カラーパープルがリメイクで捨てたもの
85年版が好きな人間としてこれは書いておきたくて。
▼シリアスさ:
1985年版は小説から直接映画化したので、主人公が受ける熾烈な女性差別(と黒人差別)がじっくり描かれます。虐待を受けて育った女性が映画の中盤までうまく笑えないという演出がとても胸に響きます。前半がシリアスだからこそ、後半のカタルシスも強くなります。
一方で2023年版は小説から一度舞台演劇にされて、そこから映画化した物です。つまり小説の映画化ではありません。舞台ミュージカルの映画化なのです。このため、かなり序盤から主人公が自分の思いを歌に乗せて表現することになります。この点は虐待被害者が人生をかけて人間性を取り戻すというストーリーとの食い合わせの悪さを感じました。
たぶん舞台だと照明なども使って雰囲気を変えるなど出来たと思うのですが、今回のミュージカル映画ではその線引きというか演出が曖昧だと感じました。同じ会社で制作した2021年のウェストサイドストーリーではこの点は失敗してなかったと思います。あれはスピルバーグ監督の手腕なのか、題材の扱いやすさだったのか。
せめて23年版カラーパープルでも「はあ、想像の中でなら上手く笑えるのに」みたいなセリフを主人公に言わせれば、また印象も大きく変わった気がするんですけどね。
▼手紙:
カラーパープルの原作小説はウィキペディアにこう書いてあります。
この書簡体小説というのが重要で、要するに手紙の文面の形で語られる小説なので、85年版の映画では主人公のモノローグで「Dear God(親愛なる神さまへ)」から始まるの手紙の文面を読み上げるのが特徴です。
だからこそ物語序盤で妹から読み書きを教わる場面や、後半である人物から届いた手紙を読む場面の意味も大きくなります。
これが23年版ではごっそりカットされるので、文学的な要素は大きく削がれますね。私が23年版に物足りなさを感じるのはここが大きいと思います。
加えて手紙に書いていた文面を23年版ではあらゆるキャラクターが歌詞やセリフで全て喋ってしまうのでモノローグがあったよりも説明口調に感じてしまうという面もありました。まあこれはミュージカルだから避けられないことのようにも感じますが。
▼23年版は駄作ではない:
「失ったもの」という見出しで書いた記事ですが、私は23年版がダメ映画だとは思いません。あの時間内で、現代社会に合わせて、とても見やすくてイケてる映画なのではないでしょうか。そもそも舞台演劇の映画化ですからね。あれが正解でしょう。
そこだけは誤解されたくないので書いておきます。
最後はちょっとおまけ的な要素として。
▼時系列:
2月9日、ふと思い出す。昨年12月LAでの衝撃を。
2月10日、急いでAppleTVでレンタルして視聴(初)。傑作。
2月11日、さっそく映画館で最新作を観覧。佳作。
同日、記憶が鮮明なうちに旧作を再確認。やはり傑作。
2月12日、改めて整理。
色んな作品をたくさん観るのも良いけど、一つの作品やテーマを短期間に何度も観るのも楽しいですね!
(了)