見出し画像

ジョン・チーバーの読書感想文

ジョン・チーバーの短編を川本三郎訳「橋の上の天使」と村上春樹訳「巨大なラジオ/泳ぐ人」を読みました。村上春樹の序文で「橋の上の天使」に収録された作品とは別の作品を選んだと記しています。しかし、「ぼくの弟」(川本版では「さよなら、弟」)だけは「著者の作品経歴の中でどうしても外せないと感じたので、本書にも重ねて収録した」と村上春樹の序文にはあります。
それは父親を亡くした母親と四人の子供たちがその妻や子供たちと海辺の家でひと夏の休暇を過ごす様子を描きます。十九世紀まで牧師を輩出した家族の古い価値観を最も引き継いだ末っ子のローレンスとそれぞれに新しい価値観を受け容れる兄や姉たちとの生活、浸食される海岸沿いに建つ古い家を中心に起こる出来事から時間と時代に反発しながら、それを受け容れようとする姿を描きます。
村上春樹訳は寓話的で浮遊感あり、川上三郎訳はは静かで乾いています。それは作品の序盤にある"very close in spirit"の訳から既に始まっています。
川上三郎訳は「精神的な結びつきが非常に強い」、村上春樹は「心を親しくかよわせている」と訳しています。
ジョン・チーバーの魅力は登場人物の発言や行動で時代の価値観の変化や時間の経過、彼らを取り巻く状況を表現します。お二人の翻訳で違う味わいを楽しめます。
作品によっては2〜3回読まないと整理ができない、更に両短編集に収録された村上春樹版「再会」(川上三郎版「父との再会」)では離婚して、疎遠になった父と子との再会を描いていますが、繰り返して読むほどに地元の事を詳しく知っている筈の父の行動が理解できなくなります。軽い調子で描きながら、重たい何かを確実に刻んでいくそんな作品集でした。
#読書感想文
#村上春樹
#川上三郎
#ジョン・チーバー



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集