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マトリックス三部作をわかりやすく整理

マトリックス・レザレクションズ公開が近づいてきたので整理します。

#内容と結末に言及しているので未見の方はご注意ください。

▼マトリックス:

第1作。
原題:The Matrix
公開年:1999年(平成11年)
物語のベース:不思議の国のアリス
映像的な目標:攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL(1995年)
時代背景:インターネットが当たり前になってきた頃

あらすじ:ある青年《ネオ》はハッカーとしての手腕を買われて、機械による仮想世界《マトリックス》から抜け出した人々《ザイオン》にリクルートされる。預言者《オラクル》の言葉通りにトリニティに愛されたことでネオは救世主として覚醒し、マトリックスのコードを自由に操れるようになり、迫ってきた危険因子削除プログラム《エージェントスミス》を破壊する。

●時代を敏感に捉えた設定:

日本では、それまで支配的だったポケベル市場をケータイ電話があっという間にかっさらっていき、iモードやミクシィを通して大人から中高生まで幅広い世代が、PCも持たないのにインターネットに触れ始めた時代でした。当時のインターネットは有象無象の信頼性が置けないものであり、ましてや2ちゃんねるはディープで危険なモノとして一般人からは禁忌されていました。

そんな時代において、人間は実は機械に繋がれていて、いま五感で認識しているものは全て脳への直接的な電気刺激に過ぎない、というアイデアは革新的でした。それまでも「ここではないどこか」への憧れは夢物語ファンタジーとして提示されることはありましたが、現実が虚構だったという設定は当時はかなり目新しかったと思います。それはまさにリアルタイムの現実世界でインターネットを通じて身体的な制限を超えて意識が広がっていく感覚ともマッチしていて、非常に強く大衆の心を掴むことになりました。

●強烈すぎたビジュアライゼーション:

似たような設定の既存作品はあったかもしれませんが、一度見たら忘れられないような強烈なビジュアルを提げてセンセーショナルにプレゼンテーションできたことが、本作が映画史における偉大なる一歩ジャイアントステップとして評価され続ける理由でしょう。

1995年の日本アニメ映画『攻殻機動隊』は国内に留まらず、むしろ海外で高い評価を得た作品(当時の日本でのアニメの市民権はどうしても低かったので仕方ない部分があると思います;今や国民的アニメのエヴァンゲリオンでさえ大人達からは好奇の目で見られていました)でした。その圧倒的なビジュアルをそのまま実写に表現してしまったのは、当時私は高校生でしたが、はじめてテレビで予告編を見た時に受けた衝撃を今でも覚えています。

20年経っても色褪せないヘリ爆破シーン

大友克洋のコミック版『AKIRA』でも共通して言えるのですが、一部のバンドデシネを読んでいると、時々思わず手を止めて詳細に描かれた絵を注意深く見つめたくなる時があります。マトリックスのアクションシーンで多用されるスローモーションはまさにそうした体感時間の再現であると言えるでしょう。そしてこの手法は後にザック・スナイダーに受け継がれて更に洗練されていくことになるのでした。

●社会現象を起こしてアイコンになった:

社会的な影響力は絶大で、飛んでくる銃弾をのけぞって避ける動きは、説明しなくても誰でもわかるネタになりました。欽ちゃんの仮装大賞でもやってる人がいましたし、たぶん一発ギャグとしても「生まれたての子鹿」に匹敵するくらいには認知度があってウケたと記憶しています。たった1作のオリジナル映画でこれはスゴイことです。

ファッションも印象的で、内村光良がそれまでのジャッキーチェンのキャラを捨てて、黒スーツ(またはコート)に黒サングラスという衣装で内村プロデュースを始めたのもこの直後からで、当時若かったテレビ視聴者は先にウッチャンを見た人も少なくないのではないかと思います。※これに関してはメンインブラック(1997)やレザボアドッグス(1992)やブルースブラザース(1980)の影響もあるかもしれませんけどね。ただウッチャンの風貌が一番近いのがキアヌなのよ。笑。

これ完全にマトリックスやんけw(そこは言わないお約束)

▼マトリックス・リローデッド:

第2作。
原題:The Matrix Reloaded
公開年:2003年5月(平成15年)
物語のベース:ノアの方舟
映像的な目標:
時代背景:9.11の後。アフガニスタン紛争からイラク戦争に移行した頃

あらすじ:ネオはオラクルの預言に従ってソースコードにたどり着く。待っていた創造主《アークテクト》はネオに、マトリックスとザイオンをリセットしてバージョンアップするか、現行を維持して全人類と共に絶滅するかの選択を迫られる。マトリックス内のトリニティを救うために迷うことなく現行維持を選んだネオだったが、現実世界では機械軍団がザイオンに迫っているのであった。

●タイトルの意味:

リロード=①もう一度読み込む②詰め込み直す

シンプルに「もう一回マトリックスを見ようぜ」という意味にも取れます。

最後まで見ると「このマトリックスは何度かやり直しされていたものだった」ということがわかる構造(タイトル回収)になっています。

●アジアの台頭とアフター9.11:

2001年3月から2002年8月にかけて撮影されており、間にアメリカ同時多発テロが起きています。すでに脚本完成済みだったからかそうした世界情勢に対しては距離をおいた物語になっているかと思われます。ただし、もし撮影開始があと半年以上遅かったら悪役ポジションに中東系の俳優が起用されていたかもしれませんね。

第1作に比べて印象的なのはアジア系の出演者が増えたことです。オラクルの秘書であるセラフは中国人ぽくて、キーメイカーは日本人ぽいです。どちらも物語の上で非常に重要な配役です。更には本作から映像化されるザイオンでは貧困階級にインド系と思われる人が多く、また集会とダンスのシーンではアフリカ系のエキストラ俳優も多く、アングロサクソンが圧倒的だった前作と比べてかなり印象が変わります。

これは前作から世界観を広げるという制作上の意図もありそうですが、やはりそれ以上に1990年代と2000年代ではグローバリゼーションの度合いが違うからだろうなと思わせます。

そして2003年当時の米国では後に大問題になるサブプライムローンがガンガン膨らんでいて、どんどん高騰する住宅価格に、本来ならとてもキャッシュを用意できないような信用情報の低い人達がガシガシ投資しはじめて、実態を遥かに上回る成長スピードで市場規模が拡大していました。いわゆる中流以上の白人層ではない移民中心の低所得者層がどんどん経済活動での存在感を増していた訳ですね。撮影時期が2001年なので偶然かもしれませんが、そうした社会事情を先駆けて捉えていたと言えるかもしれません。

●短いスパンで2作公開するスタイル:

本作はBTTFと似ていて最初から2本まとめて撮影して時期をずらして公開するスタイルで作られました。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(Back to the Future Part II)は1989年のアメリカ映画で、シリーズ3部作の2番目にあたる。シリーズの2作目と3作目は同時に製作され、6ヶ月間の間を空けて公開された。

ウィキペディアより引用

公開を空けてる期間まで完全に一致していました。笑。

要するに「前編・後編」商法ですね。最近の大作ハリウッド映画に増えてきた3時間に無理やり詰め込むスタイルより、私はこちらの方が好みです。

そして直後に次回作が控えているので、本作は完全なるクリフハンガーとなっています。(作劇手法の一つで、劇中で盛り上がる場面、例えば主人公の絶体絶命のシーンや新展開をみせる場面などを迎えた段階で結末を示さないまま物語を終了とすること)リアルタイムで観てたら半年間楽しかっただろうに損したなー。笑。

●目新しさには欠けるが上質なビジュアル:

まだ誰も(実写では)見たことがなかった映像を提示してくれた第1作とは異なり、本作ではそこまで革新的な映像表現はなかったと言えるでしょう。どれも「どこかで見たことがあるもの再構築」の域は出ていなかったと思います。ただし、いくらレシピと素材が同じでもシェフの腕の良し悪しで料理の味が全く変わってしまうように、本作は優れた技術が遺憾無く発揮された上質なアクションシーンが豊富です。

特に私はカーチェイスのシークエンスは1カットだけ切り取っても普通なのですが(それゆえに予告編などは平凡に見える)、シーン全体を通して見ていくと段取りも構図も上手に構成されており、かなり見応えのあるカーチェイスになっています。こればかりは実際に120分の映画の中で効果が発揮されるものなので、未見の方にはぜひ視聴いただきたい所です。

また本作は典型的なファムファタールとして、イタリアの至宝モニカ・ベルッチが出演しています。先程とは逆の理論で、たとえ素人が作った料理でも素材が良ければ美味くなるように、当時世界で最高クラスの食材を用意しただけであのシーンは勝利したと言えるでしょう。本当に物語にほとんど関係しないのに、ただスゴイ美女というだけで出てくるのが、おかしいし、ロマンを感じますね。笑。

●物語のベースはノアの方舟:

途中まで全ての人類を機械から解放する物語だと思っていたら、最後に現れたラスボスに強制的に『ノアの方舟』のごとく、限られた人間を選別して、残りの人間は抹殺してイチからやり直せ(創世記における大洪水)と言い渡されたのには、初見時にはかなり驚きました。

ここから一気にマトリックスは創世記モードに入り、ネオは救世主という称号通りにイエス・キリストか預言者かのように振る舞い始めます。

▼マトリックス・レボリューションズ:

第3作。
原題:The Matrix Revolutions
公開年:2003年11月(平成15年)
物語のベース:キリストの復活
映像的な目標:
時代背景:イラクで大量破壊兵器が見つからず泥沼化してきた頃

あらすじ:機械軍団とザイオンの激しい戦闘が続く中、ネオは機械都市に潜入し、コンピューターウイルス《エグザイル》になったスミスを消去する対価として、機械と人間の平和を保障する契約を機械都市の神《ゼウスエクスマキナ》と結ぶ。ネオは自身をスミスと同化することでスミスの破壊コードを獲得してスミスと共に消滅し、ゼウスは契約を守り、機械都市とマトリックスとザイオンの三者に「平和」が訪れる。

●タイトルの意味:

レボリューション=①(暴力的手段による)社会的秩序の転覆②回転

本作は「人間が機械に反乱することで自由を勝ち取る戦い」と見せかけて、実際には「ネオが機転をきかせて機械と人間の平和をもたらす」物語でした。だから本作では暴力のない(無血の)革命を達成したことになりますね。

結論から見ると、どちらかというとイノベーションの方がタイトル回収としては適切なワードチョイスなのかな、と思われます。(そんなタイトルにしたら英語がわかる人には面白みが減ってしまうのですが;レボリューションによる戦いだと期待させて違うのが面白いため)

●物語のベースはキリストの復活:

前作リローデッドで聖書のモチーフ(ノアの方舟、顧みて前半はモーセの出エジプト記とも言える)が大々的に使われましたが、本作でも同じく聖書をベースに展開しました。劇中で目に傷を負ったのは「聖痕」の代わりであり、最後に自己犠牲として命を落とすのは「贖罪」または「キリストの磔刑」であり、マトリックスに訪れた夜明けの光は「復活」または「キリストの昇天」だと捉えて良いでしょう。

キリストのように人類の罪をすべて背負って命を落として、残りの人類に救いを与えた訳ですね。超簡単に言うと。

●壮絶なザイオン戦闘シーンの迫力:

前作と同じく途中からイエスの復活に物語がシフトチェンジした時点でハシゴを外された形にはなるのですが、機械軍団《センチネル》とのザイオンの戦闘シーンはなかなかの迫力です。

前作までは個別に人間を襲ってきたセンチネルがイワシの魚群のように大量に覆い被さってくる様子は恐怖ですし、それをマシンガンでボロボロ撃ち落とす描写も凄みがありました。約20年前なのにCGIには見劣りがほとんど無く、これもまた見せ方上手いからでしょう。2003年時点でこの映像を作ったのだから相当スゴイと思います。

戦闘部隊の隊長の名前はミフネと言って、これは三船敏郎から取ったらしいのですが、そこから考えると『七人の侍』のようなアタマ数でも個人の強さでも劣る非力な軍団が城をうまく活用して戦いに挑むシークエンスを引用していたのかもしれませんね。

●本作がスッキリ終われてない理由:

そもそも聖書をベースにしているとか、結末が観念的な描写であるとか、物語の理解を難しくしているのも理由ではあると思いますが、それ以上に私が気にしている理由があります。

前に別記事でも書いたのですが、本作では「とりあえず、機械とマトリックスとザイオンで平和調停が結ばれただけ」です。

第1作でモーフィアスは機械に繋がれた人間を解放するために活動していたのだと思いますが、本作では機械がもうザイオンに攻めて来なくなった代わりに、まだマトリックスに繋がれている何十億人の人類はそのまま機械に繋がれてパワープラントとして眠ったまま頑張り続けている訳です。

素朴な疑問なのですが、これを放置したままで良いのでしょうか。

これは、まさしく現代社会における格差社会をそのまま表していて、ほんのひとにぎりの富裕層と、圧倒的多数の貧困層の構図に当てはまります。よく言われる「1%の人口が90%の資産を抱えている」みたいなアレです。

第1作で裏切り行為を働いたサイファーのようにマトリックスに繋がれたままの方が幸せだと思う人もいて、なんとも複雑な問題ではありますが。

ザイオンで活動している人達の目標とかゴールって何なんでしょうか。数少ない選ばれし者達だけが幸せになれれば、それで良いんでしたっけ?

社会格差の問題はこの20年で語られることが多いに増えた印象なので、ひょっとしたら最新作レザレクションズではテーマになっているかもしれませんね。一つ心構えとして持っておこうかと思います。

▼各作品の詳しい考察:

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リローデッドとレボリューションズについては、セリフ原文を綿密に辿りながら考察した記事もあるのでここで紹介させてください。

それでは、またお会いしましょう。👋

了。

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まいるず
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