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スナイダーをDCEUから降ろしたプロデューサー(ジェフ・ジョーンズ)

ポイント:この記事を読むと、いかにジョーンズがスナイダーを否定して影響を消そうとしていたのかが分かるようになります。

スナイダーカットの封印と復活までの騒ぎをご存知であれば、DCEUはワーナーとスナイダーの戦いの歴史であるというイメージは持たれている方は多いと思います。しかしワーナーは会社なのであって、それを舵取りしていた人物がいる筈です。その1人がジェフ・ジョーンズ(Geoff Johns)です。

▼ジョーンズってどんな人?:

ジェフ・ジョーンズはもともとコミック作家(絵は描かずに物語を考える人)で2005年頃から『グリーンランタン』シリーズを大成功させました。その功績が認められて2010年にはDCエンターテイメント社のCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任し、一方で作家活動は続けて2011年からDCコミックスのNew52シリーズの指揮と執筆に当たりました。このNew52は作画担当のジム・リーと共に読者の支持を受けて大成功し、DCEUのジャスティスリーグの原型はここで作られたと言えます。要するに彼は「DCコミックスのケヴィン・ファイギ」みたいな存在になりました。

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ジョーンズが作り出したNew52のジャスティスリーグ

そうした数々の成功を評価されて、ジョーンズは2016年に同社の代表取締役になりました。つまり当時DCで一番エライ人でした。

ここで勘の良い方はピンとこられるでしょう。ジョーンズがDCの最高権力者になった2016年というのは『スーサイドスクワッド(2016)』と当初の『ジャスティスリーグ(2017)』が作品の方針変更の圧力を受けた時期と重なります。そして程なくして、ハードな路線を徹底していたデヴィッド・エアー監督とザック・スナイダー監督は共に追放に近い形でDCを離脱することになりました。もともとDCEU版のジャスティスリーグを考案したのはジョーンズだったので、スナイダーによるシリアスな映画シリーズをよく思ってなかった部分もあったかもしれません。

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スナイダーが作らせたDCEUのコンセプトアート

そんなジョーンズでしたが、2018年にはDCの取締役から離れることになりました。これは建前としては「新しい会社を設立するため」と発表されましたが、取締役会の本音としては2017年に公開された『ジャスティスリーグ』の興行的な失敗の責任を取っての辞任という意味合いもありました。ただし、ジョーンズはこのとき設立されたMad Ghost Productionsという会社で、引き続きワーナーが配給するDC映画/テレビドラマやコミックブックの執筆やプロデュースを行うことになりました。

なので実態では新会社を通じて、ジョーンズは現在もDC作品の制作には深く関わり続けており、アクアマン(2018)の脚本指導やワンダーウーマン1984(2020)の脚本執筆、そしてシャザム新作(2023)のプロデュースなどで強い影響力を持ち続けています。たとえばアクアマンやWW84での金ピカの衣装はジョーンズの明るいコミックに近づいた結果と言えるでしょう。

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ジョーンズのプロデュース色が強い衣装

▼ジョーンズとスナイダーの戦いの歴史:

つまりDCEUの歴史は、企業経営者として支配力を求めるジョーンズと、映画監督として自身の作風を貫こうとするスナイダーの、戦いの歴史でもあったのです。(そしてワーナーの経営陣はジョーンズの新会社と提携を続けて、スナイダーは今後プロジェクトの予定がないので、この会社を巻き込んだ政権闘争はジョーンズが勝利している状態だと言えるでしょう。そこに根強く残るスナイダーファンが声を上げ続けているという構図です;なのでしばしばワーナー経営陣を降ろせという声も上がります)

●時系列で比較するジョーンズとスナイダー:

ここまでの流れを年表にして整理してみます。

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ジョーンズとスナイダーの行動を左右で併記した年表
(2013年と2017年に大きく2回の形成逆転が起きた)

DCの中で特に2人が関わった映画のみ言及しています。この年表から映画のタイトルだけ抜き出すと、、、

2011年『グリーンランタン』
2014年『マンオブスティール』
2016年『バットマンVSスーパーマン』
2016年『スーサイドスクワッド』
2017年『ワンダーウーマン』
2017年『ジャスティスリーグ』
2018年『アクアマン』
2020年『ワンダーウーマン1984』
2021年『ジャスティスリーグ:スナイダーカット』
2023年『シャザム:Fury of the Gods』

太字にしたのがジョーンズが最終的には主導権を握った映画です。これを見たら、スナイダー降ろしを成功させてジョーンズが勝利した、と言わざるを得ません。まさにジョーンズ奇跡の大逆転でした。(スナイダーカットは突然変異の例外みたいなものです)

●DCEU立ち上げ時は何もできなかった:

注目すべきは、2011年に公開された映画『グリーンランタン』の失敗でしょう。本作でジョーンズは自身がコミックで大成功させたタイトルにプロデューサーとして参加しましたが、盛大にコケて、後年になって主演のライアンレイノルズに映画『デッドプール』の中で「緑のスーツだけは止めてくれ」とネタにされたくらい悪名が高い作品です。

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図:DCEU創設時期は弱かったジョーンズの発言力

そしてこの直後の2013年にDCEUはスナイダーのディレクションで始動することがアナウンスされます。これはライト路線で制作した『グリーンランタン』の失敗と、2008年にセンセーションを巻き起こした映画『ダークナイト』と同様にシリアス路線で進めていた『マンオブスティール(MoS)』を比較して、ノーラン監督の助言もありDCEUはシリアス路線で行くことが決定したものだと考えられます。

これにはジョーンズは悔しい思いをした筈です。自身が創造した「New52のジャスティスリーグ」の映画化なのに、自分の作風は否定されてしまった訳ですから。

しかもスナイダー版のジャスティスリーグにはジョーンズの最大の功績とも言えるグリーンランタンが出てきません。更には、出てくるとしてもジョーンズの分身のような存在である白人のハル・ジョーダンではなく、黒人のジョン・スチュワートのバージョンになるというのだから怒って暴れたんじゃないでしょうか。笑。

こうしてジョーンズは、なんとかスナイダーを更迭できる材料を探してMoSやBvSの興行不振を取締役会で何度も発言したり、スナイダー版ジャスティスリーグに黒人のグリーンランタンが登場することに最後までNGを出し続けたのだと考えられます。

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図:ジョーンズは発言力をアップしてスナイダー降ろしを画策

そして遂に2016年、ジョーンズは過去のグリーンランタンの失敗のほとぼりも覚めて、DCエンターテイメントの社長として発言力を最高マックスにまで高めて、いよいよスナイダーヴァースの解体に乗り出しました。

●DC社長になって構造改革:

最初に標的にされたのはデヴィッド・エアーの『スーサイドスクワッド』でした。ジョーンズはエアーの意向通りに作られたラフ編集版をボツにして、予告編を作った会社に全て作り直させるという暴挙に出ました。実際にこの予告編は映画の中で派手なシーンを集めて大変に評判が良いものでした。ただし長くて2分程度の予告編と、120分の映画では勝手が全く異なります。予告編制作会社に任せるなんて無謀な話です。

この異常事態に、巨大フランチャイズ作品の経験は浅かったエアー監督は諦めてしまいました。公開された『スーサイドスクワッド』は物語と演出が支離滅裂で、「マーゴット・ロビーのハーレイクインがエロかっこいい」以外は殆ど評価されない駄作になりました。

次に被害に遭ったのはザック・スナイダーの『ジャスティスリーグ』でした。しかしスナイダーは歴戦の手練れだったので、そんなジョーンズの魔の手に簡単に屈することはありませんでした。スナイダーはスタジオの命令を無視してさっさと自身の意向を完全に反映した214分の編集版を2017年1月までには完成させてしまいました。今になって考えればこの神業に近いスピーディーな編集は、後の長期戦を見込んでの先手の一撃だったのかもしれません。

しかしスタジオからの圧力は強く、この頃までに取締役会には「MoSとBvSの失敗の原因はシリアスな作風にある」という雰囲気が醸成されていました。これを跳ね除けて戦うのは、3月に最愛の娘が自殺してしまった家庭の父親としては無理でした。そこで編集まで完成させたスナイダーは「作品の方向性は引き継ぐ」というスタジオの約束を信じて、5月に現場から離脱しました。

ここをチャンスだとばかりに利用したのがジョーンズでした。ジョーンズはMCUからジョス・ウェドン監督を引き抜いて、自身が目指すライト路線な作品に変えてしまうべく、ウェドン新監督に絶大な権限を与えて、わずかな時間に好き勝手に脚本変更と追加撮影と再編集をさせました。しかしこのウェドン監督が想像以上のポンコツでした。結果がどうなったのかは別記事に書いたのでそちらで読んでください。

●アフター・スナイダー:

2017年にスナイダーが離脱してから、ジョス・ウェドン監督に再構築させたジャスティスリーグ(ジョスティスリーグとも言う)が公開され、続いてその世界観を引き継いだアクアマンWW84が公開されました。特にWW84はジョーンズがメインで脚本を書きました。シャザムの第1作はジョーンズはノータッチでしたが、続編(Fury of the Gods)ではプロデューサーとして参加します。

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図:スナイダー降ろしが完了して、いよいよ精力的にプロデュース継続

ジャスティスリーグもアクアマンもWW84もスター俳優の人気でなんとか売上を伸ばしましたが、作品の内容はMCUなどのアメコミ映画に比べても遥かに劣るチープで残念なものばかりです。私に言わせれば俳優が気の毒です。ジョーンズが脚本やプロデューサーとして関わるとロクな映画にならないとよく分かったので、私は今後一切、彼の作品を観ることは無いでしょう。

彼が関わらない映画(The Batmanなど)を観ながら、もし可能性があるならスナイダーヴァースの続編を観たいなと願う今日この頃です。

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ジョーンズが関わっている映画一覧(Wikipedia)

エグゼクティブ・プロデューサーのみでの参加は、事実上お金を出すだけで作品に意見は反映されにくいのでセーフかなと思ってます。ただしスーサイドスクワッドのような例外や、BvSのように劇場版での時間短縮などの意思決定で関与してそうなものもあるので、ある程度は気にかけた方が良いでしょう。

▼ついでに日本法人のポンコツな事例も紹介:

ワーナージャパンはスナイダーカットのブルーレイ発売時に特典としてジョーンズが執筆したコミックをつけていました。ジョーンズの影響を完全に取り除いたことに意味があったスナイダーカットでジョーンズのコミックを付けるって、アタマ悪すぎでしょ。笑。詳しくはこちらに書いたので興味がある方は読んでください。

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まいるず
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