ガル・ガドットがワンダーウーマンとして帰ってくる!と先日Twitterで話題になりました。これにはカムバックを素直に喜ぶ声から、ヘンリー・カヴィルを切っておいてよくそんなことができるな!という新体制の批判まで、多種多様なリアクションがありました。
しかし、どうやらガル・ガドット自身はワンダーウーマンを演じる気持ちが無さそうだと判明したので、それを解説したいと思います。
▼報道内容の確認:
まず事実確認として、Twitterトレンドの原因になったメディア記事を2つほど引用しておきます。
ちゃんとソースになった英語記事まで読むと判るのは、まずこの話題は全く関係ないガドットの新作映画の宣伝用のインタビューで強引に挟まれたものだったということです。新しい映画をアピールしたいのに、いつも有名すぎる過去作のことばかり訊かれて気の毒だと思います。
THE RIVER は過去にデヴィッド・エアー監督の主張を180度誤解して記事にしたこともありましたが、今回は当該サイト創設者でもある中谷直登氏が執筆したこともあってか、かなり慎重な翻訳だと思います。
▼気になるガドットの言葉選び:
RIVERの記事で少し気になるのは「portray」を「演じる」と翻訳して良いのか、という点です。一般的に俳優が役柄を演じるときは「play」を使います。そこをガドットが敢えて異なるワードチョイスにしていることは記憶に留めておきたいと思います。
portrayの意味を英英辞書を引いて確認しておきます。
もちろん「役者として演じる」という意味で使う時もportrayにはあるのですが、どちらかというと著者や画家や彫刻家のような神の視点(創造主)から何かを表現するときに用いられる単語であり、本人が自分のことを語る場面にはあまりマッチしない気がします。
また映画の場合は、プロデューサーというのがまさにportrayをする役割に当たります。米国では音楽や映画の現場でプロデューサーの発言力がかなり強く、作品全体の仕上がりに大きな影響を与えますし、作品の功績をプロデューサーのものと見なす文化もあります。(*日本だと消費者からは軽視されがちですが)
参考までにワンダーウーマンの過去2作品のプロデューサーの名前を並べました。太字にした部分は人事に変化があった人達です。逆に言えば、ワンダーウーマンの作風が続編で大きく変わったのはこの人達に原因があると言えます。
RovenとSnyder夫妻は『マン・オブ・スティール』の時からDCEUに関与している人達です。Rovenに至ってはダークナイト三部作のプロデューサーでもあります。最近の動向を見ているに、このトリオが3作目のプロデューサーに名前を連ねる可能性は相当低いでしょうから、もし映画が完成しても作風はさらに大きく変わるでしょう。
役を演じるだけならplayという明確な単語があるのに、ガドットが敢えてportrayをチョイスしたことが気に掛かります。単純に演じるだけではなくて、プロデュースまで含めたニュアンスを感じます。
しかし、ちゃんとソース(ComicBook.com)まで辿った人はおめでとうございます。
このガドットの発言には日本では報道されていない後半パートがあり(苦笑)、さらに海外メディアが文字起こしした時点で悪質な改変が加えられていたことが判りました!(衝撃)
▼隠されていたインタビューの全貌:
さて、実態を把握するために残された唯一の方法。それは、ソースとなった海外メディア(ComicBook.com)では、このインタビューでの実際の質疑応答を《動画で視聴》できるのです。
そもそもどんな質問だったのかも重要なので、前後の文脈を補うためにも改めて当該Q&Aの全体像を文字起こししたのがこちらです。
太字にした部分はComicBook.comとTHE RIVERで省略されたか、もしくは特定の単語を改変したことで意味が変わってしまった部分です。
少し長いので以下に要約します。
…これらの発言からガドットが次もワンダーウーマンを演じると判断するのは早計というかガドット推しの願望を込めすぎじゃないでしょうか。1つずつ分解して見ていきましょう。
1)ワンダーウーマンの演技は過去の話
まずこれが最初にして最大のツイストなのですが、ガドットが大好き(love)なのは、表現すること(portraying:現在進行形)ではなくて、表現したこと(portrayed:過去形)です。これが大きく違います。
これはソースのComicBook.comでさえ現在進行形で書いてるので、動画を視聴するまで判りませんでした。
なので、彼女はあくまで《これまでのワンダーウーマン女優としてのキャリア》を大切に想っていると述べただけです。
彼女が過去を大切にすることについては異論ありませんよね、WWは彼女を世界的なスターに押し上げた役ですから。ザック・スナイダーが彼女を抜擢しなければ、彼女は《昔ワイルドスピードに出演したことがある綺麗なお姉さん》で止まっていたかもしれません。
2)第3作の話をする前にワンクッション
ガドットがWWへの想いを語った直後、新作の話を始める前に一度呼吸を整えます。いま発言して良いことと、発言できないことを頭の中で整理しているように見えます。
つまり、ガドットがWWのキャリアを大事にしている話と、これからWWの第3作が作られる話は、全くの別件です。
もっと言うと、ジェームズ・ガンのスーサイドスクワッド(新スースク)だって、便宜上「スーサイドスクワッド2」と呼ばれたこともしばしばありましたから、ワンダーウーマン3が『WW84』の直接的な続編である保証はどこにもありません。
3)新キャストにエールを贈る
ここは一番不自然なパートです。
WW役のガル・ガドットが、なぜスーパーマン役のオーディションの撮影テストを見ていたのでしょうか?
もしかしたら、サフラン&ガンとミーティングした時に、彼女は参考までにビデオを見せてもらった可能性はあります。しかし、あれだけSNSで話題になった翌日に彼女は誰が役を勝ち取ったのか知りませんでした。
私には、やけに不自然に見えます。
あるいは、次のワンダーウーマン女優のオーディションや撮影テストも裏では始まっていると考えるのが妥当ではないでしょうか?
もう一度ガドットの発言を引用します。
ガドットがWWの次回作にプロデューサーとして参加するなら、次のWW女優のオーディションに参加するのは自然、というか当然だと言えます。
ガドットがここまで候補者を褒めるのは、新人WWが発表された時に、一部の厄介なファン(古参)から反対意見や罵詈雑言が飛んでくるのを防ぐための、第一歩だったのではないでしょうか。
4)話しているガドットの表情
こればかりはリンク先の動画をご自身の目で確認していただきたいのですが、ガドットが言葉を選んでいる時の表情によく注目してください。何か言えないことがあって、言葉でうまく逃げている時の目の動きですよ、これは。
少なくとも「あなたは次の作品でも演じ続けますか」と無邪気に質問しているインタビュアー(とその向こう側に居るファン)に対して、「はいその通りです」と笑顔で答えているテンションや表情ではないです。
動画への直接リンクをここに貼っておきます。1分ほどの短い動画です。英語字幕を出すこともできます。さきほどから何度も引用しているComicBook.comの記事からも普通に視聴できます。
▼まとめ:
ここまで述べてきたことから、ガドットの発言からは少なくとも彼女自身が今後も同役を続けたいという強い意志は感じられないこと。そして、今後は彼女はプロデューサーとして参加して新人女優の育成に努めると考えた方が自然に読み取れるということ、の2点を解説してきました。
メディアには《報道しない自由》があるというのはよく揶揄されますが、今回もまさにそれだったというか、ぶっちゃけ初出のComicBook.comのタイトル詐欺だった、というのが実態でしょうね。
ガル・ガドットのWWが大好きだ、という人の気持ちに付け入って騙すような記事タイトルでアクセスを稼ぐメディアって嫌ですよね〜。
ComicBook.comが仕込んだportrayの時制トリック(-ing/-ed)に騙された形になるので、二次情報で記事を書いたメディアの人達もまあまあ気の毒だったと思います。ただ、こういう間違いや誤植はネットでは日常茶飯事なので、私は特に怒りは覚えないですかね。あくまで彼らも純真に騙されたという仮定での話ですけど。
了。