バットガール”削除”狂騒曲
バットガールの映像素材が削除されたとTwitterが荒れた件についてまとめました。
私はバットガールの中止は基本的には良くないことだと思いますが、現状はワーナーが不当に叩かれすぎている部分もあると思うので、細かく分けて見ていきます。
そして毎度のことですがデマッターを流す無責任なインフルエンサー()には憤りを感じる次第です。あいつら最初から「ワーナーを叩く」というシナリオがあってそれに当てはめてファンを煽ってるだけじゃないですか。マジでムカつくわ。
さーて、アホなインフルエンサー()達をごっそり削っていきましょう!
▼背景)ワーナーがデータを削除した!(?)
まずは米国CultureCraveがツイートしました。
続いて米国DiscussingFilmもツイッターで報じました。
これを受けて日本のインフルエンサー()が反応しました。
「DCとワーナー最低過ぎ」「ドン引き」「心から軽蔑する」だそうです。
これには1000件を超えるいいねが付き、引用リツイートでワーナーへの罵詈雑言が怒涛のように投稿されました。おそらくエアリプも沢山あったことでしょう。
しかし、やがて英語記事の誤訳が指摘され始めて、日本のインフルエンサー()も5時間後にコメントを追記しました。
削除ではなくブロックだったと。
あのさ、いいねと引用リツイートの数を見比べなさいよ。
最初のツイートの10%程度に留まるじゃないですか。冒頭のツイートしか見てない人達の誤解と、生み出された負の感情爆発に対して、どう責任とるつもりなんだコイツは。こういうアホなインフルエンサー()が居るからTwitterが殺伐とした空間になるんだよ。
そして、このインフルエンサー()は自分が誤情報を振り撒いたことを謝罪すらせず、それでもワーナーが「悪質なことには変わりない」と自分を正当化して逃げの一手です。こういう態度を取ることを【厚顔無恥】と言います。恥知らずめ。日本人じゃないのかもしれませんね。
しかもね、一番最低なのは、「英語からフランス語への翻訳ミスが悪い」みたいな書き方してますけど、実態はシンプルにこのインフルエンサー()本人の確認不足なんですよ。自分の失敗を棚に上げて、本当に恥ずかしい行為をしてますね。もしくは救いようのないバカなのかもしれません。
ということで実態について説明しましょう。
▼実態)元ソースの動画を見よう:
米国のアカウントのツイートでは一貫してソースが明記されていました。この削除騒動には発端になったのはスクリプト・フレンチが公開した動画です。
その動画で監督はフランス語で話しているのですが、英語字幕がついています。
そして、その動画では削除(Delete)なんて一度も言ってないのです。
●”削除”は脚色だった
最初に削除という言葉を使ったのはDiscussingFilmです。
つまりDiscussingFilmが(おそらくバズることを狙って)【削除】という強い語句で煽るような書き方をしたところ、日本のインフルエンサー()はまんまと乗せられた構図だったのです。
こんなのは元動画を見れば、すぐに見抜けました。
証拠に私のツイートを載せておきます。投稿時刻に着目してください。疑ってる人は当日の私の投稿をサルベージしていただいても構いません。
ここでは「サーバーを見たらもうデータがどこかに行ってました(I went on the server and everything was gone)」と言ってるだけです。
この発言からワーナーがサーバーのデータを削除した、と書き換えたのは、あくまでDiscussingFilmの解釈なのです。
また英語やフランス語が分からない方も一度動画を見ていただきたいのですが、2人の表情やテンションは終始穏やかで、とても素材を全部消してしまった深刻な話をしているようには見えません。
こんなことが、ものの数分の動画を観るだけで分かったのですよ?
しかも元ネタのツイートに貼ってあるリンクの動画で、ですよ?
なんでそんな簡単なこともしないの?
すればいいでしょ?
●最後のオチも伝言ゲームで崩れてる
さらに最後のセリフも気になります。
ちょっと並べて見比べてみましょう。
分かりますか?
最初のフランス語の動画にフランス人がつけた字幕では存在しなかった単語(evenとthe scenes)がCulture Craveで追加されて、さらにDiscussingFilmでは【筆者による追記】扱いから【発言者の言葉】扱いに変更されているのです。(鉤括弧を外したDiscussingFilmは引用のルールとしてはかなり悪質です)こういうのを伝言ゲームと呼びます。
そもそもthe scenesがなくても、「keep with 人」で「人と一緒にいる」という意味になります。つまり素直に「keep with Batman」を翻訳すると「バットマンと一緒にいる」になります。なぜわざわざscenesを挟んだのでしょうか?
英語は文の構造で意味が大きく変わる言語です。そこが日本語と英語の最大の違いです。the scenesの有無はその中でも最大級の違いを生むのですが、そんな重要な単語を最初に字幕を付けた人(Skript Franceの担当者)が省略したりしますかねぇ?
さらに私が着目したのは「didn't」がついてる点です。これは過去のある一点に着目していることになります。
もし日本のインフルエンサー()の翻訳通り、「バットマンが登場するシーンさえ残ってないんだ」と言ってるとしたら、時制が現在形または現在完了形になると思います。事象が現在まで続いているからです。
さらにさらに、この動画の編集方法もヒントになります。
Skript Franceの担当者が英語にどこまで堪能なのかも不明ではありますが、このフレーズで動画がスパッと終わるので、何らかのオチであると考えられます。これを言う時の監督はめっちゃドヤ顔なので、何か上手いことを言った筈です。
最後の「in it」も気になります。スマホに入れるなら「on it」になると思います。というか直前の字幕で「on your mobile」書いてるんです。そこで私はこのitを「あること」と解釈しました。その「あること」とは会話の流れを見ると分かってきます。
これはアルビ監督がぶっ込んできたジョークです。
バットマンといえば、DCコミック最高の探偵であり、どこかの企業から情報を取り出すなんてお手の物です。
サーバーに行ったのにデータを抜き出せなかった。バットマンと一緒じゃなかったから。⇒バットマンと一緒だったらデータが抜き出せたのに!
というユーモアだと私は解釈しました。
そして逆説的に、この発言からもサーバーにはまだデータが残っている、ということが推測できます。
このようにニュアンスまで把握するには、一次ソースに当たることが必須です。言語の壁があると難しかったりもしますが、今回の場合はラッキーなことに動画で見れたので、監督の表情などノンバーバル情報を取り出すこともできました。
●削除したらどうやって完成させるのよ?
いかがでしょうか。
それでも納得できない方のために、こんな小難しい翻訳やら表情やらではなくて、もっとシンプルで、もっと根本的なことを言いましょう。
もう一度私のツイートを引用しますけど、監督はこのインタビューの中で「できれば映画は完成させたい」と言ってるんですよ。
じゃあ、素材をマジで消してるわけないじゃーん。笑
分かっていただけましたか?
いっぺんでもソースの動画を見てれば、あんなデマ情報には騙されないんですよ。
▼解説)なぜワーナーはブロックしたか:
次に監督がブロックを喰らった理由について解説しておきましょう。
削除にしろアク禁にしろ、監督を作品から締め出したワーナーは非道であるという意見をよく見ますが、これには理由があると知れば納得していただけると思うからです。
ズバリ、金です。
●節税のためにデータ流出はご法度
ワーナーは今年Discoveryに買収されて新会社WBD(ワーナー・ブラザース・ディスカバリー)になったのですが、この時にいくつかのプロジェクトを閉じました。
なぜ閉じたのかというと、企業合併時の経営方針の変更で公開できなかった作品(=1円も稼げなかった作品)にしておけば、制作費にかかる税金が削減できるからです。バットガールの場合は約1,500万ドル(=約20億円)の節税になります。
つまり、このままバットガールをHBO maxで配信した場合の収益が、ここでバットガールを中止した場合の減税金額20億円を上回る見込みがないなら、バットガールは中止した方が良い。という計算になるのです。(逆に言えば追加で20億円の税金を払ってでも公開するべきと会社が判断すればリリースの可能性はあります)
映画ストリーミングサービスは2020年からのコ●ナ特需も終わり、2022年1〜3月期にはNetflixの株価が暴落するなど、ビジネスモデルに陰りが見え始めています。一方で劇場公開作品ではスパイダーマンNWHやトップガンMなど超ヒット作も出てくるようになり始め、WBDは映画部門を劇場公開作品にシフトチェンジしていく意向であることを表明しています。劇場公開は都度チケット代が取れますから、比較にならないほど利益が出ます。
そもそも、この話をするときには、ワーナーの買収を押さえておくべきです。2021年までにストリーミングに力を入れていたワーナー・ブラザースの経営が悪化したから、ワーナーの親会社であるAT&T社が売却を決めて、それをDiscovery社が買い取って2022年4月に手続きが完了した、という事情がスタートにあります。だから新会社WBDでは、売却前の経営者(ジェイソン・キラー;元CEO;退社済み)が進めたストリーミング重視路線にストップをかけるのは、ある程度は自然な成り行きだと言えます。売却を経て会社の方針が変わったことを示さないと株主に説明がつきません。
もちろんバットガールとて作品単体での売上だけで終わる話ではなく、ファンの満足度向上、世界観の構築、グッズ販売の利益、そしてDCフィルム全体での盛り上げなど、他にも考慮すべき指標はたくさんあります。それらも総合的に判断してWBDは中止という結論(20億円の節税をチョイスした)に至ったのだろうと思われます。
少なくとも、今のタイミングでは。
よって、会社はこの映画バットガールで1円も稼ぐことはできません。
1円でも稼いだら、その瞬間に20億円がパーになります。
さらに、これはシンプルに映画バットガールが公開されるということだけに限らず、何か別の作品からちょっとした広告映像に至るまで、映画『バットガール』の素材が使われてしまったら今回の税務処理の法的根拠が失われるリスクがあります。
【バットガールの撮影で使ったお金は儲けが出せなかったので損金扱いにします】という約束だったので、バットガールの撮影素材が商用利用されたら、【バットガールの撮影で使ったお金は無駄にならなかった】となってしまいます。そしたら普通に課税対象に戻されてしまうかもしれません。そしたらアメリカ国税局に20億円払うことになるんですよ。
だから、WBDは絶対にデータを流出させるわけにはいかないのです。
●ブロックしたのは監督を守るためでもある
もう一点気になるのは、この若い監督コンビの衝動的な行動です。
あのさ、、、
会社のデータを、許可なく、私用スマホに入れるのって、どれだけ悪いことなのか分かってますか??
ブロックしたワーナーを批判するツイートをよく見かけますが、だったら逆に、会社のデータを盗もうとした監督コンビの行動についても議論されるべきですよね。でないとアンフェアですよ。
もちろん彼らの契約内容次第なので厳密には分かりませんが、これまで全てWBDのサーバーに入れて作業していたデータですよ。シンプルに彼らが自前のスタジオを持ってなかった可能性もありますし、持ち出し禁止の契約だった可能性もあるんです。
見方によってはね、、、
仮に、データが持ち出し不可の契約だった場合は、ワーナーは速やかにアクセスをブロックしたことで、この2人の思慮浅い若手監督を契約違反から守った、という見方もできるんです。
会社はバットガールを一切公開しない条件で約20億円の減税措置をしたんですから。それが無効になれば、この2人に多額の賠償金が発生しかねません。それを未然に防いだのだとしたら?
会社の面倒くさいルールとか制限とか契約というのは、本質的には従業員を守るためにあるんです。その典型例を見たような気がしました。
▼考察)常識で考えよう:
そもそも普通に考えて、消すわけないでしょ。笑
ワーナーのような超一流企業が撮影素材をこんな短期間で破棄するとか有り得ないですよ。
たぶん「削除した」というニュースを鵜呑みにして怒りをぶちまけまくった人達は、大企業で働いたことが無くてそういう書類管理業務の重要さを認識してないか、映像制作の現場がどうなってるかをご存知ない人達が多いのでしょうね。
映画会社は映像で勝負してる会社なんです。彼らにとって撮影素材がどれだけ大切な資産になるのか、もう少し想像力を使いましょう。
バットガールについては、先日に財政的理由で制作・公開をキャンセルしたことで感情的になっている人達が多いだろうとは予想できますが、さりとてワーナーの粗探しをして、それで炎上させようとする態度には感心できませんね。
怒ってる感情はわかる。でも、感情は論理と常識を歪めます。
私も自戒を込めて、今回まとめました。
みんな冷静になりましょう。
了。
P.S.