【はるヲうるひと】あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)
結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。
まずは、物語を三幕8場構成に分解します。
一幕
1)昔ながらの置屋が点在する島。噂を聞きつけて来る本土の客。今日の客引きに失敗する得太。軟膏を買えないさつみ。置屋の個性豊かな女郎たち。置屋のパシリだと子供に嘲笑われ、女郎にも揶揄われる得太。体調不良と精神病を患っているいぶきと女郎たちは険悪。
2)置屋に哲雄が現れて緊張が走る。哲雄の酷すぎるパワハラに抵抗できない女郎たちと得太。哲雄はさつみに愛の無いセックスでは目を瞑るなと諭す。先輩女郎は洗濯物を干すさつみに得太の仕事を奪うなと諭す。その先輩女郎は哲雄の性欲の吐口になって後輩を守っている。
二幕
3)島の役所に原発反対で住民が押し寄せる。本当の目的は国からの補助金交付で、地元の商工会がヤクザまがいの斡旋をしている。置屋に愛を求めるミャンマー人が通い始める。まだ軟膏を買えないさつみ。得太といぶきは哲雄に隠れて酒を飲む生活。愛を知らず、虚しい生活に得太は隠れて哭く。
4)生きる希望がないいぶきは酒を呑んで暴れる。まだ軟膏を買えないさつみは薬屋に自分の仕事を言えない。
5)さつみは先輩女郎から真柴兄弟の因縁を聞く。哲雄の母は正妻で、得太といぶきの母は妾で、父は妾と心中して正妻は二人を追って自殺した。その第一発見者が幼少期の得太だった。それ以来、哲雄は弟妹と女郎を憎むようになったとも。得太といぶきは海を見ながら母との思い出に浸る。
6)得太は幼少期の自分の幻を追いかける。哲雄は得太を家へ食事に誘う。哲雄は得太を虚で最低な人間だと罵倒する。
三幕
7)反対運動が功を奏して島民は莫大な補助金を得る。工事が始まり、置屋は繁盛する。台風が来た日の夜に、さつみは哲雄に口淫を強要されたいぶきを見て泣き崩れる。ショックで得太はずっと秘密にしていたことを話してしまう。実は得太の母と哲雄の母が愛し合っていて、最初の心中は妾と正妻で、後を追ったのが父だった。哲雄は自分も鼻くそだったと意気消沈する。
8)女郎の一人がミャンマー人と結婚して水揚げされる。結婚式で女郎は目を閉じてキスする。さつみは女郎として生きる覚悟を決める。私、春を売る人です。
FIN
▼解説・感想:
●構成
1-1:軟膏を買えないさつみ
1-2:女郎として指導されるさつみ
2-3:まだ軟膏を買えないさつみ
2-4:薬屋に自分の仕事を言えないさつみ
2-5:真柴兄弟の過去を知るさつみ
2-6:得太が哲雄の家で食事する
3-7:いぶきが暴行されて泣くさつみ
3-8:覚悟を決めるさつみ
群像劇のようにも見えますが、本作の真の主人公はさつみでしょう。さつみが鼻くそみたいな兄弟喧嘩や、先輩女郎の立ち居振る舞いを見て、女郎として生きることに覚悟とプライドを持つまでの成長譚が本質かと。
もしかしたら、もっと極端に全てさつみ視点にして、以下のように三幕の切り替えを解釈するのが、脚本の構造分析としては正解かもしれません。
1-1:軟膏を買えないさつみ
1-2:女郎として指導されるさつみ
2-3:まだ軟膏を買えないさつみ
2-4:薬屋に自分の仕事を言えないさつみ
2-5:真柴兄弟の過去を知るさつみ
2-6:いぶきが暴行されて泣くさつみ
3-7:先輩女郎の結婚式に出席するさつみ
3-8:覚悟を決めるさつみ
逆に、ネームバリューのある三人(山田孝之;佐藤二朗;仲里依紗)が主軸だと思って観てると、何を言いたい物語だったのか見えにくいというか、さつみのエピソードが全てノイズのように感じてしまうのではないでしょうか。
だってメッセージ性が希薄ですからね。妻と妾が実はレズビアンで、俺たち三人兄妹は愛のないセックスで生まれた子供だった、なんて言われても。エピソードとしては特徴的で奇譚として面白いですけど、それが映画全体のテーマかと言われると少し違う気がします。ましてや、それをミャンマー人が「鼻くそも己の中で蠢いていたものでありまして、愛はありますね」なんて言っても、それで十分な帰結にはなってないでしょう。
いや、なってるのか?そういうオフビートなコメディとして。
●感想
性格俳優として、面白いオッサンを演じさせると光る佐藤二朗が主宰する演劇ユニット「ちからわざ」で2009年に初演となった同名舞台を佐藤の監督・脚本・出演、山田孝之主演で映画化という、まるでダーク版勇者ヨシヒコのような映画でした。
「笑え、声出して笑え、試しに笑え、ムリでも笑え」
なんていう台詞をあんな面白いオジサンが書いてるのは、なんか心の闇が見え透いたようで、心が重くなりますね。ダークサイドを知る人にしか喜劇や笑いは書けない、みたいな。
どこかテンポをずらした笑いをいくつも入れるのは、そういう緊張を緩和するためだったのだと思われます。
女郎も鈍感だろうとディスる向井理が謎でした。(笑)
髪の毛を結んで呪術的なアイテムにするのが独特な世界観で面白かったです。
人間の最低は虚。口に虚で嘘。という台詞は良かったですねー。
役場で水槽に金魚の餌を大量に入れる描写はなんか北野映画を意識したのかなーと思いました。
哲雄「うそん子の交わり。鼻くそ。愛のない」
得太「愛ってなんだ」(何回目だよ)
ミャンマー人「それを知らないなんて、あんた、鼻くそよりしょっぱいね」
この会話もどこか北野映画のようなオフビート感があるような気がします。佐藤二朗と北野武はどこか感性が似てるのかもしれませんね。
いぶきが取り憑かれたように鏡に描いてた四角い模様が実は「歯」で、それが沢山並ぶと「はははははは」と笑い声になる、というモチーフは面白かったです。
(了)