効と帰責事由
…保険料不払の場合は保険者に強制履行、損害賠償請求、契約解除が認められるのか?
→集団的な契約間における原資確保の意味を有するため一般の債務不履行とは異なる処理
→猶予期間を設定、猶予期間の末日までに支払がなければ失効
猶予期間中の事故についても責任対象とされ自動貸付などによる延期装置もある
→不払の場合に責めに帰すべき事由が必要か?
→学説では契約者に不払による保険保護の喪失という効果を及ぼすことが、具体的な事情の下で妥当でない場合を救済する要件として帰責事由を要するものが多い
❼無催告失効条項
…猶予期間の設定により催告不要にすると契約者に認識の機会が提供されないのでは?
→判例では無催告失効条項が有効であることを前提としている
→督促などの実務上の運用が確実になされていると認められてはじめて有効と認められる
→生命保険では督促を確実に行い自動振替貸付を使うのかの区別がわかるように改善
→監督規制において猶予期間・失効・復活などは顧客に対して注意喚起すべきとされる
❽復活
…契約者は通常は失効後3年以内であれば復活を請求できる
→リスク再測定後に保険者が承諾すれば契約が失効しなかったのと同等の扱いを受ける
→保険者は未払い保険料の振込後に生じた事故については責任を負う
→保険契約の解除によって効力が消滅した場合は復活は認められない
3-16. 保険契約者変更
❶被保険者の同意
…他人のための生命保険契約は被保険者の同意を要する
→契約者が第三者に権利及び義務を承継させる場合も被保険者の同意を要する
❷保険者の同意
…被保険者の同意に加えて保険者の承諾を得て第三者に承継できる
→契約者変更は引受の一種で支払に影響が及び得る、道徳的危険の増加のチェック
→実務では契約者は変更の際に必要書類の提出
保険者は保険証券への裏書・名義変更の帳票の送付・新たな名義による保険証券の送付
❸保険契約者変更と詐害行為取消権・否認権の行使
…高額の保険金や解約返戻金の契約について契約者の資力が悪化し追求を免れるため変更
→詐害行為取消権・否認権の適用はどうか?
→取消権に関しては、判例では取消の効果は保険者と新契約者との間のみで生じる
新契約者は変更時の解約返戻金を返還すべきという見解
→旧契約者のもとで継続していた場合を想定すると事故発生で解約返戻金請求権は消滅
債務者が手に入れるといことの正当性が疑わしいという見解も
→否認権に関しては、旧契約者に代わる破産財団に契約者としての地位が復活する
→契約者変更後に新契約者が受取人変更したらどうか?
→新契約者の行為は全て無に帰すという見解
❹相続や合併などの包括承継による保険契約者の地位の承継
…包括承継によっても承継され契約者が死亡し共同相続となる場合はどうか?
→生命保険では契約者が複数いる時は代表者を決めて他の契約者を代理する
→代表者決定されない・所在不明のまま保険者が契約者の 1 人に対してなした行為は?
→他の契約者に対しても効力を有する
3-17. 生命保険の担保的利用
❶包括的な質権の設定
…保険者が各社ごとに作成する書式で契約締結や承諾を行う
→第三者のための生命保険では被保険者の同意が必要
→支払保険金から契約者貸付金を控除することや取消事由等を質権者に対抗できる
→保険証券の交付は効力要件とされていないが実務では実効性確保のために交付を求める
❷保険金受取人の承諾の要否
…質権設定の際に契約者・被保険者・受取人が異なると事故発生時の権利関係が錯綜
→書式による包括的質権設定の場合は全て同一とすることが求められる
→他人のための生命保険において受取人の承諾は必要か?
→保険金請求権は固有の権利、保険料の対価でない、財産でもないため必要という見解
→具体的権利を有していない者の同意を得ることが有効性の要件とはならないという見解
→受取人が請求権を有している、契約者が請求権を実質的に処分できるの2点のバランス
❸質権の効力
…契約者は質権設定した債権と第三債務者の事故に対する債権を相殺できない
→通知・承諾までに弁済期が到来していない債権での相殺もできない
→解約、契約者貸付等について契約者・保険者は質権者に対抗できない
→保険料の支払状況を債権者に通知される仕組みはないため担保価値毀損の防止は難しい
→債権者が代わりに支払って失効を免れれば費用償還請求権で処理できる
→被担保債権の範囲は債権者が全額について取り立てることができ、超える部分については代理受領権が付与されている
❹質権者による解約権の行使
…質権実行時に事故が発生していないと解約返戻金からしか回収できない
→どのようにして契約者の解約権を行使して弁済を受けるか?
→判例では解約返戻金を差し押さえた債権者が取立権に基づき解約権の行使を認める
→無資力要件を満たせば債権者代位権に基づく解約権の行使を認める
→保険料積立金のある契約の債権者の解除権に対しては受取人は介入権を行使出来る
❺保険金請求権に対する質権設定等
…個別の請求権についても質権設定は可能
→生命保険が失効した場合、解約返戻金は質権設定の対象となっておらず実行できない
→ほとんど利用されていない
❻債務の担保のための保険契約の効力
…保険者はモラルリスクや危険を考慮して引き受ける
→最初から担保として利用される場合に被担保債権の発生契約に利害関係を持つか?
被担保債権について告知義務違反や詐欺無効等の主張ができるか?
→引受段階で内容は吟味されない、有効性について生命保険に記載がない
→原因契約の影響なし
→保険金詐取目的で多重リース等の担保とする生命保険の契約締結は詐欺無効が主張可能
→契約締結過程で詐欺行為が存在するからであり多重リース自体は事情の一つに過ぎない
❼団体信用生命保険契約
…住宅ローン等の融資・被保険者をローン借入債務者・契約者兼受取人を金融機関とする
→保険金額は債務残高相当額とされ返済されるにつれ下がっていく
完済までの間に死亡または高度障害状態などの事故が発生すれば金融機関に支払い
→金融機関は債務者の不慮の事故による債権回収のリスクを負わなくて良い、債務者は遺族を住宅ローン返済から解放し生計の安定を図れる
→事故後の住宅ローン債務の消滅時期はいつか?
→判例では保険金が支払われることを停止条件とする債務免除契約とした
→支払いに関して告知義務違反の有無が争われている場合、
金融機関は保険者に保険金請求せず遺族に対して債務の返還訴訟
遺族は債務不存在確認訴訟
→金融機関は保険者に訴訟告知をし保険者が補助参加する形で解決が図られることが多い
❽保険金請求権の譲渡担保(契約者変更・受取人の指定を含む)
・譲渡担保
…債権者に対して債務者が財産を譲渡して担保とする
(ⅰ)契約者を債権者に変更
→管理ができる、解約することで担保権行使できる、担保保持のために保険料を支払う
(ⅱ)受取人を債権者に変更
→債務者が保険料を支払わなければ担保が失効する可能性、解除の可能性、弱い
→どちらも担保権が実行されれば債権者は保険金や解約返戻金について精算義務を負う
❾契約者貸付
…実務では解約返戻金から貸付元利金を差し引く相殺予約を予定する消費貸借とする
→事故発生すれば解約返戻金は具体化しないため契約者貸付金は保険金請求権と相殺
→他人のための生命保険では保険金請求権に対して相殺を受取人に対抗
生命保険の保険給付
3-18. 第50条(被保険者の死亡の通知)
❶通知義務者の範囲
…契約者または受取人、いずれか 1 人が通知すれば足りる
→終身保険契約では障害や疾病を直接の原因として期間中に高度障害になったとき
養老保険契約では満期時に生存していたときも通知しなければならない
→高度障害保険金は被保険者またはその相続人が通知義務を負う
→請求権を譲渡された者や質権設定者は含まれないため通知義務はない
❷通知の時期・方法
…死亡を知れば遅滞なく保険者に通知、知らなければ過失かによらず通知義務は生じない
→通知義務は到達することを要しない
→保険者が他の方法で知った場合は義務者が知っていたことを立証して義務違反を主張
→書類による通知が一般的だが口頭でも可
❸通知義務違反の効果
…保険者が義務違反により損害を被ったことを証明したときは損害賠償義務が生じる
→損害額を保険金額から控除するが生命保険では保険者に損害が発生しない
❹保険契約者等の説明義務
…保険金の迅速な支払のためには契約者の説明や協力が必要だが説明義務は必要か?
→契約者への負担、義務違反による免責は厳しい、証明責任が契約者に転嫁される
→保険法改正において説明義務は法定されなかった
→書類でわからないことの調査、妨げれば遅延期間の責任を負わないとする
3-20. 第51条(保険者の免責)
❶自殺の意義
…故意による事故招致、単に自傷行為の故意があっただけでは自殺とは言えない
→人命救助や正当防衛行為によう死亡は自殺とは言えない
→自殺免責期間後の嘱託殺人はどうか?
→被保険者が他人を犯罪行為に巻き込む行為で公益に反する
→通常の自殺とは区別して期間後でも保険者の免責は認められる
❷精神障害中の自殺
…精神障害中は被保険者がが自由な意思決定をなすことができない
→法的効果である免責の効果を帰せしめることができない
→自殺であることの立証責任は保険者、精神障害中であることの立証責任は請求者が負う
→うつ病にかかっていた場合はどうか?
→4つの要素に注目して考える
(ⅰ)うつ病罹患前の被保険者の性格や人格
(ⅱ)本件行為に至るまでの被保険者の言動や精神状態
(ⅲ)本件行為の態様
(ⅳ)他の動機の可能性等の事情
→これらからうつ病が被保険者の自由な意思決定能力を喪失または減弱させた結果かを判断
→請求者側からは労災保険における行政解釈が参照されるべきという主張
(ⅰ)業務による心理的負荷
(ⅱ)業務以外の心理的負荷
(ⅲ)個体側要因
→これらから強い心理的負荷が認められて個体要因が認められないかを判断
❸自殺免責期間経過後の自殺と保険者の免責の可否
…契約締結の動機が自殺による保険金取得でも一定の期間を超えて継続するのは難しい
→自殺免責期間を設ける(2、3 年)、期間後は保険金取得目的でも免責とされるべきでない
→犯罪行為が介在し自殺による保険金取得を認めることが公序良俗に反すれば免責
❹保険契約者による被保険者故殺
…保険者免事由となる、論点は80条❷を参照
❺自らは保険金取得目的のない保険金受取人による被保険者故殺
…夫婦の一方が契約者兼被保険者、他方が受取人で被保険者殺害後に受取人も自殺は?
→自分自身で保険金取得する意思はないため給付するべきという見解
→公益上好ましくない、信義則に反する、偶然性にかけるというのが適用される見解
❻被保険者を殺害した保険金受取人が他の保険金受取人の保険金請求権を相続した場合
…子が契約者兼被保険者、父及び母が受取人、父が子を殺害すると?
→母の分は請求できる、母が死んで父が請求権を相続できるのか?
→事故招致は属人的、他の者の請求権は発生、事故招致者でも請求権を行使できる
→特段の事情があるかどうかによる
❼法人の役員等による被保険者の故殺
…法人の役員等による被保険者の故殺は受取人による故殺と同様に考えるべきか?
→公益や信義則に照らして同様に考えるべき
→①会社の規模や構成②役員の地位や影響力③法人との経済的利害④保険金管理の権限から役員が実質的支配権を有し保険金受領による利益を享受し得る立場にあるかを判断
❽保険金受取人の法定代理人等による被保険者の故殺
…母が契約者兼被保険者、子(2 歳)が受取人、父が他人と共謀して他人が母を殺害は?
→実質上は父が受取人であり受取人の故意による死亡として保険者は免責
→母が契約者兼被保険者、子(18 歳)が受取人、母の元配偶者の男が母の殺害に関与は?
→子は受取人だと認識できる、母とともに暮らしている
→元配偶者の男が実質上の受取人だと認めがたく保険者の免責は認められない
❾遺言による保険金受取人指定がされている場合の故意免責
…遺言の効力は遺言者の死亡時から
→遺言で受取人変更があれば被保険者故殺免責の適用を受けるのはどちらか?
→変更前受取人が殺害した場合は、
殺害時は遺言の効力が生じていないため免責という見解と、
保険金を取得すべき地位ではないため免責とすべきでないという見解が対立
→変更後受取人が殺害した場合は保険金を取得すべき地位であり免責という見解のみ
❿保険金受取人による被保険者故殺免責の適用を受ける者
…保険法では受取人は給付を受ける者として生命保険契約等で定める者
→文言上は成就人や質権者を含めることが難しくなっている
→これらの者が被保険者を殺害して給付を受けるのはやはり公益に反するため免責
3-21. 第52条(保険給付の履行期)
❶履行遅滞の時期に関する約款の解釈
…生命保険では請求日の翌日から 5 営業日以内に保険金を支払う
→調査は 45 日を支払期限として行う、検察・裁判所・専門機関による特別な調査は180日
・確認事項
(ⅰ)保険金の支払理由に該当する事実の有無とその原因、免責事由の有無の確認のため
(ⅱ)告知義務違反に該当する事実の有無とその原因
(ⅲ)約款に定める重大事由
(ⅳ)詐欺または不法取得目的に該当する事実の有無とその原因
(ⅴ)契約者が反社会的勢力と非難されるべき関係を有していたと認められる事実の有無
(ⅵ)契約者の契約締結目的、契約締結から請求までにおける事実
→記載漏れは調査と関係ないじこうであれば問題ない
❷保険金請求権の行使
…受取人が複数の場合は代表者 1 名がその他を代理する
→相続人同士の争いが起きる中で迅速な支払いをすると同時に二重支払いを防ぐ
→代表者いない場合は各受取人の意向を確認しつつ手続き
→受取人が相続人で 1 人からの請求に対して拒絶した保険者が履行遅滞を認める事例も
❸保険金の支払地
…保険会社の本店または支店を履行地とする
→実務では請求権者の住所で支払い、口座振込で支払い
→支払いを巡って訴訟になったときに義務履行地の管轄裁判所を決定する
→受取人等が遠隔地に居住する場合は遂行を非常に困難にする
→原則として受取人の住所地と同一都道府県にある支店の所在地の管轄裁判所とする
→契約日から 1 年以内に発生した事由に基づく請求に関する訴訟については本店所在地
3-22. 第53条(強行規定)
❶52条3項の片面的強行規定性
…調査妨害や不協力の効果を保険者免責とする約款は無効
→詐欺的な調査妨害等についての処理は本項が規律するところではなく無効にならない
生命保険の終了
3-23. 第54条(保険契約者による解除)
❶解約権者と行使権者
…契約者死亡の場合は解約権および解約返戻金請求権は相続人に移転
→質権者などの債権者は行使できるか?
→保険法では介入権制度を導入、破産管財人や差押権者、質権者が含まれる
❷差押命令申立てにおける保険契約の特定
…解約返戻金請求権の差押はできるがどの程度まで特定に関する記載事項が必要か?
→一般的には保険証券番号、契約日、保険の種類や期間、保険金額と当事者などで特定
→契約年月日の先後で特定した申立は特定を欠くとは言えない
→契約日順等で特定をして順位づけをする申立は保険会社に過度の負担となり不敵法
❸解除の効果・行使の方式・解除の範囲
…通知が保険者に到達した時に効力が生じる、方式には制限を設けていない
→契約者の意思に基づくことを確認し迅速かつ正確な処理をするために、必要書類を本店や所定の場所に提出する旨の条項が必要
→解除の範囲も制限を設けておらず、一部の解除も可能(保険金額減額や特約の解除)
❹解約返戻金等の支払い
…解除が責任開始前であれば保険料積立金払戻請求権を有する
解除が責任開始後であれば未経過期間の保険料返還請求権や解約返戻金取得権を有する
→保険法では解約返戻金に関する規定は設けていない、保険者の価格決定の問題、保険料や解約返戻金の算出方法の多様性から
❺約定によって任意解約が認められない場合
…契約者が解除権を必要としない場合は解除権を付与する必要はない
→保険料算出等の関係で解除権を一定の時期に制限することに合理性があれば特約を設定
→特約の解約については原則として別途約款で解約が制限されている
→合理的理由のない解除権の制限や否定はその約定の効力が否定される
・終身年金保険契約
…給付開始後には解除を認めていない
→被保険者の死期が近づいて保険金総額より高額となる解約返戻金の請求を防止するため
3-24. 第55条(告知義務違反による解除)
❶告知義務者の故意・重大な過失の認定
…客観的要件(不実告知、不告知)と主観的要件(義務者に故意又は重過失がある)が必要
→故意とは存在や重要性を知り、告知すべきことを知りながら黙秘または虚偽の告知
→重大な過失とは事実の重要性や告知すべきことを知らないこと
→存在を知らなくて告知していない場合は告知義務違反とはならない
→癌に罹患してる事実は知らなかったが症状が尋常じゃないことの自覚はあったか?なければそのことに重過失があるか否か?
→判例では重過失を故意に準ずるものとして位置付ける
→少し注意すれば思い出せた重要事項を忘れていた場合は解除の対象とすべきかが問題
→判例では告知義務者に知らない事実の探知義務を課すことになりかねないと否定的見解
❷保険者の過失の判断基準
…保険者が義務違反の事実を知っている、過失が認められる場合は解除権は認められない
→軽過失も含まれ、重要事項に関する質問をしなければ義務違反は成立しない
→契約者の過去の契約データを見ることができたか、知ることができたか
❸生命保険募集人・生命保険面接士の過失―告知妨害等
…書面告知の際に募集人や面接士が記載内容を確認することも少なくない
→募集人が告知事項の改ざんや代筆の際に正確に反映させないのはどうか?
→告知妨害・不告知教唆となり解除権阻却を認める
→内容に事実の相違があることに気づいたが放置するとどうか?
→解除権の阻却を認めれば募集人に告知受領権を認めることとなるため例外となる
→面接士の過失も類推適用
❹診査医の過失
…医師が口頭で質問した事項については口頭で告知する
→診査医には告知受領権があるとされているが過失があれば保険者の場合と同視するか?
→判例は一貫して肯定、高度な危険選択判断を行うため
→判断基準は開業医が通常発見しうる症状を不注意で看過したかといえるかどうか
❺年齢・性別の誤りと錯誤無効
…保険法では本条は片面的強行規定
→年齢が取扱範囲外となれば故意や過失を問わず無効とする約款規定
→契約者に不利なのでは?
→年齢は契約の要素であり告知義務の規律の対象外の規定
→告知義務を定める本条の規定とは抵触しないとする
❻契約解除の意思表示の相手方
…解除の意思表示は契約者に対して行うが被保険者を兼ねる場合の義務違反は?
→受取人ではなく相続人に対して行うことが必要、代表者 1 名
→生命保険の約款では特則を設けている、正当な理由により通知できない場合は受取人へ
→被保険者の相続人に対して行えるかは明確ではない
❼解除権の除斥期間の起算点
…解除権は義務違反を知った時から1ヶ月間行使しなければ消滅
契約締結から5年間を経過した時も同様
→解除原因について疑いを持っただけでは原因があることを知ったとはいえない
→知るべきは客観的要件(不告知・不実告知)と主観的要件(故意・過失の有無)
→解除権のある者を知り、事実と根拠が到達した時が原因を知った時となる
→代表者が存在しないときは代表者が現れたと知り得べきときから1ヶ月間
❽告知義務違反と民法上の詐欺・錯誤との関係
…民法上の詐欺・錯誤の要件を満たす場合に民法上の諸規定の適用は排除されるか?
→判例では諸規定の要件や効果が異なり適用は排除されないとした
→学説では排除する、錯誤の適用はないが詐欺の適用はあるとする見解もある
→錯誤の適用を広く認めると要件を充足しなければならないという趣旨が骨抜きに
→動機が表示されたものとの事実認定がない限り錯誤適用は難しい
→射倖契約性や善意契約性から不法取得目的の場合は除斥期間後でも詐欺無効を主張可
3-23. 第56条(危険増加による解除)
❶危険増加の概念
…身体的危険の増加は織り込み済みであり環境的危険の危険増加が問題となる
→生命保険では規定はない、締結当初の保険料が増加後の保険料に不足することはない
→団体生命保険での危険増加通知義務の問題はどうか?
→事務作業の煩雑さや免責条項で対応できることから規定を設けない保険者もいる
❷通知義務の意義・内容等
(ⅰ)告知事項の変更通知義務が契約で定められていること
(ⅱ)契約者等が変更後遅滞なく通知しなかったこと
→一時的に危険増加が生じそれによって事故が発生しても遅滞なく通知すれば解除なし
→具体的にいつまでに保険者に通知すべきかは約款で対応
❸解除権の除斥期間
…原因を知ったときとは❷の(ⅰ)(ⅱ)を満たしたと確認されるとき
→事実を知っているだけでは解除権の発生は認められない
→保険者が必要な情報提供をせずに解除権行使を行えば権利濫用になり得る
❹危険増加と追加保険料の支払義務
…危険増加により不足する保険料が生じれば追加保険料の支払い義務
→契約者が即座に支払いに応じないとして保険者免責とする約定は無効
→債務不履行の原則に従い、催告を定めた上で解除や免責が認められる
❺引き受け範囲外に至る危険増加
…危険増加の範囲は保険料の不足を補えば継続が可能である範囲
→範囲外では解除に制限を設けない、理由は 2 つ
(ⅰ)契約解除制限して契約の存続を強制することは保険者に過度の責任を強いる
(ⅱ)契約者も範囲外の危険増加が生じた時まで利益を享受することは期待すべきでない
→引き受け範囲外の危険増加や事故を理由に解除するには約款で規定する必要
❻道徳危険と危険増加による契約解除との関係はどうなるか
…従来は保険者は契約上の責任を負うとした
→保険金不正請求における道徳的危険事実の増加について改正前商法の適用できるのでは
→保険法では危険増加による解除の問題として対応することは理論的にも実務的にも困難
→約款で規定が設けられた重大事由による契約解除の問題として処理される
3-24. 第57条(重大事由による解除)
❶重大事由解除の根拠となる理論
…保険法では重大事由解除に関する規定新設は信頼関係破壊法理に基づくものである
→当事者間の信頼関係が契約の大前提として求められる契約類型であり、モラルリスク事案のように信頼関係を破壊するような行為が行われれば維持できない
❷被保険者故殺免責と保険金詐取目的の事故招致による重大事由解除との関係
…被保険者故殺免責においては主観的要件は必要としないが、重大自由解除においては保険金詐取目的という主観的要件を必要とする
→未遂行為も含まれる
❸事実上の保険契約者又は事実上の保険金受取人の事故招致
…契約又は受取人の範囲が問題となる
→実質的な受取人と認定し重大事由解除を肯定する
法人契約における契約者兼被保険者である会社の行為と認めず重大自由解除を否定する
→請求権の譲受人や質権者が受取人に含まれるか、実質的な契約者は誰かは解釈による
❹被保険者の自殺と重大自由解除
…自殺は重大事由に該当しない
→自殺免責期間終了後は保険金詐取目的の自殺でも保険者の免責とはならない
→犯罪を伴う場合は被保険者の悪政の程度を考慮し重大事由解除に関する包括条項の適用
❺保険金詐欺目的の事故招致の対象となる保険給付等
…「当該」という制約を定めていない
→他の契約であっても被保険者を死亡させようとする不正利用の意図が顕在化するため
→死亡させ、死亡させようとしたことと規定されているため死亡保険金一般を意味する
❻保険給付請求に関する詐欺
…保険者を錯誤に陥らせ保険金等を支払わせる意思で保険者を欺いたという意味
→保険金等の支払いがあったことまで要件としないは
→判例では厳格に詐欺行為を解釈する根拠はなく保険者が錯誤に陥ることまで要件とせず
❼包括条項の具体例―著しい重複加入に関する条項をめぐる解釈
…具体的に何が該当するか不明、解除権濫用の恐れ
→監督指針では故意の給付事由発生や請求詐欺以外の事項を定めようとする場合は、当該内容に比肩するような重大な自由であることが明確にされている必要がある
→保険金の不正取得目的を要件とすべきか?
→短期間で著しく重複しただけでは信頼関係を破壊し存続が困難だとは言えない
→実務ではすべての累積を算出し年齢、性別、職業などによって総合的に判断される
❽暴力団排除条約と重大事由解除
…信頼関係破壊と契約存続の困難性を満たすか?
→信頼関係破壊については暴力団という属性のみでは信頼関係破壊があったとはいえない
→通常よりも保険金詐欺などの犯罪行為に関与する可能性が高いと判断できるため、モラルリスク排除を念頭に置く重大自由解除の趣旨に反するものではないという見解
→契約存続の困難性についても同じように考える
❾保険金受取人を反社会的勢力に該当する者に変更する通知があった場合の取扱い
…反社会的勢力に属する者を契約者に変更する通知があった場合はどうか?
→保険者は約款条項に基づき承諾を与えないことが認められる
→反社会的勢力に属する者を受取人に変更する通知があった場合はどうか?
→保険法では到達すれば効果が認められ公序良俗などの事情がない限りは受取人となる
→監督指針では理由に関係なく速やかな契約解除を求める
→一度受取人変更を促して応じない場合に解除するという柔軟な対応はどうか?
→促している間に被保険者が死亡した時に保険金の帰属に関して問題が発生する可能性
❿解除の対象となる保険契約
…生命保険で重大事由による解除が行われれば特約も解除となる
→傷害疾病定額保険に類型される特約の解除が行われた場合に生命保険はどうなるか?
→再度主契約である生命保険の解除事由に該当するかを判断するという見解
→特約に重大事由が存在するということは生命保険の前提となる善意契約性などに反するため解除となるという見解
3-25. 第58条(被保険者による解除請求)
❶契約解除のプロセス
…契約者と被保険者の関係や合意によらず被保険者が解除を請求すれば保険者に意思表示
→契約者に任意解除権が排除されていても解除を行うことができる
→判例では契約者が解除を行わない場合は被保険者は訴訟を提起し意思表示に代わる
→養老保険では生存部分のみで独立して存続が可能かで決まる
→存続し得なければ養老保険全体の解除請求が認められる
❷契約解除ができる場合(1項1号)
…解除ができるのは死亡保険の被保険者が当該保険の契約者以外であるとき
→同一でも57条1号、2 号の事由があり契約者の任意解除権・受取変更権が排除は解除可
❸契約解除が出来る場合(1 項 2、3 号)
…2号は被保険者の契約者や受取人に対する信頼を損ない契約存続を困難とする事由
→契約者等による保険金詐欺、3号は親族関係の変動その他の事情により被保険者が同意した事情が著しく変更
→被保険者は役員、受取人は会社の死亡保険で役員を退任した場合
→夫の死亡後の妻の生活保障のために夫を被保険者とする死亡保険で離婚すると?
→継続を合意していれば基礎事情に変更がないとされる
3-26. 第59条(解除の効力)
❶生命保険の告知義務違反にによる解除と因果関係不存在特則
…因果関係不存在特則とは告知義務違反があれど解除前に発生した事故で、違反の事実と因果関係のないものは保険給付を認める
→保険法では維持されたが存在意義については例外的規律という位置付けではなく、義務違反による免責がもつ制裁的効果をマイルドにする意義を認める位置付け
→因果関係不存在の厳格な判断基準を引き続き取るべきか?
→因果関係不存在の立証責任を保険者に負わせるのは酷で保険制度の機能没却の恐れ
→不告知の事実が一般的に事故を招く可能性が高い場合に限定されるとする、変化の兆し
3-27. 第60条(契約当事者以外の者による解除の効力等)
❶介入権の対象となる保険契約
…死亡保険契約で保険料積立金があるもの
→介入権制度の趣旨は生活保障機能の意地と再契約の困難性の回避にある
→生存保険契約は対象、保険料積立金がなければ解約返戻金請求権もないため対象外
❷養老保険契約の取扱い
…例外なく対象となるが、満期保険金受取人と死亡保険金受取人が異なる場合は?
→実務では満期保険金受取人は介入権者から外されている
❸解除権者の具体的範囲
(ⅰ)差押債権者による解除
…解約返戻金請求権は解除を停止条件として効力を生ずるが、
停止条件付き債権であっても強制執行の対象となりうる
→弁済を受けられない場合は請求権を差押えた上で取立て権に基づき解除権を行使し、解約返戻金から債権を回収
(ⅱ)破産管財人等による解除
…破産開始手続きを受けた場合は解約返戻金請求権は開始前に生じた原因に基づく、将来の請求権として破産財団に属する
→保険料の払い込みが完了していない契約については管理処分権に基づき、破産者に代わって解除権を行使して解約返戻金を破産財団に組み入れる
→解約返戻金総額が 20 万円以下の場合は破産財団を構成しないものとされる
❹介入権者の範囲
(ⅰ)受取人である
(ⅱ)解除権者による解除通知の時に契約者でないかつ被保険者か契約者・被保険者の親族
→法人が介入権者になることはない
→受取人変更後の受取人は介入権者に含まれるか?
→解除通知時点で死亡保険金に生活を依存する者、含まれないとする見解が有力
→解除の効力が生じるまでに要件を満たすものへと変更された場合は介入権を認める見解
→親族…6 親等内の血族、配偶者、3 親等内の姻族
→内縁関係にあるものは含まれるか?
→実務では含まれていて保険者による慎重かつ総合的な審査を経ている
❺介入権者が解除権者に支払うべき金額
…解除通知到達から1か月以内にに支払うべき金額を保険者は解除権者に支払う
→保険者が自動振替貸付や契約者貸付による債権を有している場合は相殺できる
→介入権者が金額を自ら設置するのは難しい
→保険者は介入権者から問い合わせがあれば契約者の同意を得て開示などの対応
・解除権者が差押債権者である場合
…差押の範囲で決まる
→差押の対象が解約返戻金請求権のみである場合は解除通知到達時の解約返戻金相当額
・解除権者が破産管財人である場合
→解約返戻金相当額の他に未経過保険料、配当金の相当額が含まれうる
❻複数の介入権者が存在する場合の取扱い
・1 個の契約において受取人が複数存在する場合
→各自が独立して、共同して行使可能
→行使するものは解約返戻金相当額を支払い契約の全部が継続する
・死亡保険と傷害疾病定額保険の混合契約においてそれぞれ受取人が異なる場合
→各契約が一体不可分とされ独立して存在できない
→それぞれの受取人が解約返戻金相当額を支払い契約の全部が継続する
→養老保険については本条❷を参照、
主契約と特約という場合は 89条❶を参照
❼介入権行使の効果と差押手続き等の帰趨
…介入権を行使した場合は解除は効力を生じないため従前の内容で存続
→差押手続・破産手続・再生手続・更正手続との関係については、
保険者が支払うべき金額の支払いをしたものとみなされる
・差押債権者による解除の場合
…債権及び執行費用は支払われた額の限度で弁済されたものとみなされ差押手続は終了
・破産管財人による解除の場合
…介入権者が支払った解約返戻金相当額が破産財団に組み込まれ、
契約者の契約に基づく権利は破産財団から除外され自由になる
・再生手続、更正手続に基づく解除の場合
…介入権者が支払った解約返戻金相当額により手続きの目標は達成され、それ以降は契約者の契約に基づく権利には再生手続の効力は及ばない
❽解約返戻金請求権と保険金請求権とが一括して差し押さえられた場合の取扱い
…差押権者が取立権に基づく解除権を行使して保険金請求権からではなく、解約返戻金請求権からの回収を選択したものと考えられる
→保険金請求権の差押手続も終了する
3-28. 第61条
3-29. 第62条
❶養老保険において満期保険金を支払う場合への類推適用
…養老保険で解除通知後の効力発生前に満期を迎えた場合に 60 条が類推適用できるか?
→死亡保険の部分が失効し生存保険の受取人に支払われると解約返戻金請求権は消滅し、解除権者は解約返戻金からの回収ができなくなるため類推適用できる
→保険者は解除権者に対して満期保険金の限度で解約返戻金相当額を支払う必要
3-30. 第63条(保険料積立の払戻し)
❶本条の保険料積立金と保険合法条の責任準備金等との関係
…保険料積立金の意味は保険法と保険業法では異なる
→保険法では将来の給付義務のために積み立てる責任準備金の中核項目、契約者価額
→保険業法では会計上の負債性引当金である責任準備金の項目、契約全体について
→保険法での保険料積立金は保険業法上は契約者価額の一つ
→約款においての責任準備金は保険業法上の責任準備金と区別される
→不適正な保険料積立金の算出については行政的審査で規制される
❷保険料積立金と解約返戻金の数理的仕組み
…解約控除は比較的早期に契約が解約された場合の経済的損失を補償する
→法的性質は損害賠償額の予約として説明する
→解約返戻金を低い・ない保険や市場連動型の年金では定義に当てはまらないか?
・保険者の損失
…未回収の新契約費の回収、良質リスクの脱退によるリスク増加の補填、資産運用上の補填
❸解約返戻金に関する約定の成否
…解約返戻金表が掲載されているが自己の金額・算出方法・算出基準等は分からない
→監督指針上は開示措置を求め、実務上は契約概要欄に記載されるが全貌はわからない
→解約返戻金額が契約者を拘束するか?
→強固な合意とは言えない、私法上の合理性が完全には担保されていない
→不当条項規制が問題となる
❹解約返戻金に関する約定と消費者契約法 9 条 1 項の適用可能性
…保険者の平均的な損害額を超える解約控除は無効
→平均的な損害額と言えるか?
→実務家では損害賠償額の予定が組み込まれているという見方ではなく、契約の主給付という見方、消費者契約法 8~10 条の不当条項規制の適用はない
→解約により払い戻されるため保険給付とはいえない、消費者契約法9条1項は適用
→解約返戻金が低い・ない保険は保険数理上の合理的な根拠があるものによる
→解約返戻金が低い・ないこと自体で消費者契約法 9 条 1 項により、過大な損害賠償額の予定として無効となるわけではない
❺保険契約者破産の場合に保険者がする解約返戻金請求権との相殺
…契約者は解約権の行使を停止条件とする条件付き債権を有している
→契約者が破産した場合に債権を有する保険者がその債権を自働債権とし、契約者の有する解約返戻金請求権を受働債権とする相殺により優先的に回収できるか?
→停止条件付きの債権の場合は相殺を妨げられない、行使の限定や行使時期の制限はない
→停止条件不成就の利益を放棄したときも破産宣告後に停止条件が成就したときも相殺可
→契約者により保険金を詐取された保険者は損害賠償請求権で相殺が可能
❻契約者の会社更生手続・民事再生手続の場合に保険者がする解約返戻金請求権との相殺
…破産手続ではなく会社更生手続や民事再生手続ではどうか?
→会社更正手続は更正という理念により相殺が制限される
→手続開始時に停止条件が未成就であれば手続開始後に債務を負担したとして相殺は不可
→相殺の合理的な期待があれば条件不成就の利益を放棄することは民法上も可、相殺可
→判例では契約者貸付があった場合において民事再生手続があれば相殺は有効とする
❼無権限者に対する保険契約者貸付
…契約者以外が契約者として・代理権が無い代理人として貸付を受けるのはどうか?
→保険金や解約返戻金の前払いであるとすると保険者は貸付を債務の弁済として行う
→債権の準占有者に対する弁済として契約者に対する債権を免れることになり得る
→判例では経済的実質において前払いと同視できる
→保険者は相当の注意義務を尽くしたときは契約者に対し弁済の責任を免れるとする
3-31. 第64条(保険料の返還の制限)
❶保険契約者、被保険者又は保険金受取人の詐欺又は脅迫
(ⅰ)詐欺又は脅迫の主体
…契約者・被保険者・受取人(追加)・保険者側に脅迫があれば適用なし
(ⅱ)詐欺又は強迫による意思表示
・詐欺による意思表示
…表意者が他人の詐欺行為のために錯誤に陥ってなした意思表示
・強迫による意思表示
…表意者が他人の脅迫によって恐怖心を生じた結果なした意思表示
→無効では無く取消
→詐欺と強迫の違いは詐欺は第三者が行った場合は相手方が善意のとき取り消せる、善意の第三者に対抗できない
❷詐欺事例
…被保険者の身代わり審査や重大な疾病の隠匿など告知義務違反にも該当するような行為
→疾病特約に関して詐欺が認められる事例が多い
→詐欺が認められる共通の要素として
(ⅰ)複数の同種の契約による保険金額の累積の程度が著しいこと
(ⅱ)契約締結時の状況に不審な点があること
(ⅲ)過去の傷害疾病や入院の経過から不正請求の疑いがあること
(ⅳ)現に請求に疑わしい事情があること
→生命保険では他吠えんの告知義務を課していないにも関わらず、
他保険の存在を要素として詐欺の本質を他保険の告知義務違反とすることはできない
❸遡求保険の規定により保険契約が無効とされる場合
…契約申込みや承諾をした際に契約者が事故発生を知っていた場合、保険料は返還しない
→保険者が悪意の場合は保険料返還の義務は免れられない
❹公序良俗違反と本条との関係
…公序良俗違反により無効となった場合に既払保険料の返還は認められるか?
→従来は重過失があれば返還は受けられない、
契約者が善意・無重過失でも受取人が悪意又は重過失であれば返還を受けられない、無効原因を限定していないため未成年によって締結された契約の取消は趣旨に反する
→契約が詐欺・脅迫により無効となった場合に限定して既払保険料の返還を制限する
❺錯誤
…契約者等の不正請求目的を知らずに契約締結、保険者に錯誤があったという主張
→動機が表示されていれば錯誤無効が認められる余地がある
→判例では動機の錯誤が表示されていなかったという理由で錯誤無効を認められてない
→動機の表示がなくとも要素の錯誤があるものとして無効とされた判例もある
→詐欺無効や公序良俗違反による無効の法理が機能していれば錯誤無効に持ち込まない
❻片面的強行規定
…詐欺による取消の場合に保険料返還義務を負わないことは片面的強行規定
→取消が認められない除斥期間経過後に返還をしないことは認められない
→詐欺を取消対象ではなく合意によって無効対象に改め除斥期間を排除すると?
→合意の有効性の問題となる
3-32. 第65条(強行規定)
❶55条1〜3 項、56条1項の片面的強行規定性
…契約者等の軽過失による告知義務違反でも解除できる特約は無効
募集人の告知妨害があった場合でも解除できる特約は無効
❷57条の片面的強行規定性
…危険増加が生じる前に発生した事故について保険者が免責される特約は無効
受取人が保険金請求で詐欺を行った場合にその事故について免責とする特約は無効
復活時の告知に関して 59 条に反する特約は無効
❸63、64条の片面的強行規定性
…保険料積立金の一部の払戻しをしないとする特約は無効
詐欺取消や遡求保険による無効以外にも保険料の返還を行わないとする特約は無効
3-33. 年金保険
❶年金開始日前における解約返戻金請求権についての差押の可否
…解約返戻金請求権は年金に基づく債権であり差押は認められるか?
→解約権は一身専属的権利であり債権者が代位行使する解約返戻金請求権の差押は不可
→抗告審決定では、
(ⅰ)継続的給付に係る債権には年金契約による継続的収入も含まれるが、範囲は生計維持に必要な限度で年金として支給開始されているものに限られる
(ⅱ)年金契約は貯蓄目的でありすべてが差押禁止財産にあたるわけではない、年金開始日前の解約返戻金の差押が目的
(ⅲ)解約権は年金開始日前であればいつでも行使できるものであり一身専属的ではない
(ⅳ)債権者は解約返戻金請求権を差押え、取立権に基づき解約権の執行で債権の満足
という判断を下し原決定を取り消した
❷差押債権者による年金開始日前 1 ヶ月以内の契約解除と介入権
…解除停止期間内で年金開始日が到来するようなタイミングで解除通知が保険者に到達
→学説では60条1項の適用の前提を欠くことになるため適用はない
→解除通知が到達した時点で解除の効力が生ずることになる
❸企業年金保険契約を被保険者である従業員が解約しうるのはどのような場合か?
…企業が事実上倒産して役員も所在不明となった場合はどうか?
→判例では例外的に被保険者兼受益者である従業員全員が解約を行えるとする
3-34. 団体生命保険
❶団体生命保険の加入に関する被保険者の同意
…全員加入型で同意を得ることが実務的に困難な場合はどうか?
→従来では就業規則に加入に関する条項が含まれていれば個々の同意は不要とした
→保険金の帰属に関する紛争の中で知らない間に加入させられているということも
→監督指針では確実に認識できる方法が契約の種類に応じて具体的に定められている
→不同意の申出をした被保険者を契約の対象から外す
❷団体定期保険(全員加入型)の保険金の帰属
…福利厚生よりも税務上のメリットや保険会社との取引関係維持のための保険利用が増加
→企業が得る保険金額が遺族に支払う死亡退職金を大きく上回るケースが増加
→判断点は従業員の間に保険金相当を死亡退職金として遺族に支払う合意が認められるか
→保険金のうちどれだけが遺族に支払われるべきか?
→給与額、勤務年数、地位、締結目的、保険金額、企業負担保険料、税額、配当等が要素
→現在では総合福祉団体定期保険の導入により紛争が起こる可能性が減少
・主契約部分
…遺族補償規定に基づく支給金額を上限として当該部分の保険金は全額支払
・ヒューマンヴァリュー特約
…企業が受取人、主契約の保険金額以下、2000万円以下
❸任意加入型の団体保険の被保険者による保険金受取人の変更
…加入は被保険者の自主的な判断、被保険者が保険料を実質負担
→契約者として団体の地位は形式的なもので実質的主体は団体を構成する被保険者
→被保険者の遺言等で受取人変更ができるか?
→(ⅰ)受取人変更権は契約者が有するもので団体定期保険であっても本質は変わらない
(ⅱ)約款で与えられた受取人指定権は創設的に認められたに過ぎない
(ⅲ)保険者に対する直接の指定権行使方法の規定がなく、実質は団体に指定権がある
(ⅳ)指定権行使は契約者である団体を通じて行わければならない
ことから遺言等での受取人変更は効力を生じないとする
3-35. 信用生命保険
❶信用生命保険契約と与信契約のうち一方の不成立等は他方に影響を及ぼすか?
→判例はなく学説による
(ⅰ)信用生命保険契約が不成立等の場合
・原則として与信契約は信用生命保険契約が成立することを条件として成立説
→信用生命保険が成立しない場合は与信を受けないのが債務者の合理的な意思とする
→告知義務違反で信用生命保険契約が解除されるなど債務者の帰責性が強い場合は例外
・信用生命保険契約の不成立等は与信契約の効力等に影響を及ぼさない説
→前者が主で後者が従であり信用生命保険付きでないと融資を受けないのは合理的か?
(ⅱ)与信契約が不成立等の場合
…信用生命保険契約における保険金額はゼロであり信用生命保険契約は当然に終了する
❷信用生命保険契約における保険事故の発生と与信契約における債権の消滅時期との関係
…事故が発生しても告知義務違反によって支払いが行われない
→信用供与期間は遺族に弁済を請求し紛争となる
→事故により与信契約上の債務はいつ消滅するか、債務はどのような影響を受けるか?
(ⅰ)与信契約上の債務はいつ消滅するか?
判例では保険料受領時説、学説では保険事故発生時説の立場をとる
(ⅱ)与信契約上の債務はどのような影響を受けるか?
保険金受領時まで与信契約上の債務は消滅しないとする場合に、
事故発生から保険金受領時までに遺族に弁済を請求できるか?
→判例では信用供与期間は保険金を受領できる場合には受領しないま弁済を求められない
❸金融機関等の職員に対してなされた告知の有効性等
…金融機関の職員が疾病の罹患等の事実を告げられたが保険者への提出書に記載がない
→保険者が信用生命保険について告知義務違反による解除を行うことの妨げとなるか?
(ⅰ)判例では職員が告知受領権を有しているかが判断基準となった
(ⅱ)学説では告知受領権の問題と保険会社の不知の問題を切り離して考える
→募集人が告知の妨害・期待できる情報を伝達しないことに悪意や過失があれば、保険者の過失による不知があったものとして告知義務違反による解除は認められない
→(ⅰ)との関係では金融機関の職員は告知受領権を有しないとされ解除できるとする
→(ⅱ)との関係では金融機関の職員の過失は保険者の過失と同視され解除できないとする
→解除ができない場合として保険媒介者という類型
→金融機関の職員が保険媒介者にあたるか?
→基本的には消極的だろう
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