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日経新聞『私の履歴書』で色々な人生を垣間見ると…

『私の履歴書』はご存じの通り、その道の第一線で活躍された方々が自分の人生を1ヵ月かけて振り返る日本経済新聞の名物コーナーだ。

誰もが知る有名人からニッチな業界の方々まで登場し、こんな人生があるのか、と毎回楽しく読んでいる。

実際、記者時代に私自身が取材させていただいた経営者も何人かいて、生い立ちやらなんやらを読むとより親近感が湧く。

今月は、伊藤忠のCEO岡藤正広さんだ。
 
岡藤さんは、2010年に社長に就任してから、伊藤忠を商社トップ(時価総額ベース)に導くなど、その経営手腕や発信力でよく知られた経営者だ。

三菱商事や三井物産といった財閥系商社へのライバル心を隠すこともなく、ご自身の信念も明確に持たれている。若い頃から、「個」を全面的に出していくオーナーシップ型の人だったんだな、と改めて感じた。

岡藤さんのように、ご自分の功績だけでなく、本音を赤裸々に語られる方のほうが、読み手としては楽しめる

『私の履歴書』を熱心に読み始めたのは2000年以降なので、全て網羅していないが、特に印象に残っている2人の方を紹介したい。

ダントツに面白かったのが、ニトリホールディングス創業者の似鳥昭雄さん(2015年4月掲載) 

子供時代にいじめられた体験、家出や親からの暴力など、話すのにためらいそうな話題をありのままに語っている。
そして悲壮感が漂いかねない内容でもユーモアを忘れない。

“落ちこぼれていた”学生時代について次のように語っていた。

<前略>
講義内容はちんぷんかんぷん。これは留年は避けられないと両親に伝えたら、「絶対ダメ。留年は一切認めない」と厳命する。実家の似鳥コンクリート工業を早く継がせるためで、授業料や生活費を自分で払っているのに聞く耳を持たない。相変わらず両親は怖いので、なんとしてでも2年間で卒業しないといけない。そこで教授を褒めたり、ワインを届けたり、できないなりにあらゆる努力を尽くし、単位取得に動いた

日本経済新聞朝刊2015年4月7日付

ニトリの海外事業で、アメリカが赤字だったことについても、ユーモアを忘れない。

米国は大赤字。将来を見据えての投資なので仕方ないが、14年に出店した中国とともに「双子の赤字」と呼んでいる。10年に亡くなられた渥美先生は草葉の陰で泣いているだろう。

日本経済新聞朝刊2015年4月29日付

創業者ならではの豪快なエピソードで、掲載当時は毎日笑いながら読んだ。

2人目は以前、『会ってみたかった日本の経営者』でも取り上げたが、住友銀行副頭取からアサヒビールの社長に就任し、同社を業界ナンバーワンに導いた樋口廣太郎さん(2001年1月掲載) 

非常に学ぶことが多い回だった。 

樋口さんは、住友銀行の当時「天皇」と言われた磯田会長と対立し、その頃「夕日ビール」と揶揄されたアサヒビールに転出することになった。 

その時のエピソードも面白かった。

住友銀行を去るにあたって、役員や支店長を前にお別れのあいさつをしたとき、アサヒビールの窮状をありのまま話したうえで、「香典をもらいたい」と切り出しました。
 「私が死んだと思って、一緒に働いて楽しかった人は3万円。この野郎と思った人は厄介払いだと思って1万5000円。なんとも思わない人は1万円。それぞれ、そのお金で売れ残っているアサヒビールを買ってほしい。飲んでも捨ててもらってもいい。それが私への香典であり、香典返しは、その買ってもらったビールだ」
<中略>
実のところ、アサヒの経営立て直しに成功する確率は2割くらいかなと思っていたんです。

2001年1月「私の履歴書」

そして、どんな逆境にも、屈しない。

夢は一人一人が自分でつくるものです。借り物ではダメです。どんな夢を持つのか、それはまさに自分を知ることでもあります。「私は普通の人間だから」と最初からあきらめてしまう人は、自分を粗末にしているのです。自分は何者なのか、何に興味があるのか、何をしたいのか、知ろうともしない人が少なくありません。自分に対する好奇心が欠けているのです。
 
何事にもおう盛な好奇心を持つことが大切です。それが夢の源泉であり、よく生きようとする意志なのです。

2001年1月「私の履歴書」

このように気骨があって、人間味があり、そしてユーモアのセンスも忘れない経営者には惹かれる。 

ちなみにあのカルロス・ゴーン氏も2017年1月の『私の履歴書』に登場していた。逮捕劇以降の続編を是非読んでみたい。とはいえ、当然彼サイドのお話になりそうだが… 

過去の職業柄どうしても経営者に注目してしまいがちだが、海外でも大活躍されたプロゴルファーの岡本綾子さん、昭和の名横綱の大鵬さん、私が尊敬する名作詞家の阿久悠さんの回も心に残っている。
 
『私の履歴書』を読んでいると、彼らのエキサイティングな人生を垣間見ながら、少しだけその場にいた気分になる。 

単調な生活を送っている私だけど、2、30年後に、誰にも読まれないだろう『私の履歴書』を書いて、自分という人間を見つめなおすのも面白いかもしれない。

https://x.com/ATF_TOKYO 

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