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顧客インサイトをバッチリ捉えたマーケティング戦略が失敗した理由

多くの家庭で「家事をラクにしたい」といった煩悩があることは想像に難くありません。そして、家電メーカーにとっては、この煩悩の解決こそが、大きな市場チャンスのように思えます。実際、食洗器はその代表的な商品として「家事の負担を減らす」という価値を打ち出してきました。しかし、当初の期待とは裏腹に、これらのメッセージでは食洗器の売上はなかなか伸びなかったのです。

煩悩と理性の葛藤

食洗器が売れなかった理由には、「家事をラクにしたい」という煩悩に対して、「家事を丁寧にこなすことこそ、子どもや家族への愛情表現である」という理性が存在していたという背景があります。「家事をラクにする」というメッセージは、たしかに煩悩には刺さる内容でしたが、家族への愛情を大切にする人間の理性には寄り添っていなかったのです。

多くの家庭では、手洗いの食器洗いを含めた日々の面倒くさい家事が、家族のため、特に子どもへの愛情を形にするものだと感じられていました。こうした気持ちは、家事に手間をかけることを「良い親である証」とする意識を強くしていたのです。その結果、「時短」や「ラクをする」といった表現は、かえって親としての罪悪感や抵抗感を生んでしまったのです。

メッセージを再定義して成功を掴む

パナソニックはこの理性に寄り添い、メッセージを大きく変えました。「家事をラクにする家電」ではなく、「子どもと一緒にいられる時間を長くする家電」という価値を打ち出したのです。具体的には、家事にかけていた時間を減らすことで、空いた時間を家族や子どもと過ごす時間に充てられるという点を強調しました。

この新しい訴求ポイントは、単なる「時短」ではなく、「愛情を形にする時間を生む」という、親としての理性と煩悩の両方に響くメッセージでした。結果として、食洗器が単なる便利な道具から、家族の絆を深めるための家電として受け入れられ、売上を大きく伸ばすことに成功したのです。

マーケティングの視点

この事例は、消費者のインサイトを洞察するだけではなく、そのインサイトには煩悩と理性の両方が混在していることに気づくことの重要性を示しています。「あなたの煩悩はこれかもしれない。でも、もっと大切にしている価値観があることを私たちは知っているし、みんなにも知っておいてもらいたいよね」というメッセージにするからこそ、消費者は「そうそう!そうなんだよ。」とハッとするわけです。

煩悩を洞察したうえで、深層部分の理性に寄り添ったブランドメッセージこそが、大きな共感を生むのです。

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