テネットのアルゴリズム起動装置がオッペンハイマーに繋がる件【TENET】
映画の核心部分をネタバレしているので閲覧にはご注意ください。
▼問題:
映画『TENET テネット』を久し振りに視聴して腑に落ちない箇所がありました。
”セイターが絶命したのにアルゴリズムが起動しないのは何故か?”
映画では、主人公たちがアルゴリズムを奪取する前に、キャットがセイターを射殺してしまいます。しかし何故かアルゴリズムは直ちに起動しませんでした。その後、主人公はアイヴスと共に脱出して、ニールも加えて3人でアルゴリズムの隠し場所を相談します。
おいおいおい、アルゴリズム、なぜ起動しなかったんですか?
この疑問について、私はすでに記事を1本書きました。
しかし、その答えにたどり着く前に、
実は一つ、別の説を編み出していました。
個人的にはこちらでも十分面白いと思ったのでnoteに書き残しておきます。
こちらの説の方がノーランのフィルモグラフィーの中で意味を持つのが私が面白いと感じる点です。
▼自説:
では私の考察結果を述べましょう。
アルゴリズムが起動しなかった理由。
それは、、、
ズバリ、【起動装置は作動していたが、アルゴリズムを間一髪で移動できたから】だと私は思いました。
順を追って解説します。
●アルゴリズムの起動には2つの条件
実は、キャットがセイターを射殺した直前に重要な手掛かりが二つあります。
一つ目は、主人公がアルゴリズムをウィンチから外したこと。これによってアルゴリズムは【本来置かれるべき場所】から移動したことになります。
当初はヴォルコフが組み立てたアルゴリズムをケースに入れて、地下空洞から更に深く縦穴に降ろそうとしていたのですが、間一髪で主人公達がヴォルコフを殺してこれを止めました。そして爆発を掻い潜って地上に持ち出しました。
二つ目は、主人公がハイポセンター(爆心地)に来た時点で時限爆弾は起動していたこと。つまり、セイターが絶命(心肺停止)する時刻と爆弾のタイマーは【最初から同期】していたことになります。
これはセイターが自分の死亡時刻を知っていて、自身のチームに爆破時刻を指定していたからでしょう。未来人から送られてきた書類に「あなたは癌を発症してYYYY年10月14日HH時MM分SS秒に自殺します。その時刻にタイマーをセットして爆破しなさい」みたいなことが書いてあったのだと思われます。
このスタルスク12での主人公側のミッションは【セイターにアルゴリズムは適切な場所にある状態と思わせて自殺させること】でした。電話口のセイターはヴォルコフに射撃を命令して、銃声だけ聞いて安心します。ほぼ同時にキャットが受話器を奪って電話を切りました。しかし実際には逆行ニールがヴォルコフの銃弾を防御して解錠(正確には施錠の逆行)し、アイヴスから手渡されたピストルで主人公がヴォルコフを殺し、アルゴリズムを奪取。そのまま何も知らないセイターはキャットに撃たれて絶命しました。
で、本来は縦穴の底にあるはずのアルゴリズムが地上にある状態で、ハイポセンターは爆発して塞がったのでした。
このように、【アルゴリズム起動の条件には時間と空間でそれぞれ指定】があり、そのうちで主人公チームが空間の条件だけズラしたから、起動しなかったのだと私は考えました。
●なぜ埋めようとしたのか?
もともとヴォルコフはアルゴリズムをウィンチに繋げて縦穴に入れようとしていました。
あれは何をやっていたのでしょうか?
なぜ地中深くアルゴリズムを埋める必要があるのか?
答えは、、、
あれが【アルゴリズムを起動する装置】だったからです。
(効果音:ばばーん!)
こちらは私の推論になります。最初はただのデマカセに見えるかもしれませんが、それなりに根拠があるので最後まで読んでいただけると嬉しいです。
要するに、縦穴の底はちょうど球体の地下施設の中心になっていて、爆発によって大きな圧力をかけることでアルゴリズムを起動する仕組みだったと考えられます。
何故なら、こうすることで、まさに原子爆弾の起爆装置の仕組みとそっくりになるからです。原子爆弾も球体の中心にプルトニウムの核燃料があって、周囲を一斉に爆発させて中心部に高い圧力をかけることで核反応を起こす仕組みになっています。これは米国でオッペンハイマー博士が1940年代に発明した仕組みでもあります。
この名前を出した時点で勘の良い方ならお気づきだと思いますが、オッペンハイマーはノーラン監督の次回作のタイトルでもあるし、映画『テネット』でも未来のアルゴリズム開発者の対比として台詞に出てきます。
つまり、ノーランが現在興味のあるテーマの一つであり、映画の中でめちゃ意識している人物でもあります。
だからこそ【アルゴリズムの起爆装置のデザインに原子爆弾と酷似した構造をメタファーとして使用した】と私は推理しました。
ノーランのように自分の思想を映画の形に落とし込むスキルがある監督が、このような意匠を込めていると考えるのは、とても”有りそうな話”です。オッペンハイマーの名前を出している時点で、かなりの確定演出です。アインシュタインでもノーベルでもなくて、オッペンハイマーですからね。アルゴリズムを物理学でもダイナマイトでもなく、原子爆弾のメタファーとして描くと考えるのは道理的です。
▼監督の狙い:
ノーラン監督はずっと原子爆弾をテーマに映画を撮りたかったのだと思います。最新作はユニバーサル配給でオッペンハイマーを描くものですが、これまでにワーナー配給でも核は『ダークナイトライジング』や『テネット』で現状を大きく変えてしまう最終兵器として登場させてきました。
よく世間ではノーラン監督はワーナーのストリーミングを重視する考えに嫌気が差したという言説を見ます。
しかし、私はそれだけじゃないと思っていて。
私は個人的に、ワーナーというスタジオは核兵器をネガティブに表現することにかなり消極的、という印象を持っています。あくまで”超強力な爆弾”くらいのカラッとした表現に抑えたいような。
例えば『ダークナイトライジング』のラストで、バットマンがありえない短時間で中性子爆弾を飛行機で持ち出して海上で爆発させても無事に戻ってくるとか。あるいはギャレス・エドワーズ監督の『ゴジラ』のラストで、主人公がやはりありえない短時間で、起動した核弾頭を小型船で沖合いに運び出すもあっさり救助されて、しかも近距離で爆発させても無傷で帰って来ちゃうとか。どちらもワーナーのブロックバスター作品です。
そもそも核爆発というのは、爆発時の高熱や爆風を防ぐだけでは不十分で、許容量を上回って浴びた放射線が原因でかなり日が経ってから癌などの深刻な健康被害を生じるのが恐ろしい物です。
確かに数秒などの短い時間で極端に大量の放射線を浴びれば、すぐに細胞が溶け始めます。全身に浴びれば内臓が同時に溶けるのでかなり悲惨なことになります。古くは昭和21年のデーモンコアを使用したスローティンの臨界事故や、最近では平成11年の東海村JCO臨界事故はこれに該当します。
しかし即時の致死量には届かない”中途半端”な線量でも、自然界には有り得ない程度に多量であれば、それはそれで破壊された遺伝子が被曝以降に癌細胞を作り続けることになります。これこそが東日本大震災や福島原発に関連する記者会見で枝野官房長官(当時)が「直ちに危険ではない」という表現を用いた(現場担当者や専門家から吹き込まれた)理由でしょう。
そして、このように長きに渡って人々を蝕んで苦しめるからこそ、核兵器は非人道的であると強く非難されるし、原発関連の職域では被曝量を厳重に管理されるのです。
しかし裏を返せば、アメリカで原子爆弾の正しい理解が進むことは、昭和20年の広島長崎への原爆投下を「戦争を終わらせるための手段」として正当化してきたロジックに疑問を投じることに繋がります。これはアメリカの大衆向けエンタメ映画で原爆が深く語られてこなかった理由の一つでしょう。
このような経緯に鑑みるとワーナーでは、報道されているようにはオッペンハイマー(と核兵器)を現実志向でシリアスには描けないと思うんですよね。特にノーランのようにリアリティに拘る監督の場合は。しかもノーランはイギリス出身であり、アメリカ出身ではないですから。アメリカ人よりは客観的に問題を捉えていそうに思われます。(当時から同盟国であった以上、イギリスの責任はゼロではありませんが)
よってノーランが制作スタジオを変更したのは、本質的には自由なクリエイティビティを求めてだと私は推察しています。次回作のオッペンハイマーではどうなるか楽しみです。
というわけで。
アルゴリズムが起動しなかったのは、ちょうどセイターが絶命するタイミングで”原子爆弾型の起動装置”から場所を移動させていたから、という結論に私は至りました。
さて。
最初にお断りした通りですが、この説は正しくない可能性が高いです。
ノーランの趣味志向からかなり深読みしての考察だったのですが、もっとシンプルに、私は”ある一点”を誤解していました。
それについては、一つ前の記事に書きました。
興味があれば併せてご覧ください。
(でもその前にこの記事のスキを押すのを忘れないでね♡)
了。