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サブスクで映画マニアは育たない?

映画監督のクエンティンタランティーノは映画マニアでもあるが、彼が映画マニアになったのは若い頃にレンタルビデオ屋で働いていたのが大きい。そこで立場を利用して無料で古い映画を観まくったのだ。無数に映画を観れるという点では最近のサブスクも一見似ているように思える。

しかし、サブスクとレンタルビデオ屋は似てるようで違う。

レンタルビデオ屋では《映画好き》が興じて《映画マニア》に進化する材料が揃ってる気がするが、サブスクではその進化は起きにくそうだと思われる。

◆サブスクの弱点とは?

それはネットとリアルの本屋の差異と似ている。

ずばり、「一覧性」である。

PCやスマホでは一度に表示できる作品数に限界がある。かたや実店舗は巨大な棚で一覧できる。

想像してみてほしい:今あなたがこのnoteを読んでいるPCやスマホの画面のインチ数にもよるが、そこにサブスクサービスで一度に最大何件の映画をリスト表示できるか。

例えば私のネットフリックスのホーム画面なら24本。

それに対して、レンタルビデオ屋に行けば、あなたの目の前にはそのモニター画面の何十から何百倍もの巨大な棚がドドンと腰を据えて構えている。つまり一度に手に入る情報量が格段に違う。

レンタルビデオ屋の典型的なイメージといえばこんな感じ。
出典:https://domonet.jp/plus/post?id=137

リアル店舗の本屋やレンタルビデオ屋に行けば、自分は圧倒的な情報量の中に身を置いているのだ、ということを体感して思い知ることができる。この情報量が好奇心や学習欲を刺激して、マニアへの誘いとなる。

(Interstellar, 2014)

タランティーノだって若い時にレンタルビデオ屋でバイトしてた時に、立場を利用して無料で大量に観まくったから映画マニアになれた。

もちろん幼少期に一回でも劇場を体験しておいた方が、大きな感動が記憶と心に深く刻み込まれて、成長した時に好奇心や学習欲の原動力になることは大いにあるとは思うけれども。情報量は間違いなく鍵になるだろう。

少し話が逸れるが、私は田舎から東京に出てきて、世間に鉄道マニアが居ることにようやく納得できた。それは東京で山手線や渋谷駅を利用することで、これだけ沢山の種類の電車や駅が身近にあって、それぞれが綿密に計算された高度なオペレーションをこなしているのを目の当たりにすれば、それだけ発見のポイントが増えて、そりゃ好奇心を満たすだろうと考えたからだ。

同じように、レンタルビデオ屋で「一生かけても観れるか判らない物量の映画」に触れて圧倒されるのは、映画マニアへの鍵になりそうだ。

さらにサブスクには他にも弱点がある。

最近のサブスクはアルゴリズムが進化して、少し利用するだけあなたの好みを分析して、その好みに合う作品ばかりが優先表示されるので、自分の好みの範囲を広げてくれるような「意外な作品」が目につきにくい。これではマニアへの道はますます遠のくだろう。

例えば、最初に『アイアンマン』を観たら、次にサジェストされるのは似たようなヒーロー映画が中心で、それを繰り返すと自分用にカスタマイズされたホーム画面はヒーロー映画だらけになる。こんな状態ではヒーロー映画に飽きた瞬間にサブスクにも飽きたと感じるリスクが高い。

ということで、一覧性と意外性の2点かな。サブスクが弱いのは。

もちろん価格優位性などサブスクが勝ってる部分も沢山あるけどね。


以下、余談。

◆映画マニアは「格上」なのか?

ちなみに、念のために書いておくが、私は《映画好き》から《映画マニア》に変わることを「進化」と表現したが、別に映画マニアの方が優れているとは考えていないですよ。

進化って必ずしも「優れたものになること」ではないので。

ピカチュウがライチュウに進化したら可愛くなくなるやろ。世界中で人気のポケモンのアニメでピカチュウがずっと進化しないのは、進化する前の方が可愛いからやろ。だから進化が必ずしも良いことになるとは限らないのよ。

ヒトカゲはリザードンになってるのに、ピカチュウはピカチュウのまま。

映画好きと映画マニアの違いは情報量である。

それはマニアという言葉の意味を知っていれば自明である。

マニア mania
特定の分野・物事を好み,関連品または関連情報の収集を積極的に行う人。「鉄道―」「切手―」 →おたく(御宅)

おたく
俗に,特定の分野・物事を好み,関連品または関連情報の収集を積極的に行う人。狭義には,アニメーション・テレビ-ゲーム・アイドルなどのような,やや虚構性の高い世界観を好む人をさす。「漫画―」〔④は多く「オタク」と書き,代名詞としてこの語を使う人が多いことからの命名という。1980年代中ごろから使われる語〕

a maniac | méɪniæ̀k | 
(1) mania | méɪniə | は「熱狂」の意で, 人はささない.
(2) 病的なまでの執着心を含意) , an enthúsiàst.

大辞林,ウィズダム英和辞典

マニア=関連品または関連情報の収集を積極的に行う人、やで。

だから映画好きは誰でも名乗って良いけど、映画マニアを名乗るにはそれなりに多くの知識が必要にはなるね。

誰だって最初は知識ゼロからのスタート。それが「知識ゼロ→知識ある」の変化なので、それは「進化」と呼ぶべきでしょ?

繰り返しになるが、映画好きと映画マニアの違いは知識が無いか有るかだけで、それは趣味の選択肢の結果でしかないので、知識が無くても人間として劣るということにはならない。

映画マニアじゃなくても、たまたま映画全般の知識が無いだけで、ある特定の作品をすごく好きだとか、深い意味は正直わからなくても俳優が好きだとか、友達を大切に優しい心を持ってるとか、釣りが好きで魚には詳しいだとか、その人が情熱を注ぐものが他にもあるでしょう。逆に言うと、映画マニアはたまたま映画の知識が豊富なだけで、それで人間として優れているということにもならない。

◆本稿の着想きっかけ:

きっかけになったのはわがままコブラ氏のツイートだった。

一介の映画好きとして思うのは、過去に短期的にU-NEXTとNetflixに入っていて、今はたまにアマプラで映画見るけど、サブスクだけではまず映画マニアは育たないなと思う。サブスクが巨大なプラットフォームであるのは間違いないが、とはいえ熱心に映画をディグるにはあまりにムラがある。

TSUTAYAの発掘良品コーナーなんかは、痒いところに手が届くサービスとして、やっぱり良かったよな。

自分はどちらかといえば映画館よりもテレビとレンタルビデオで育った映画マニアだから、サブスクで映画を見るのとあまり環境的には変わらん気はするが、それでもサブスクがそれらに代わる使い勝手の良さがあるとは今のところ思えない。ただ、全否定ではなく、一つの手段として有った方が良いとは思う。

とはいえ、サブスクだけがメインでは、やはりディープに映画をディグるのは無理だろう。そこを補助するほどの深さや広さは今のところサブスクにはない。音楽の方はかなり充実していそうな印象はあるが。

元々、映画館やレンタルビデオ屋が少ない地域などは、サブスクで大いに助かる映画マニア(特に若年層)は多いだろうから、そういう良い面も当然ながらあるだろうけど。

わがままコブラ 2024年12月13日 11時00分

ここで語られていることをツリーまで含めて要約すると「映画マニアになりたければU-NEXTとNetflixとアマプラでは役不足。理由はサブスクは作品数が少ないから。昔ながらのレンタルビデオ屋なら映画マニアになれる」になる。

この意見には基本的に同意する。

ただ、すでに映画マニアになった人(コブラ氏)から見えるサブスクと、これから映画マニアになるかもしれない人から見えるサブスクでは、サブスクが映画マニアに向かない理由は少し異なるかな、と着想を得たので本稿を書いた次第。

あとコブラ氏は、音楽サービスではサブスクがマニアの育成に比較的上手く行ってる印象があるとも書いてるが、それはたぶん音楽はザッピング感覚でで試聴するのが映画より簡単だからじゃないかしら、と思われる。2時間かかる映画と、5分で終わる音楽では、トライアンドエラーの回数が大きく異なる。

(了)

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まいるず
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