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バービーのスナイダーカット発言について

“It's like being in a dream where I've somehow been really invested in the Zack Snyder cut of Justice League.” – Writer Barbie

https://www.sideshow.com/blog/barbie-movie-quotes-2023

ということで、映画『バービー』のスナイダーカット・ジョークについて解説していきます!


▼ネタバレレベル1:

まずはシンプルに台詞の直訳だけしてみます。

原文
It's like being in a dream where I've somehow been really invested in the Zack Snyder cut of Justice League.

直訳
それはまるで夢の中に居るようだった。まるでザック・スナイダーのジャスティス・リーグに放り込まれたような。

*私は英語音声で劇場観覧しましたが、ちゃんと読んでなかったので日本語字幕でどう記載されていたのかは覚えていません。(笑)

*この映画では他にも『2001年宇宙の旅』や『ゴッドファーザー』などの過去の有名作品をネタにしたジョークが出てくるのですが、そうしたものの中の一つとしてスナイダーカットが選ばれたという感じです。

▼ネタバレレベル2:

*前後の文脈をストーリーの核心に触れないように配慮しつつ説明します。

バービーランドに暮らす何人かのバービーがある理由で洗脳状態にされてしまいます。その洗脳を解かれた時に作家バービー(マーゴットではない)がセリフで

「夢を見てるみたいだった。まるでザックスナイダーカット・オブ・ジャスティスリーグを観てるようだったわ」

と発言します。

一般的には、スナイダーカットの存在は長らくワーナー・ブラザース自身が否定し続けてきた歴史があるので、夢のようなもの(=存在しない映画)としてスナイダーカットを弄った、という解釈が多いようです。

▼ネタバレレベル3:

しかし私は別の考えです。

もちろん「存在する/存在しない」が大論争になったスナイダーカットをして夢か現実かというニュアンスを狙った部分はあったかと思いますが、それだけではありません。

スナイダーカットは映画の終盤にナイトメアシーンと呼ばれる、ドリームレンズで撮影した独特な感じのシーンがあります。そこから「夢を見ていたようだ」という映画的技法を踏まえた比喩かなと私は解釈しました。

*ドリームレンズを使うことで、被写界深度が浅くなり、ピントが合う範囲が狭くなる。よって背景がボケて、まるで夢のような曖昧なビジュアルを作れる。映画の最後にこのシーンが出てきて、ジャレッド・レトの演技が素晴らしいこともあり、作品全体の印象に残りやすい。

この映画ではスナイダーカットに限らず過去の名作映画をネタにしたジョークが複数出てきます。DC映画ファンの中にはネガティブな反応もあったようですが、むしろスナイダーカットは『映画ファンなら知っている重要作品の一つ』になれたと喜ぶべき案件かと私は思います。

▼ネタバレレベル4:

ちなみに、この発言をする作家バービーを演じるアレクサンドラ・シップは映画版X-MENの『アポカリプス』と『ダークフェニックス』の2作でストームを演じているので、それもメタ的なジョークになっています。

特にスナイダーカットは2017年の劇場版で全削除されたアポコリプスが大々的に復活した作品なので、アレクサンドラ・シップが言うことでアポカリプスを連想させるのは笑えるポイントでしょう。

*ダークサイドが居るのはDCコミックスではお馴染みのアポコリプス(Apokolips)という場所です。もちろんキリスト教における黙示アポカリプス(Apocalypse)が語源です。マーベルコミックスには同じ名前の場所は登場しませんが、X-MENでは語源の黙示(世界の終わり)という意味で映画タイトルにされました。

▼ネタバレレベル69:

*さて。いよいよ、ここからは物語の核心に言及しながら、このジョークの本質的な意味を考察します。こちらは最大級のネタバレになりますので、まだ映画『バービー』を観てない人には正直あまり読んでほしくありません。

このnoteの高評価だけ押して、ついでにSNSでシェアもして、ご自身は今すぐ映画を観てください!(笑)

#ネタバレ 注意!

なぜバービーは「洗脳」されたのか?

作家バービーに洗脳をかけたのはゴズリングが演じるケンでした。女の子が主役でいわゆる女尊男卑になっているバービーワールドに、ケンは現実世界から男性主義(マッチョイズム)を持ち帰り、この「革命的なアイデア」は瞬く間に広がって、ほぼ全ての女子(バービー達)が男子(ケン達)に魅了されて、ほぼ一瞬で非常に保守傾向の強い男尊女卑の世界になってしまいます。

バービーランドという名前も変更されてケンダム(Kendom)に改名されます。これはキングダム(kingdom;王国)を文字ったジョークですね。自由と対極的なものとして絶対王政をイメージさせるためでしょう。

そこに現実世界に出掛けていて洗脳を逃れたマーゴット演じるバービーと、バービーらしくないという理由でバービーランドの郊外に暮らしていたことで同じく洗脳を逃れた「変わり者」のバービー達(殆どが廃番になった型番)と、現実世界から乗り込んできた人間が現れて、一人ずつ女子(バービー達)の洗脳を解いていくというストーリーになっています。

その最初に洗脳を解かれたのが、件の作家バービーです。

それゆえにスナイダーカット発言はかなり目立ちます。

スナイダーカットといえばスナイダー印のマッチョイズムが溢れた男臭い世界だと言えます。そこで洗脳から覚めた作家バービーが「まるでスナイダーカットだったわ」と言うのは結構うまい喩えだと感心しました。

*実際には男らしさだけでなく女らしさにもリスペクトを置いた多面性を持つのがザック・スナイダーの作家性なのですが、如何せん彼の映画ファンには男子が多いので、どうしても力強い側面ばかりが強調されて目立つ傾向がありますし、世間一般の認知度というのはその程度でしょう。

しかし先にも述べた通り、このジョークはスナイダーカット批判である、という声は少なくありません。

実はこの『バービー』という映画は、フェミニズムとマッチョイズムを派手に戦わせることによって、その両方をディスるという高度なコンテクストをやっている映画です。しかし、一部の強固なフェミニストやミソジニスト、またはそれらの思想対立への造詣が浅い人にも、まさかそこまで深いことをやっていたとは読み解けません。

前半で無邪気に描いていた楽園バービーランドが、後半でケンが『現実世界』から持ち帰った男性主義によってあっさり洗脳されてしまう描写は、観客の私達が住む『本当の現実社会』に蔓延る「過剰なフェミニズム」に対する強烈な皮肉(鏡写しによる暗喩)になっています。こんなに女性を肯定しそうなパッケージの映画でグレタ・ガーウィグはかなり踏み込んだものです。

そして、この演出意図は自身が100%正しいと思い込んでいる一部のフェミニスト活動家にはおそらく受容できないでしょう(自身が信念としているポリティカルコレクトネスに疑問を投げる)から、これこそが本作が観客の属性によって解釈が変わるリトマス試験紙と呼ばれる所以でしょう。最高に風刺が効いた知的エンターテイメントですね。

そうなると、あまり深く考えてない人達や、いわゆる価値観がアップデートできてない人達には、額面通り『男は悪で、女が正義』という勧善懲悪なストーリーに見えてしまいます。

このように本作の真髄まであまり深く読み取ってない人には【悪の洗脳=スナイダーカット】という図式にも見えるので、ネガティブな声が上がるのは一理あるでしょう。

了。

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まいるず
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