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軍事国家と批判 愛国者学園物語 第252話 

 勇ましい強矢(すねや)たちは、

日本を明治時代の日本のような軍事国家にしたいという想いを熱く語った

。明治は大日本帝国の軍隊が大きく発展した時代であり、それによって、日本が例えばロシアの植民地支配から逃れることが出来た。これはまさに軍隊のおかげであり、太平洋戦争後の日本国憲法第9条による戦力の不保持などという暴論に支配された時代は異常である。日本に自衛隊ではなく、軍隊があれば、竹島や北方領土、それに尖閣諸島の問題も起きなかったはずだ。従って、私たちは21世紀の日本に、明治時代をモデルにした国民皆兵(かいへい)の社会を作りたい。そうすれば日本は誇りある日本になれるし、近隣諸国の侵略に打ち勝てるだろう。強矢たちはそう語った。


美鈴たちの意見は、それとは正反対だった

。明治時代は多くの犠牲者を出した時代だった。1982年の映画「大日本帝国」で描かれたように、旧日本軍は203高地で膨大な犠牲を出した。その戦いの激しさは、アニメ「ゴールデンカムイ」にも登場する。決意を示す白い襷(たすき)を身につけた四千人の白襷隊は勇ましかったが、その襷が目立って全滅した。強矢たちの軍隊賛美は、そのような犠牲を無視している。それは、あのバルチック艦隊との戦いである日本海海戦の話もそう。あれは日本の完全勝利ではなく、日本側にも犠牲者は出た。それを口にしないことで、日本が完全勝利を得たと思わせる手法は、戦死者を侮辱しているのではないか。


「我々は戦死者を侮辱などしていない。戦死は祖国に命を捧げるという崇高(すうこう)なことであり、戦死者の名誉は何にも増して大切だ」

吉沢はそう自慢げに語ったので、根津はそれに冷や水を浴びせた。

「そう、じゃ死んでください」

「え?」

「吉沢さんは戦場で死ぬべきです」

「誰がそんなことを!」

そう言って、吉沢は口をつぐんだ。


根津はそれを冷たい目で見届けてから、次の言葉を放った。

「嫌なんだ? あなたは戦場で戦死して、靖国神社に軍神として祀られなさい。神になるんだから、これは最高の名誉じゃないですか。戦場の最前線に立つべきだ。吉沢さん、あなたは国会議員じゃなくて軍神になるべきですよ」

「なんてことを言うんだ。私は国会議員だぞ、それなのに戦場で死ねだって!」

「そうですよ。あなたは愛国心の塊なんだから、敵と戦って名誉の戦死を遂げる(とげる)べきです。そうして軍神になればいいんです。そうすれば靖国神社に祀ってもらえる、そう思いませんか?」

スタジオの空気が静止した。


根津はいつものにこにこした表情で続けた。

「吉沢さんはノブレス・オブリージュという言葉を知っていますか?」

吉沢は、

「知ってるよ」

と不貞腐れた(ふてくされた)。


根津はそのフランス語の意味を説明した。

社会のエリートには、国家が危機を迎えたときに、人々の先頭に立って、その解決に全力を注ぐ義務がある、あるいはそのような精神のこと。簡単に言えば、祖国が外国と戦争をするときは、率先して軍に志願して、文字通り命を捧げるという高貴な精神のことだ。

もちろん、吉沢たちにはそのような「高貴さ」はないことを知ってのうえでの発言であり、これは根津が放った矢だった。強矢たちは勇ましいことを叫ぶが、決して、戦場の最前線には立たず、いつも後方で人々をそそのかすだけの人間だ。根津はそう見ていた。


美鈴が吉沢を攻めた。

「軍隊に参加することだけが、過度に賛美される社会を作るんですか?」

「過度じゃない、軍隊に参加して国家に奉仕することは名誉なことだ」

「あなたたちは、軍隊に参加していない!」

「当たり前だ、私たちはエリートなんだから!」



「先生! こいつらは反日勢力です!」

強矢が叫んだ。

「違う! 我々は愛国者だ! 美鈴さんも私も!」

根津が珍しくほえた。


続く
これは小説です。次回、第253話では、いつもはクールな根津が吠えるように意見を言います。なぜ彼は熱くなるのか、その根底にあるものはなにか。どうぞお楽しみに!

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