『真実と修復――暴力被害者にとっての謝罪・補償・再発防止策』
社会のあり方から心的外傷が生じている以上、そこからの回復も、個人の問題プライベートではありえない。個々のコミュニティにある不正義によって外傷が生じているなら、傷を治すためには、より大きなコミュニティから対策を引きだして、不正義を修復しなくてはならない。
回復していく途上、難しい問いがさまざまに浮かび上がってくる。
皆の前でこのことを話せるか?
真実を、周りのひとは受け止めてくれるだろうか?
この傷は治るだろうか?
そのために何を差し出さなくてはならないのか?
どうして加害者と同じコミュニティに所属しつづけないといけないのか?
和解は可能か?
どうやって?
コミュニティはどうすれば現在の、そして将来の被害を防げるのか?
この問いに答えるため、私はもう一度、話を聞くことにした。生き延びたものたちの声である。皆のための、より良い正義を求めることのために本書はある。
暴力被害者は何を求めているのか。加害者の謝罪やアカウンタビリティはどうあるべきか。補償や再発防止の具体策は、司法のあり方は。トラウマ問題のバイブル『心的外傷と回復』を継ぐ総決算の書である。
著者 ジュディス・L・ハーマン
1942年ニューヨーク市生まれ。ラドクリフ・カレッジ卒業後、1964年ハーヴァード大学医学部入学、1968年卒業。マウント・オーバーン病院の研修医となり、その後近郊のサマーヴィル市で女性向け低額診療所を設立。ここでの経験をもとに1975年、児童性虐待についての共著論文“Father-Daughter Incest”を発表。1980年代にはケンブリッジ病院に本拠地を移し、「暴力被害者用プログラムVictims of Violence (VoV)」を設立した。ここが心的外傷の治療拠点となり、以後長年にわたる臨床と実践をつづけ、今日にいたる。ハーヴァード大学名誉教授。著書に、上記共著論文をもとにした『父‐娘 近親姦』(Father-Daughter Incest、1981、C・ライト・ミルズ賞)、後に世界的ロングセラーとなる『心的外傷と回復』(Trauma and Recovery、1992、1997、2015、2022、邦訳みすず書房)、第三作『真実と修復』(Truth and Repair 、2023、邦訳みすず書房)がある。