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悪魔が叫んだ日           愛国者学園物語91

「挫折したガルシアはひねくれましたが、彼の友人は数多く、彼を見捨てる者はいませんでした。ある上官が、共産ゲリラ狩りの任務を与えたことで、彼は精神的な活力を取り戻し、任務に没頭したそうです。

 このころから、彼の主張に『神』とか『神の任務』という言葉が増え始め、自分がバルベルデ陸軍に奉職したのは、神の任務を遂行するためだ、などと言うようになりました。ある米国人が、『神の任務を遂行するとはどういう意味か』と質問すると、ガルシアは、『共産ゲリラをこの世から@@やしにすることだ』と、うれしそうに答えたという記録があります」


「そして、数年後。参謀本部は、陸軍大尉になっていたガルシアに、中米某国へ行けという特命を下しました。そこにある『米陸軍米州学校』という聞き慣れない学校に留学せよ、というその命令は、ジャングルでの戦争に関する知識と技術の習得を目的とするものでした。しかし、実際のカリキュラムは、南米諸国に親米派を育てるための政治工作と、敵対勢力を尋問する方法を身につけること。つまり、@@などの非合法的な手段でした」

「反共産主義や親米という名目があれば、暴力的手段ですら正当化される。それはガルシアのような人間には、言葉に出来ないほどの魅力だったと思います。事実、この学校の卒業生たちは、ラテンアメリカ諸国の政府高官や国家元首級の政治家になった者、悪名高い『@の部隊』に所属した将兵になったのですから。そういう環境で、ガルシアにも自分の将来が見えたのでしょう。彼は熱心に勉強し、心を込めて神に祈り、得た知識を母国に持ち帰りました」

「バルベルデの国力に比例して、その軍も規模は小さかったので、彼は親米派の立場を最大限活かして、軍での力を増しました。彼の友人たちは、ガルシアに、政治家としてこの国をリードするようにと勧める者たちもいました。彼のハンサムで明るい外見は政治家にぴったりだったのでしょう。ガルシアは政治家への夢を語ってはいませんでしたが、その心中は誰にもわかりません。

 彼が少佐になったころから、軍にガルシア派の人間が急に増え始めました。また、そのころ、彼は特殊部隊の選抜課程に関する書類を探し出し、自分が不合格になった理由を知りました。彼を不合格にした軍医たちが行方不明になったのは、その1ヶ月後です」


「ガルシアは、共産ゲリラ狩りを大々的に推し進め、中佐に昇進しましたが、1986年のある日、運が尽きました。それが「第16開拓村襲撃事件」です。彼が指揮した部隊が、ゲリラ狩りと称して、先住民の血筋を引く人々で構成された開拓村を攻撃し、女性や子供を含む約150人を@@した事件でした」

「ガルシアは部隊の指揮官だったので、身柄を拘束され、その悪行が大々的に報道されました。ガルシアとその部下たちは、興奮して『神よ!』とか、『神のために!』 (キリスト教の聖地であり、理想郷である)『エルサレム!』、あるいは、先住民を侮辱する言葉を叫びながら、多くの人を@したそうです。ガルシアが熱心なカトリックだったこと、それに、祖国のために軍人になったのに、この仕打ちは酷いという主張は、多くの人間の同情をかき立てました。

 キリスト教系の有力紙は、この事件は精神が崩壊した部下たちがガルシアの指揮を無視したことによるもので、彼は無罪、この事件とキリスト教は関係ない。彼は、共産主義勢力によるバルベルデへの破壊活動に立ち向かおうとした勇者であるなどと主張しました」

「一方で、中道系および左派系新聞と、ホライズンを始めとする欧米のメディアはガルシアの悪魔的な所業を報道し続けました。彼が常日頃からゲリラに対して『異常な』敵意を持っていたこと、先住民イコールゲリラだと思い込んでいたこと。それにキリスト教を絶対視しており、先住民の宗教を馬鹿にしていたこと。

 それらが、特に、彼のキリスト教至上主義と言える精神が、この恐ろしい事件の原因になったと伝えました。そのために、ホライズンの関係者などには、@害予告が無数に届くようになったのです。

 この事件に関しては、過去に起きた軍隊による大量@@事件との関連を伝える報道がありました。1968年に、南ベトナム(当時)で発生した、米軍によるソンミ村@@事件。同年に、同じく南ベトナムで起きた、韓国軍ベトナム派遣部隊によるハミ村@@事件。それに1937年の旧日本軍による南京大@@がそれです。

 海外のメディアが、開拓村襲撃事件と南京事件の関わりについて報道したので、日本のマスコミもそのことを報道しました。しかし、保守系議員の圧力や、日本人至上主義者の抗議があり、日本のメディアはその後、それを伝えてはいないそうです」

「元々安定しているとは言えなかったバルベルデの国内情勢は、この件をきっかけに混乱し始めました。あらゆる街や村で、ガルシア有罪派と無罪派の争いが続いたせいで、この国は内戦状態だと言い出す人々も数多くいました。ガルシアが微笑む写真が国中にあふれ、ゲリラを@すことイコール良いことをした人間がなぜ逮捕されるのか、という支持者の声は収まることがありませんでした。

 一方で、変な噂も流れました。ガルシアは1956年6月6日生まれです。それで、その日付に、666と、キリスト教で不吉とされる数字が並んでいるのは、彼が危険な人間である証拠だ、などというものでした。信心深い一部の人たちは、彼のことをひどく恐れたそうです」


 「ガルシアをどう裁くかは、当時の政権の重荷になりました。バルベルデの軍事法廷と軍検察官は事件の解明を試みました。しかし、なぜガルシアたちが、無実の市民にそれほどの憎しみを抱くようになったのか、残念ながら、それは十分に明らかになっていません。

 また、彼をめぐって、軍の一部が不穏な動きをしているという噂もありました。彼は軍の有力者でもあり、政治家グループとの関わりもあったからです。そういう勢力がクーデターを起こしても、不思議ではなかったでしょう。当時、この国に赴任していた、米山義雄大使は、バルベルデが崩壊する可能性があるというレポートを東京の外務省に送ったと、その著書『バルベルデ 86年秋』に書いています」


続く

これは小説です。

「バルベルデ」は映画「プレデター」「コマンドー」などに登場する、架空の国です。ラテンアメリカの一国ですが、この小説では南米にある国という設定です。


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