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お早う (1959) 松竹

小津安二郎監督

ジャスミンは (←私よ)
この映画のDVDを50回以上観てる。

ほとんど台詞も覚えてるから
やろうと思えば 音を消して
一人で全部のアテレコを出来ますわよ。

そして、この映画を観るたびに 小津監督の最高傑作は
『東京物語』でも『晩春』でもなく
この『お早う』じゃないかなと思う。

それはたぶん、
私の深い思い入れの所為 だと思いますけどね。

1959年というと 昭和34年。
ちょうど私も この映画の子供たちと
同年代ということになります。

物語りの舞台は 東京郊外の新興住宅地。
マッチ箱みたいな
同じような構えの 建売住宅が並んでる。

その中の一軒、林さん一家の兄弟
お兄ちゃんの実 (設楽幸嗣)と
弟の勇 (島津雅彦)が主人公。

二人はテレビが見たくて 英語を習いに行くと言っては
近所の子供たちと誘い合って
隣りの家にテレビを見に行く。

隣りの家の夫婦 (大泉晃&泉京子)というのが
キャバレーにお勤めで
昼間から西洋の寝間着 (ガウン)で
♪~タララ、タッタッラ、タッタラ~と
歌いながら路地を歩いてる。

「あの家に行くと、ロクなこと覚えて来ないのよ」と
どこの親たちも 子供を行かせたくない。

ある日、兄弟は また隣りに行ってるのがバレて
お父さん (笠智衆)、お母さん (三宅邦子)に叱られる。

すると子供なりに 理屈を言って反抗する。
「家にテレビが無いから 隣りに見に行くんじゃないか
 テレビを買ってくれれば 見に行かないよ」

しかしお父さんは
「うるさい!男は余計なことをごちゃごちゃ言うな
 いつまでも 女の腐ったのみたいに!」

・・って、お父さんの方が頭ごなしで 理屈も何もなってない。
女の腐ったみたいに・・・って
今どき、こんなこと言ったら すぐに訴えられると思うけど
でも確かに当時、こんなふうに男共は言ってましたよ。

さてそこで二人は
「もういいよ、もう何も言わないから!」と
この瞬間から 口をきかないストライキに入った。

「いいか勇、絶対、喋っちゃダメだぞ」

「うん、兄ちゃん、タンマありかい」

こういう訳で 二人は近所のおばさんが
「お早う」と言っても返事をしない。
学校の先生にさされても 黙ってる。

アルバイトの 英語の先生 (佐田啓二)も 呆れてる。
「おい、なんで黙ってるんだい 口きかないと不自由だろう」

この先生と
実たちの叔母さん・お父さんの妹 (久我美子)は
密かに想いあっている。

兄弟にしてみても
不自由と言えば まったく不自由だ。
口きかないから ご飯も貰えない。

台所からこっそり持ち出した ご飯とお茶を土手で食べる。

「オンボロだね、兄ちゃん」
「うん、おかずも持ってくればよかったな」
この様子は ほんとに子供らしくて ほほえましい。
ジャスミンも やってみたかったもんだ。

こうした子供たちを中心に廻るお話と
同時進行で 大人たちのドラマもある。

ご近所さんA (長岡輝子)
「先月分の婦人会の会費、私ちゃんと払ったのに
 まだ町会長さんのところに収まってないって どういうことかしら」

ご近所さんB (高橋とよ)
「あら、私だってとっくに払ったわよ、変ねえ」

会計係は 実たちのお母さん。
「困りますわ、もうとっくに婦人会長さんにお渡ししたのに
 まるでワタクシのせいみたいで・・」

結局、行方不明だった 婦人会の会費は
婦人会長さん (杉村春子)の お婆ちゃん (三好栄子)が
預かったのを忘れとった、ということで一件落着。

しかしこのときの
親子 (杉村春子VS三好栄子)喧嘩が凄い。

「やんなっちゃうね、モーロクしちゃって、
 アタシばっかり恥かいちゃってさ!
 お婆ちゃん、あんたもう、ナラヤマだよ、とっとと行っとくれ!」

「ふん、一人で大きくなったような口ききやがって
 ロクでもない亭主とくっつきやがって、あんなガキひり出しやがって!」

さて、兄弟たちのストライキも やっと終わりが来た。
お父さんが テレビを買ってくれたのだ。

「わーい、わーい」

英語の先生・佐田啓二さんが
いいこと言ってます。
「一見、無駄に思える挨拶が 世の中の潤滑油になってるんだ」

そして、
佐田さんと 久我美子さんのロマンスは
恋の鈍行電車、なかなか、なかなか進まない・・・

「いいお天気ですね」
「ほんと、いいお天気」
「あ、あの雲、面白い形ですね」
「ほんと、面白い形」
「何かに似てるな」
「そう、何かに似てるわ」
「ああ~、いいお天気ですね・・・」

会えば お天気の話ばっかり。

おしまい

          〇
思うんですけどね、
あの頃は 大人と子供、男性と女性、目上と目下
その境界線が はっきりしてましたね。
態度や言葉遣いのラインが きっちりと引かれていました。

時には反抗しても 
子供にとって 大人の言うことは絶対で
当然、大人も今よりずっと 威厳も説得力もありました。

この映画でも
先生など大人と挨拶するときは
子供たちは必ず、帽子を取って挨拶しています。
こういうことが 観ていてとっても気持ちがいいんですよね。

小津監督と杉村春子さん
子供好きな小津監督と兄弟
川崎六郷土手の撮影風景












小津さんの作品を観るとき

いつも感じるのは 

子供を見る、大人の愛情深いまなざしです。 



テレビの登場で 国民が一億総白痴化すると言った
大宅壮一さんの言葉も 流行しました。









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