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戦争で日本は良いことをした その2  愛国者学園物語 第243話

話題は、兵器の話から、犠牲者の話になった。

アジア諸国の独立をうながすために、大日本帝国は310万人の日本人を犠牲にしたというのでしょうか。それはあまりにも大きな犠牲です。

そして意味のない犠牲です」

美鈴は強矢(すねや)たちの主張を批判した。

「日本は良いことをしたんです」

強矢は堂々と言い返した。

「あなたは馬鹿みたいに『日本は良いことをした』と繰り返していますね、何度繰り返したのかしら?」

「馬鹿とはなんだ!」

吉沢が強矢を守った。



「それに、大東亜共栄圏は大日本帝国の植民地政策じゃないんですか?」

「違う! 共栄圏だ。植民地じゃない、向こうの国々も共に繁栄したんだ」

吉沢が吠えた(ほえた)。

「私はそんな言葉を信じません。それに、強矢さんは変です。外国人との間で嫌な思いをしたがために、外国人嫌いになったというなら理解出来ます。でも、なにもない、話したこともないのに、外国人嫌いになるのは、それは外国人への偏見です。強矢さんは偏見を持っていると思う」

「皇軍はアジアの人民を解放したのです、欧米の植民地支配から」

強矢は自慢した。


「それはおかしいです。ならばなぜ軍民合わせて約310万人もの死者を出したのですか」


「卑劣な欧米のせいです、あの連中は何の罪もない日本人を大量虐殺したのです。原爆はいい例じゃないですか」

強矢はここでわざと涙を流そうとしたが、今日に限って上手くいかなかった。美鈴は、旧日本軍の死者のうち餓死病死が6割だったこと、餓死者が大量に出たのは、日本軍の兵たん・ロジスティックスがいい加減だったから、と話した。

それに、強矢さんは旧日本軍がアジアの人民を解放したと言うが、では、なぜアジアの諸国民は恩人であるはずの旧日本軍将兵を助けなかったのか。彼らが救いの手を差し伸べていたら、餓死者、負傷者は少なくて済んだはずだ。そう問いかけた。


強矢は涙を出そうと神経を集中したので、美鈴の問いかけをちゃんと聞いていなかった。

だから、「卑劣な欧米人のせいです」と同じ答えを繰り返してしまい、会話は成り立たなかった。

美鈴はわざとらしくため息をついて、強矢に抗議した。

「なんでも欧米人のせいなのね」

「事実ですよ。欧米は日本を敵視していました」

強矢はその旧軍兵士たちがいかに優れていたか話し続けたので、

美鈴はその話に切り込んだ。

「そんなに英雄なら、どうして、旧日本軍はああも多数の犠牲者を出したのでしょうか。

祖国解放の英雄である旧日本軍兵士を、向こうの人々はなぜ助けなかったのか、

おかしいじゃありませんか。それに、軍民合わせて、310万人の犠牲なんて、どうかしていますよ。それでも『良い戦争』だったのかしら? 東南アジアを植民地支配から解放するために、310万人の犠牲が必要だったのかしら?」

美鈴は喉の渇きを覚えた。


強矢が冷たく言った。

「美鈴さんはあの当時、終戦当時の日本の人口がどれくらいだったか知ってますか?」

「ええ」

「ちょうど1億人くらいです。その1億を救うために、310万人が祖国に命を捧げたんですよ。

わずか3%じゃありませんか

。3%の犠牲は問題ありません。許容範囲です。それに、当時の日本は本土決戦のために、数千万人を動員するつもりでした。その数千万が死んでも、まだ数千万が残ったでしょう。その数千万が戦って、連合国に大日本帝国がどういうものか、日本人というものがどういう存在か世界に教えてやる。それが大和魂ですよ。世界一の精神ですよ」


「そうだっ!」 

吉沢がほえた。そしてわざわざ立ち上がり、拍手をして強矢を讃えた(たたえた)。

「それでこそ大和魂、それでこそ大日本帝国だ。そして、強矢さんこそ、21世紀の日本にふさわしい国民だ!」

そこまで言うと、吉沢は強矢を優しい目で見たので、強矢の顔が赤くなった。


「ひと事だと思って、よくそんなことが言えるわね。310万人ですよ! 名古屋の人口よりも多い人間が死んだんですよ」

美鈴は心から怒った。


「ヒステリーを起こさないでください、美鈴さん。大和魂は何よりも大切なんです。それは死者の数より重要です」

強矢は落ち着いて言った。


「あらそ、じゃあ死になさい」

美鈴は強く言い返した。

それを聞いた強矢と吉沢の時間が止まった。


つづく
これは小説です。

次回第244話 美鈴の衝撃的な言葉に強矢は衝撃を受けました。そして彼らは、戦争の犠牲と貢献について、意見を交わします。美鈴が紹介した施設とは? 次回もお楽しみに!

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